接種率微増の「子宮頸がんワクチン」 本当に安全?接種後の“多様な症状”は? 4月に定期接種の推奨を再開したワクチンの「今」を徹底取材 2022年12月21日
2022年4月、国は子宮頸がんを予防する「HPVワクチン」定期接種の積極的な呼び掛けを、9年ぶりに再開しました。
一時は接種率がほぼ0%にまで激減した、ワクチンの“今”を取材しました。
■毎年3000人が命を落とす子宮頸がん
【助産師 森重朝子さん】
「子宮頸がんって知ってるかな?子宮の首みたいなところ、ここを子宮頚部といいます。ここにできるがんを、子宮頸がんといいます」
大阪府豊中市の小学校で5年生に向けて行われた「性教育」の特別授業。この日、助産師の森重朝子さんが特に伝えたかったのは、子宮頸がんとワクチンの話でした。
主に性交渉で感染するHPV=ヒトパピローマウイルスが原因で毎年1万人が子宮頸がんにかかり、およそ3000人が命を落としています。
【助産師 森重朝子さん】
「性交で8割の女性が感染するけど、多くは体の免疫で自然に治る、ほとんどの人はね。でも、感染が続いた人にがんが発生する。感染したからといっていきなりがんになるわけじゃない、数年から十数年かけてがんになっていく。じゃあどうしたらいいか。HPVワクチンを打ってくださいと」
【5年生】
「ちょっとだけ聞いたことあったけど、交通事故より死亡者数が多かったのは知らなかった」
「子宮頸がんのことは知っていたけど、ワクチンがあるということは知りませんでした」
子宮頸がんワクチンについて、国や自治体は2010年以降、小学6年~高校1年の女性を対象に「積極的な接種」を呼び掛けていました。
しかし、接種した後に体の痛みなどさまざまな症状が報告されたことを受けて、2013年6月~2022年3月のおよそ9年間は積極的な呼び掛けを行わず、接種する人は激減。ワクチン接種が滞ったことで、深刻な事実が明らかになってきました。
【新潟大学 特任教授 榎本隆之医師】
「子宮がん検診に来られた方を調べて細胞診(細胞を採取しての検査)異常の発生率を見ますと、ワクチンを打っている世代と打ってない世代では、明らかに細胞診異常の率が上がっていますね」
榎本教授の研究によると、積極的な呼び掛けが中止され接種率が激減した世代で、HPVウイルスへの感染率が急増していることが分かりました。
【新潟大学 特任教授 榎本隆之医師】
「検診にも来られない方で知らない間に細胞診異常が出ている人は、今後10年、20年後に実際に発がんされていると。場合によっては、かなり進んだがんになっている可能性はあり得ると思いますね」
■「9価ワクチン」も定期接種の対象に
感染率の急増を受け、国は2022年4月から接種の積極的な呼び掛けを再開し、チャンスを逃した世代も無償で受けられる「キャッチアップ」制度を開始。
さらに来年度からは、9つの型のウイルスに対応した「9価ワクチン」も定期接種の対象にする方針を決めました。
こうした動きを受け、再びワクチンを接種する人が増え始めています。梅田のクリニックには、2022年の春以降、およそ250人が接種に訪れました。
【キャッチアップで接種(21)】
「自分にも関係ある病気だと思うので、今のタイミングで打つことにしました。友人も16歳未満で打っていたりしていたので、それを聞いて、私ももうちょっと早く打ったら良かったなとか思います」
中には、よく考えた末に接種にやってきたという14歳も…
【14歳】
「友達にも打った人が数人いて。結構TikTokとかSNSでも『打つべきか?』みたいなのが流れてきたときがあったから、打った方がいいんかなって」
【母親】
「副作用とかも不安はあったけど、調べているうちにそうじゃないんじゃないかと思って。先進国と比べても、打ってない人が日本が多いので、打っていくべきかなと」
【W Feminaクリニック 宮崎綾子院長】
「性交渉で、8割以上の人が1回は感染するといわれているありふれたウイルスですので、安全性に対する懸念を完全に払しょくするのは難しいかもしれないですけど、それよりは打つことのメリットを大切にして考えていただけたらと思います」
■知っておいてほしいワクチンの今
子宮頸がんワクチンで大きな動きがあった2022年。「知っておいてほしいワクチンの今」を、取材した加藤さゆり記者が解説します。
HPVワクチンは2013年度に定期接種になりましたが、体の痛みなどを訴える人が相次いだため、すぐに停止となりました。その後、ほぼ0%だった接種率は、安全性に特段の疑いが認められないという研究結果を受けて、2019年ごろから徐々に上昇。
2022年4月に積極的な接種推奨が再開し、7月までの間で、10政令市で16.6%という接種率になりました。
しかし海外に比べると、接種率は低いままです。接種後に“多様な症状”として、体がだるい、めまい、過呼吸、ひどい頭痛、視野の異常など24症状が、慢性的に起こると報告されたことが理由とみられます。
ただ、厚労省や名古屋市の調査では、ワクチン成分との関連性は認められないという結果となりました。記者が取材した医師からも、思春期に打つワクチンなので、針の刺激で発症した可能性が高いのでは、という指摘がありました。
不安を軽減するため、国はHPVワクチン接種後の症状を診療してくれる病院を選定しています。各都道府県に1つ以上、全国88カ所の協力医療機関を設置しています。
HPVはどこにでもあるありふれたウイルスで、女性からの感染も男性からの感染も起こります。現在、男性のワクチン接種も検討され始めていて、女性を守ることはもちろん、HPVへの感染が一因とされる咽頭がん・肛門がんなどの予防にもなります。世界では、男子児童の接種がスタンダードになりつつあります。
今回の取材を通して、HPVに感染する危険から若い男女を「みんなで守る」という意識が必要だと感じました。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月21日放送 記者:加藤さゆり)