■高級食材「三田牛」で“革製品”を!
兵庫県に誕生した新たな「レザー製品」のブランドについてです。
「この牛の皮は使えない」と言われてきた高級な肉牛の皮を、あえて使うレザー製品が生まれました。
なぜこれまでの常識を打ち破ろうと思ったのか、仕掛け人たちの取組みを取材しました。
■三田牛農家の苦境 “捨てる皮”気付いた良さ
キメが細かく、艶のある革製の財布。
実は、兵庫県三田市が誇るブランド牛「三田牛」の皮で作られているんです。
一頭一頭丁寧に育てられた三田牛。
肉は柔らかくジューシーで長年愛されてきました。
しかし、その皮は・・・
「産業廃棄物として処理されておりました」(三田肉流通振興協議会・乾哲郎会長)
三田牛は小さく皮が薄いため、レザー製品には向かないとされ、ほとんどがお金を払って廃棄されていたのです。
手間暇かけて育て上げられた三田牛、全部使い切らないともったいない!
そんな思いで立ち上がったのは三田市でクリーニング店を経営する尾崎勝浩さん(38)です。
【尾崎勝浩さん】
「これがなめしたあとの三田レザーですね。これで一頭分です」
捨てられてきた皮を買い上げ、レザー製品として売り出す計画を地元の青年会のメンバーと始めたのです。
【尾崎勝浩さん】
「表面にまで気を使われた牛の皮が捨てられたり、価値のないものとして流通していたのはすごくもったいないと思いましたね」
尾崎さんたちが今、事業を始める理由。
それには三田牛を取り巻く厳しい環境が関係していました。
【三田肉流通振興協議会・乾哲郎会長】
「外食産業がこれだけ売れないと、高価な肉ほど売れが厳しいということになってくるんです」
以前からの農家の高齢化に加え、新型コロナで飲食業界が影響を受け、三田牛の年間流通量は10年前のおよそ3分の1、わずか200頭前後に。
地元の誇りが、危機に陥っていたのです。
【尾崎勝浩さん】
「食肉としての三田牛を広めることはできないけど、三田レザーを広めて三田牛を守っていくことはできるんじゃないかなと。食肉に比べると金額大きくはないけど使用していただける人が増えることで農家さんの救いになればと思っています」
クリーニングの仕事で革製品も多く扱ってきた尾崎さん。
これまで見逃されてきた三田レザーの「良さ」にも気づきました。
【尾崎勝浩さん】
「三田牛の皮は他の皮より弾力がある。見た目は薄いけどすごく丈夫。キメが細かくて艶がいいっていうのは、やっぱり農家の方が愛情かけて、常日頃から傷付かないようにブラッシングしたりしてきたのが形となっているんだなと思いますね」
【春日牧場・春日敏和さん】
「付加価値つけてまた違ったところで三田牛の革がブランド化されるというのは、いいことやと思います」
【三田肉流通振興協議会・乾哲郎会長】
「実際処分しようとするとコストが高くなってしまうのが現状。ありがたいなという話ですね」
製作を担当するのは、尾崎さんの中学・高校の同級生で、バッグ作りなどを手掛ける職人の亀川亜矢子さん(37)です。
現在は大阪府池田市に住んでいますが、三田出身の人に作ってほしいという尾崎さんの依頼を受けて、協力しています。
■常識を打ち破る取り組みを
【亀川亜矢子さん】
「三田牛の革は密度がすごい。ぎゅうぎゅうで。すく(厚みを調整する)のがとっても大変なんですよ。とても難しい子たちですね」
これまで使われてこなかった三田牛の革を扱うのは簡単ではありません。
時には1つの財布に3日以上向き合って製作しています。
【亀川亜矢子さん】
「三田レザ―に携われるというのは、すごくうれしいですね。三田は幼少期のころ育った町で。三田を離れた土地からでも見ていけるのが楽しみです。日本の牛の皮は、傷がついていることがダメっていう文化で、良く捨てられているんです。でも今SDGsとかで『繰り返し使う、大切にする』ということが大事にされている。傷が製品に入っていてもこれは捨てられるものだった皮が製品化したからこんなところに傷があるんだ、牛さんが頑張った証なんだと思って、製品を手にとってくれると嬉しいなと思いますね」
故郷を思ってでき上がった三田レザー。
どれだけ広められるか、連日作戦会議が続きます。
【尾崎勝浩さん】
「商品ラインナップを拡げるやんか。このテイストのままでいいのかな?ホームページは」
【デザイナー】
「うーん、どうしたらというのは今言えないですけど変えた方がいいとは思いますねえ。商品だけ撮るんじゃなくて女の人が手に持ってる写真とかイメージ掻き立てられるものにせえへんと」
【尾崎勝浩さん】
「モデル募集がいるってこと?」
【デザイナー】
「そんなところに金かけてられへんな(笑)」
【尾崎勝浩さん】
「妹でいい?手きれいやで(笑)」
牛の皮を「全部捨てへん」という想いを込めて「ZENSTEN(ゼンステン)」と名づけられた尾崎さんたちのブランド。
地域の新たな名産品となることを目指します。
【デザイナー・中村倫章さん】
「三田住んでるねんって言ったらあぁアウトレットあるところやんな、って言われやすいんです。それを、三田牛で有名な所やんな、にしていきたいですね」
【尾崎勝浩さん】
「ゆくゆくはみんなで育てた、みんなで作ったブランドだよって地域の人たちが言えたらいいなと思いますね」
苦境だからこそ生まれた新ブランドが、三田から、全国、更には世界へ。
挑戦は続きます。
(2月9日放送)