「自己肯定感」という言葉を、最近よく見かけるという人も多いのではないでしょうか。
子供の写真を飾って褒める教育法や、社員同士がアプリで褒め合う企業など、「褒める」が持つ新たな可能性を取材しました。
■SNSには「ひらすらほめてくれる」キャラも
書店に行くと、「自己肯定感」をテーマにした自己啓発本がズラリと並び…雑誌をのぞいてみても、「自己肯定感」の特集ページが。
SNSには、日々の当たり前の行動を「褒めてくれるだけ」のポメラニアン、その名も「褒めラニアン」というキャラクターまで登場しています。
【褒めラニアン】
「お風呂上りにすぐ髪乾かして、偉すぎる!」
「休日にお昼過ぎまで寝てとっても偉い!」
フォロワー数は20万人越えで、「自己肯定感あがる」と、若い女性を中心に人気を集めているんです。
■ひたすら褒めてくれるイベントで泣きそうに!?
最近褒められたことがないという吉原功兼アナウンサーが訪れたのは、5月に大阪市北区の商業施設「ルクア大阪」で開かれた「ほめるBar」。
相談者の素敵なところを、ひたすら褒めてくれるというイベントです。
【吉原アナ】
「僕おっちょこちょいのタイプなんで…なんでこんなこと言っちゃったんだろうとか、またうまくかなかったな(と思うことが)あったりするんですけど、そういうところも直したいなって思う自分もいるんですよね」
【ほめるBarのスタッフ】
「自分の中の理想があって、それを形にしたいって常に思ってらっしゃる、そういう思いがないと、またやっちゃった、次こうしようって、変えていくことすら浮かばないと思う。もう十分頑張ってらっしゃるじゃないですか。お茶の間に素敵な情報を届けるっていうことをされている時点で、すごいことだと思うんです」
【吉原アナ】
「いやぁ…泣きそうになってきたな…ありがとうございます…」
イベントに参加した人のアンケートには、「自分を褒める、認める気持ちが強くなった」「自分のことが好きになれた」「この企画をやろうとしたあなたは偉い」などの回答が。
皆さん、自己肯定感が高まったようです。
■SNS普及とコロナ流行で”自分と向き合う”傾向に
しかしなぜ、いま「自己肯定感」が注目されているのでしょうか。心理カウンセラーの山根さんに聞きました。
【心理カウンセラー・山根洋士さん】
「SNSがこれだけ普及して、昔だったら町内とかせいぜい学校、会社での比較で済んでいましたが、もう全世界との比較になってしまう。自分ってなんなんだろうと思わされることも多いし、自己肯定感が傷つきやすいというか、影響を受けやすい」
【心理カウンセラー・山根洋士さん】
「コロナの状況ですよね。遊びに行ったりできない、買い物行ったりできない。意識が内に向きがちな社会的な状況の中で、自己肯定感という概念が、自分と向き合えるんじゃないかみたいな感じでフィットしてきた」
■若い世代は「自己肯定感」にポジティブなイメージ
「自己肯定感」という言葉のイメージについて街で聞いてみると…
【街では…】
「あんまり高くなりすぎて自己愛が強すぎるのもちょっとね」
「自己承認の欲求が強いってことですかね」
「自分から高めてこうみたいなのはあんまりないです」
「子育てする上で、自己肯定感を高めるのは大事って言うのもありますけどそれと、自分に甘くしてしまう肯定感と本当紙一重だと思います」
大人の世代からは、「ナルシスト」や「自分に甘い」といった意味に近い、少しネガティブな声も聞かれましたが、若い世代はというと…
【街では…】
「どれだけ自分らしさを愛せるかっていうので、自己肯定感上げようって意識はしてますね」
「いろんな音楽聴いて、自分を高めると、自己肯定感につながってる」
「自分を認めてあげないと、誰が認めてくれるんやっていう、まずは自分から認めていこうみたいな感じ」
若い世代は、「テンション」や「モチベーション」に近い意味で「自己肯定感」という言葉を使っていて、ほとんどの人がポジティブなイメージを持っていました。
心理カウンセラーの山根洋士さんは「褒める子育て」が社会に浸透してきたことがきっかけではないかと話します。
【心理カウンセラー・山根洋士さん】
「甘やかしたらダメとか、抱き癖がつくから抱っこしちゃダメみたいな時代もあったんですよ。親御さんも愛情表現するようにちょっとずつなってきたりしていて、自己肯定感の感覚を持ってる人っていうのは、若い人の方が増えてきてます」
■家に写真を飾って子どもの自己肯定感を育む
「褒める子育て」とは、どのようなものなのでしょうか。
取材に伺ったのは、大阪市内に住む山本峰子さんと、3歳のあきとくん親子です。
玄関や階段など、家のいたる場所にあきとくんの写真が飾られています。
実はこれが、子どもの自己肯定感を高める教育法、その名も「ほめ写」です。
子どもの写真を「撮って」「飾って」「褒める」だけととてもシンプルな方法ですが、一体どんな効果があるのでしょうか?
