時に大きな被害をもたらす「豪雨」。
私たちは今、どれほど正確に大雨を把握できるのでしょうか。
レーダー技術の最前線を、片平気象予報士が取材しました。
■大阪にある「世界最高レベル」のレーダー
片平気象予報士がやってきたのは、大阪大学の吹田キャンパスです。
実はここに、世界最高レベルの性能を誇る気象レーダーがあります。
大阪大学大学院工学研究科の和田有希助教に案内してもらいました。
【片平気象予報士】
「先生、もしかしてあの建物の上にある白いのが…」
【和田助教】
「あれが今回見ていただくレーダーのドームになります」
屋上にそびえたつ白いドーム。中に入ってみると、身長185センチの片平気象予報士を優に超える巨大な装置が。
大阪大学が情報通信研究機構や東芝と共同で研究・開発している「フェーズドアレイレーダー」です。
【片平気象予報士】
「どういった部分が高性能なんですか?」
【和田助教】
「端的にいうとアンテナの数です。実は中に128本のアンテナが入っています」
レーダーは雨粒や雲に電波を発射して、雨の強さや大気の状態を調べます。
従来のものは1本の電波を発射しながら1周して高さを変えていくため、全体を観測するには、5分から10分ほど時間がかかります。
それに対して「フェーズドアレイレーダー」は、一度に128本の電波を広範囲に発射。
すべての高さをカバーして、発達する雲の存在をわずか30秒で知ることができるのです。
■「フェーズドアレイレーダー」の能力を知るため、雨の降っている場所へ
このレーダーの能力、一体どんなものなのでしょうか。
片平気象予報士は、雨の動きを追いかけてみることにしました。
【和田助教】
「(雨雲が)南西から北東に向かっているので、豊中市・伊丹市辺りに数十分後には差し掛かってくるのではないかな」
強い雨が降る方へ、レーダーを頼りに向かいます。徐々に雨が降ってきました。
目的地に到着すると…雨脚が強くなってきました。
【片平気象予報士】
「今、豊中市の伊丹空港の近くにいるんですけど、ぽつぽつ、パラパラというよりはもう少し雨脚が強まってきて、傘にあたる雨粒が大きいなような降り方になっています」
和田助教に電話で状況を聞いてみると…
【和田助教】
「上空に雨雲が差し掛かっていて…その後ろにあまり強い雲がいないので、10分から15分くらいで抜けるのではないかな」
その言葉通り、10分後に日が差してきました。
■「線状降水帯」予測にも期待 実用化は
秒単位で大気の状態を知ることができるこのレーダー。
実用化には時間がかかり、まだ研究開発の段階ですが、過去にある危険な雨雲を捉えていました。
積乱雲が急激に発達し続け、同じ場所に強い雨が降り続く「線状降水帯」です。
線状降水帯は、その発生のメカニズムが十分に分かっていません。
「フェーズドアレイレーダー」は線状降水帯を立体的に観測することができ、その生成過程を研究することができます。
理化学研究所などの研究チームによると、「フェーズドアレイレーダー」を各地に配置することで、線状降水帯の予測の精度が大幅に改善するという試算も出ています。
【和田助教】
「線状降水帯自体は100キロくらいある長い現象。1台ではなく、何台か範囲をカバーできれば発生のメカニズムのさらなる解明につながるのではないか」
このレーダーは大阪大学や気象庁の研究機関など、全国に5台しかありません。
全国に配備されることが期待されていて、実用化に向けた研究者たちの奮闘が続いています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年5月30日放送)