絵本「せんせいって」。
大阪市内の小学校で現在教師として働く松下隼司さんが制作した。
普段生徒には伝えられない「先生」という仕事の“本音”が、可愛らしくもどこか不思議なタッチの夏きこさんの画とともに描かれている。
この絵本に込めた思いを松下さんに聞いてみた。
【松下隼司さん】
「先生って具体的にはどんな仕事をしていて、やりがいがあるのか。先生たちも伝えませんよね。『やりがい搾取だ』って言われるけど、確かに休憩時間はなかったり、給食を食べている時も早く食べないといけなかったり… そういうブラックな部分も書いてあります」
【こどもたち】
「ごちそうさま」
「わあ!もうたべたの?」
「ぜんぜんいっつも3ぷんくらいでたべてるじゃん~」
「ねーねー。なんでそんなにわんちゃんみたいにはやいの~?」
【先生】
「きゅうしょくがとってもおいしいからだよ!ほんとうははやくたべてみんなのテストやしゅくだいのまるつけをしないといけないから…。さくぶんやノートをちゃんとみたいから…」
【松下さん】
「『放課後遊ぼう』って言われるんですけど『ごめんね会議や』って。休み時間に『先生!』って言われても『次の時間の準備とかやらないとあかんねん、丸付けとか』って。『ごめん、ごめん、ごめん。忙しい、忙しい、忙しい』って。子供と向き合う時間がないですね。一人一人こんな先生になりたいとか、きっかけはあったのに、だんだん、そのきっかけを忘れるくらい忙しさにつぶされていってしまう先生がいるっていうのを表現したかった。子供と遊ぶ時間、自分も遊んでもらって楽しかった、自分も教師になって遊ぼうと思っていたけど、そんな時間ないやんって。それがいつの間にか当たり前になって、染まっていってしまう」
松下さんが自分の仕事に対して抱く思いは複雑だ。
この本では、その複雑さを、なるだけ隠さずに表現しようと試みられている。
教師という仕事はとにかくやらなければいけないことが多い。
決められたたくさんのカリキュラムをこなしながら、学級内の問題や、児童たちがそれぞれに抱える問題にも対応しなければならない。
うまくいかない場合には、保護者などから厳しい声が浴びせられることもしばしば。
それでも、教師という仕事を続けられる理由がある。
松下さんはこの仕事のすばらしさを身に染みて感じている。
【松下さん】
「『ああ!できるようになった』とか、その時の子供の表情を見る感動とか、逆に悪いことしてむっちゃ怒るとか、めっちゃ悲しいとか。一人がものすごくうれしいことがあって、その子もうれしがっているけど周りの子もすごい喜んでいる。素敵やなって。教師やっててよかったなって思います。あと、子供同士だからトラブルがあって、その子たちを呼んだら、一人が『ごめんね』って。そして、もう一人が「いいよ」って。それで終わり。大人って、『すみませんでした』って言っても『はい、わかった』って感じで。でも『ホンマは許してもらってないやろな』って思うじゃないですか(笑)。 そんなん大人だったら無理やな、許す心が大きいなって。そこはむっちゃ楽しいですね。」
現役の教師の口から語られる、「せんせい」という仕事。
この本を通じて、知っているようで、知らなかった教師の本音に触れることができる。
楽しいだけでもないけど、苦しいことだけでもない。
いろいろなものを背負いながら働いている先生の、いろんな思いが込められている。
絵本「せんせいって」
作:松下隼司
画:夏きこ
出版:みらいパブリッシング
松下隼司さん
1978年生まれ。愛媛県出身。奈良教育大学卒業。
現役の小学校教論。 関西の小劇場を中心に演劇の活動も行う。
【取材後記】
私は小学5年になるのに合わせて別の小学校に転校しました。
新しい学校にも慣れたころ、担任の先生が「きのう、前の学校の先生が、君は元気にしていますか?と尋ねに来たよ」と教えてくれました。たまたま私が不在で会えませんでしたが、「転校して、もう担任ではないのに僕のことをそんなに気にかけてくれているんだ」と驚き、子どもながらに温かな気持ちになりました。
誰の記憶の中にも、そんな先生が一人ぐらい、いるのではないでしょうか。
もちろん、そんな先生ばかりではないけれど、消えることのない温かい思い出をくれる先生は、非常にありがたい存在です。
今回、松下さんへの取材が終わった帰り道に、その先生のことを思い出しました。
(関西テレビ記者 山崎凌太郎)