厳しい暑さと電力不足で、この夏は例年以上に再生可能エネルギーへの注目が高まっています。
政府は、2030年度には再生可能エネルギーの割合を38%程度まで一気に高める、野心的な目標を掲げていますが、実現することは可能なのでしょうか。
開発者が「海を活用すれば、外からエネルギーを買わなくていいくらいのポテンシャル、可能性がある」と声を弾ませる、再生可能エネルギーの切り札があります。
再生可能エネルギーの現在地と未来を取材しました。
■電力の56%を再生可能エネルギーで 長崎県五島市
【記者リポート】
「長崎県五島市にやってきました。海に囲まれた町の電力を支えるのが、風力発電です」
潜伏キリシタンの歴史で知られる長崎県五島市。
人口は3万6000人で、美しい海と豊かな自然に恵まれた、大小63の島からなっています。
五島市は、必要な電力量の56%を、風力や太陽光などで発電。
日本全体の再生可能エネルギーの比率18%の3倍以上と、再生可能エネルギーの最先端の島なのです。
国内では山の上などで見かけることが多い風力発電ですが、取材を進めるうちに、海の上にポツンと見える1基の風車を見つけました。
一体、あの風車はなんなのでしょう。
【戸田建設 戦略事業推進室 佐藤郁 副室長】
「見た目は普通の風力発電なんですが、下が違いまして。下が海なんです。赤い所と白い所がありますが、これは浮きになっています。この風力発電は海の上に浮いているんです」
最先端の技術が詰め込まれた風力発電の模型。
再現しているのは、水深100メートルの海底の様子で、模型では確かに浮いていますが…。
3000トンもある風車を、波が荒い外洋で浮かせることは、本当にできるのでしょうか?
■洋上の風力発電 「はえんかぜ」
実際に、海に出て確認してみることにしました。
この日は波が高く、船も大きく揺れています。船を走らせること、20分。
【記者リポート】
「あちらがアジア初の浮体式洋上風力発電『はえんかぜ』です。高さ50メートルほどの風車が海の上に浮いています。いや、でかいな…」
浮体式洋上風力発電「はえんかぜ」。
風車のブレードを合わせると、高さは100メートルほど。
国内で初めて商業化に成功し、1基でおよそ2000世帯分の電力を発電します。
【記者リポート】
「船は結構揺れているんですけど、風車は全然揺れていない。波は結構あるんですけど」
毎年のように台風が通る五島市でも、一度も倒れたことはありません。
実際に海の中を見てみると、水深76メートル地点で確かに浮いています。
水深が深くても設置できるため、遠浅な海が少ない日本に適した、最先端の技術なのです。
政府は風力発電について、2030年までに原子力発電所10基分にあたる1000万キロワット、2040年には最大4500万キロワットを目標に掲げていて、洋上風力は日本の再生可能エネルギーの切り札とされています。
【記者リポート】
「未来を見た気がします」
【戸田建設 戦略事業推進室 佐藤郁 副室長】
「未来じゃないんです、現実ですよ。よく夢みたいだと言われますけど夢じゃない。これから10年、20年でこの風景を日本では当たり前の風景にしていかないと」
■電力の地産地消 五島市の取り組み
再生可能エネルギーの普及が進むにしたがって、新たな動きも生まれてきました。
創業45年の練り物店「しまおう」。
この会社の電力は全て、五島市でつくられたものを使用しています。
【しまおう 山本善英社長】
「これが“五島の電気100%を使用していますよ”という供給証明書です」
電力の“地産地消”の取り組みです。
【山本社長】
「五島産の電気を使うことで、僕らが支払う電気料も五島にとどまる。それが雇用や五島のためになるのではないかと思って使い始めたんです。五島の電気を使っていることで、大都市圏に営業に行くときに、向こうも『おっ!』て。SDGsの時代ですから」
■設置には課題も…五島市の漁業関係者は
一方で、洋上風力発電の設置には大きな課題が…。
それは、漁業関係者の同意です。
漁場が狭くなってしまう事態を、どう受け止めているのでしょうか。
――Q:「はえんかぜ」の設置はもめました?
【五島ふくえ漁協 熊川長吉 理事】
「日本で初めてのことを海の上でやる。音が出る、くるくる回ることで電磁波が出る。いろんな影響があるんじゃないかと心配するんです。当然ですよ、漁師の方々は。結果的に5年間実証事業をして、人間の身体にも魚にも影響がないことが分かった」
水中を見てみると、「はえんかぜ」の周りに魚の姿が見えます。
発電のための装置に海藻が生え、魚たちのえさ場になっていたのです。
【五島ふくえ漁協 熊川長吉 理事】
「ここで成功事例を作ったからといって、みんなどこでも簡単に『はい分かりました』とはならないが、モデルをつくって『WIN-WINの関係を構築しました』となれば、それが一つの基準になって…そういう世の中になってもらいたい」
五島市では、さらに年内にも8基の浮体式風力発電が投入される予定で、市内で必要な電力量のおよそ80パーセントを発電できるようになります。
【戸田建設 戦略事業推進室 佐藤郁 副室長】
「我々の生活自体は化石燃料中心の生活ですけど、再生可能エネルギー中心の生活に変わってくる。生活が変わるというわけではなくて産業が変わる。より豊かで安定したサステナブルな世界に変えていく。そのきっかけなのかなと思う」
資源の乏しいこの国で、生活に欠かせないエネルギーをどうしていくのか。
今、大きな転換点を迎えています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年7月1日放送)