観光地を悩ませる“ごみ問題” W杯でのマナーの良さが脚光を浴びる一方、国内では… マスクや食べ歩きごみのポイ捨てが深刻化 ハイカーに汚されたトイレを廃止した寺も 2022年11月25日
ドイツに歴史的勝利をあげた日本代表。ロッカールームの整理整頓や、サポーターのスタジアムでのごみ拾いなど、ピッチ外での素晴らしい行動も話題になりました。
一方、紅葉シーズンの今、日本国内の観光地ではごみのポイ捨てなどマナー問題が深刻化しています。その現状を取材しました。
■観光客のポイ捨てに悩む京都・嵐山
紅葉の名所、京都・嵐山。見頃を迎え、木々が赤く色づいています。
新型コロナの影響で激減していた観光客ですが、今年は多くの人出が。10月からは水際対策も緩和され、外国人観光客の姿も増えました。
――Q:嵐山はどうですか?
【アメリカからの観光客】
「グーグルで見て、みんなが景色がきれいだというから来たの。本当にきれい」
【オーストラリアからの観光客】
「とても美しい!紅葉が壮大だね」
「コロナ前はこういう売れ方してたな、懐かしいなと。ありがたいです」と話すのは、土産店の店主で嵐山商店街の会長を務める石川恵介さんです。
にぎわってうれしい一方で、この時期に頭を悩ませるのが、観光客などによるマナー違反。特に神経をとがらせているのが「ごみ問題」だと言います。
【嵐山商店街 石川恵介会長】
「こういうね、パンフレットなんかいらないんでしょうけど、1日券とかね…。ここが“THE 嵐山”。本当に気持ちいいので、ちょっとお食事、弁当食べたり、ジュース飲んだり楽しいと思うけど、うっかり落としちゃうのがあると思います」
設置されているごみ箱はいっぱいで、あふれたごみが周りに落ちてしまっている状態。嵐山では、以前は店先などに多くのごみ箱を設置していましたが、「ごみがあふれ景観が悪い」と行政から指摘され、数を減らしました。
商店街では、「ゴミは決められた場所へ」と呼び掛けるポスターや、ごみ箱がどこに設置されているかをまとめたマップを作成。また、月に一回、商店街のボランティアの人たちで清掃活動も行うなど、啓発を続けていますが…放置されるごみはなかなか減りません。
観光客は…
――Q:食べた後のごみはどう処理?
「袋に入れてバッグに入れて持って帰ります。マナーを守ってこそ、初めて観光だと思います」
【嵐山商店街 石川恵介会長】
「食べ歩きを禁止とか、『嵐山は食べ歩きでごみが出るからなし』とかにはしたくはない。なんとか工夫してごみを減らせるような形態に変えていかないとあかんかなと」
■マナーの悪さでトイレを撤去…兵庫・西宮のお寺
マナーの悪さに悩んでいるのは、商店街だけではありません。
兵庫県西宮市の鷲林寺(じゅうりんじ)。平安時代に建立された歴史あるお寺で、参拝者だけでなくハイキングをする人の通り道にもなっていますが、マナーの悪さでトイレを廃止することになりました。
15年前、檀家の高齢女性の寄付によって建てられたトイレ。掛けられていた短冊には「大事に使ってほしい」という気持ちが込められていて、市の「都市景観賞」まで受賞しました。
しかし、一部の人のマナーの悪さから、トイレを撤去することに…
【鷲林寺 藤原栄善住職】
「お墓参りの方が使われるトイレとして設置していたんですけど、ハイキングの方が使われることがあったんです。ところが一部の方だとは思いますが、汚される、汚したまま旅立たれる。トイレットペーパーは盗まれるし。あと、ここは冬場が寒くて、凍るんですよね。水が出ないからと、バールか何かでたたいた跡もありました。器物損壊、壊してしまったと」
あるハイキングのガイドブックには、「トイレはここで済ましておくように」といった使用を促す内容が、寺に断りもなく書かれていたということです。
【ハイキングをする人】
「トイレは山に登る人にとってすごく心配なので、次どこでできるかっていうのは…そういう情報も共有しているのは確かなんですけど、(トイレ撤去は)山の仲間でも話題になってて。私たちはそういうことはないけど、より気をつけようねという話は出てます」
寺はトイレを使い続けられるように、西宮市へ寄贈することで清掃をしてもらえないかと交渉しましたが、トイレが寺の私有地にあるため認められませんでした。
【鷲林寺 藤原栄善住職】
「もう本当に苦肉の策で…何十年もかかってやってきたことですけど、かなわなかったという悲しい結果になってしまいました。自分が使ったときは、次の方のことを考える、それが基本ではないかなと思います。自分のことばかり考えずに人のことを思ってあげる」
トイレを撤去した後の建物は、瞑想(めいそう)室などとして活用していくということです。
■関西の行楽地でも…ごみのポイ捨て
マナー問題は、他の観光地でも深刻化しています。
滋賀・高島市のメタセコイヤ並木や、ススキの名所・奈良の曽爾高原も、ごみのポイ捨てに頭を悩ませているといいます。
最近では特にマスクのポイ捨てが多いそうで、曽爾高原ではごみ袋がマスクでいっぱいになることもあるそうです。
こうした中、対策に乗り出しているところもあります。
観光客の「食べ歩き」によるごみの問題が深刻化していた京都・錦市場では、2022年2月~3月に、観光客のごみ捨てを有料化する実証実験が行われました。ごみ箱にQRコードをつけ、観光客がごみを捨てる際にお金を払うというものです。
この実験の結果、ごみのポイ捨てが一定量減ったということで、担当者は来年も実験を実施したいとしています。
関西テレビの神崎デスクは、海外ではポイ捨てで罰金を取られることもあると言います。
【神崎デスク】
「シンガポールは特に有名で、“罰金の国”と言われたりもしますが、ごみのポイ捨てだと、1回目はシンガポールドルで1000ドル、約10万円。再犯の場合は20万円になったりします。チューインガムはそもそも持ち込みが禁止で、夜間に公共の場でお酒を飲むことも禁止、公共交通機関での飲食も禁止と、とにかくなんでも禁止にしていってどんどん罰則・罰金を設けていくということをやっています。そのおかげか、街はきれいですね。シンガポールは国土が狭いのと、いたるところに監視カメラがあり、厳しく取り締まっています。ごみのポイ捨てを何十回とやり、180万円くらい罰金を払わされている人もいます。罰を与えることによって、周りも引き締まると」
シンガポールのような厳しい対策が日本の社会にマッチするものなのか疑問です。ただ、ワールドカップの会場でゴミ拾い活動が称賛されていますが、その正反対とも言える困った問題が日本の国内で起きている現状があります。多くの人が魅了される日本の行楽地、その美しさを保つ普通のマナーが問われています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月25日放送)