【山本峰子さん】
「あきとが写真を見て、ママぎゅーっとしてくれたね!っていきなり言ったんで…」
「(あきとは)家族で写ってる写真が好き。家族写真も大きくしてほしいってあきとが言ったんで、カラーコピーで大きくして貼ったりとか」
「ほめ写」の効果の1つは、「自分は大切にされている」と子ども自身が自然と感じられること。
この感覚が、自己肯定感を育む上で大切だといいます。
「ほめ写プロジェクト」メンバーの東京家政大学・岩立京子教授の調査によると、「自分自身に満足している」と答えた子どもの割合は、ほめ写を体験する前と後で、25%も違いが出ています。
【山本峰子さん】
――Q:写真があった方が褒めやすい?
「そうですね、過去のことも褒められる。褒め損ねたことも、この写真で(褒められる)」
「ちゃんとよくできたところだけじゃなくて、普段の姿とか失敗してるものとかも写真に撮って見せたりして、そんなところも好きなんだよって」
山本さんは、日々の生活の中で自然と目に入る写真が、褒めるきっかけになっていると話します。
子供の目線に写真を飾ることもポイントです。
そしてもう1つ、「ほめ写」には重要な意味があると言います。
写真があることで「子育てを頑張ってきた自分」を発見することができ、親の自己肯定感も上がるというのです。
【山本峰子さん】
「こんなに泣いてて大変やったけど…自分自身もあの時いっぱいっぱいやったけど、振り返ると楽しい思い出やなって」
■アプリで社員同士が褒め合う企業
一方で、大人も自己肯定感を上げて、仕事の効率も上げてしまおうという取り組みもあります。
取材したのは、大阪市中央区にある、磁気アクセサリーの会社「コラントッテ」。
2021年に、社員同士で褒め合う「RECOG」(レコグ)というアプリを導入しました。
まず、「レター」という機能を使うと、社員同士でメッセージを送ることができます。
この日は、営業部長から、会議で面白いアイディアを発表した部下に、「お褒め」のメッセージを送ります。
【営業部・森田部長】
「営業部員の植田さんに送ります。素晴らしい内容なので、ちょっと褒めようかなと」
【営業部・植田さん】
「レターですか?きてますね、森田さんから…作戦素晴らしいですって褒められてますね!」
さらに…
【営業部・植田さん】
「社長から拍手きましたね!興奮しますね!嬉しいですね!」
誰が誰に褒められているのか、他の社員も見ることができます。
SNSの「いいね」のように、「拍手」を送ることができるので、社内のいろんな人から「褒め」が集まってくる仕組みになっているのです。
【社員】
「最初はやっぱり不安で思い切った業務ができなかったりっていうのもあると思うんですけど、褒めていただくことによって自信を持って、自分の業務を進められているかなと思います」
【社員】
「やっぱ30代になると、人から褒められるっていうのがなかなかないんですけど、RECOGとかを通して、他の人からほめられると自己肯定感上がって、モチベーションが上がるなっていうのをすごく感じています」
心理カウンセラーの山根さんによると、褒める側も、自己肯定感が上がるといいます。
【心理カウンセラー・山根洋士さん】
「他人を褒めるって結局どういうことになっているかというと、人を見るメガネが変わるんですね。そうすると自分を見る目もちょっと変わってくる。自分の褒めポイントも見つけやすくなる。褒める側も自己肯定感が上がります」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年5月19日放送)