なかなか働き手が見つからない、定着しない。そんな「町工場」の現実を変えるべく大改革に乗り出した会社が大阪にあります。入社を希望する人も続出。若手社長の挑戦が生み出す変化を取材しました。
■町工場の社長がMC! ポッドキャストで番組配信
大阪府堺市の町工場「日本ツクリダス」。自動車の部品などを作る、金属加工会社なのですが…
随分とオシャレな階段を上った先には、「町工場がラジオ番組!?」と書かれたポスター。去年9月、町工場を盛り上げようと、ポッドキャストで、インターネットでのラジオ風の番組配信に挑戦することしたのです。
MCをつとめるのは、この町工場の社長である角野嘉一(かどの かいち)さん、43歳。9年前に父親の経営する会社から独立し、「日本ツクリダス」通称「ニッツク」を立ち上げました。
その社長がいったいなぜ、自ら「ラジオ番組」の収録をしているのかというと…
【日本ツクリダス 角野嘉一代表取締役】
「(将来)今までの仕事ではない商品が現れるかもしれないですよね。じゃあその新しいものどこに出すねんって話になったときに、(製造会社を)どう探すねんってなった時ってネットとかになると思う。知ってもらうっていうところを今のうちに積極的にやっとくべきじゃないかなと思いますね」
「ニッツク」は今、「見える化」、「見せる(魅せる)町工場づくり」に邁進しているところなのです。
■朝礼で「じゃんけん」でも…暗黒時代も
「ニッツク」の朝は、清掃から始まります。暗い工場のイメージを払しょくしようと塗り替えた、真っ白な床が自慢です。
全員で集まっての朝礼。社員で集まってやるのは、なんと「じゃんけん」です。
【日本ツクリダスの社員】
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
【日本ツクリダス 角野嘉一代表取締役】
「朝の気分を盛りあげるじゃんけんです」
ただのじゃんけんに大盛り上がりできる従業員たち。この雰囲気の良さですが、最初から、こうだったわけではありません。
【日本ツクリダス 角野嘉一代表取締役】
「暗黒時代はやっぱりあって、最初からではないです、決して。もう、どうしたら(従業員が)定着してくれるんだろうかとか、どうしたらみんな楽しく働けるんだろうかとか(悩んでいました)」
■町工場には珍しい「広報課」 元市役所職員に作曲家まで…集まる人材
創業して始めの5年は、従業員が入っては抜けるの繰り返し。多くの町工場が抱えているという、人材不足の問題に「ニッツク」も悩まされてきました。
そこで取った策が、「見せる」ということ。町工場には珍しい「広報課」と「人事課」を新設し、オンラインを使った工場見学をスタート。ホームページやSNSでの発信も加速させてきました。
【日本ツクリダス 角野嘉一代表取締役】
「中のことを今まで以上に見せられるようになったんですね。うちの場合は特に人。人を見せることで、応募してくれる人たちがすごくガラッと変わったっていうのは、すごい効果出ました」
その結果、応募してきたのは…
「元市役所職員ですね」
「作曲家を前職やってましたね」
「(前は)航空自衛隊で」
さらには…
【企画開発部 野口侑李さん】
「(夫が)半年働いたときに私が突撃したって感じです」
なんと社員の妻まで働いていました。
【企画開発部 野口侑李さん】
「(夫は)すっごい人見知りなんですよ。ほんとにびっくりするぐらい人見知りで、新しい仕事しても人と慣れるのに時間がかかって毎日死にそうな顔してるんですけど、ここに入って1カ月もたたないうちにニコニコ帰ってくるんですよ。『あ、私も働きたいから社長に言って』って」
■DXも推進 他社も導入する納期管理ソフト
「ニッツク」に見学に訪れる町工場から見学者が、必ずと言っていいほど立ち止まるのが、工場の真ん中にある、大きな画面の前です。「ニッツク」はDXも進め、独自に納期を管理するシステムを開発しました。
【製造部 野口良樹さん】
「うちで開発している、納期管理ソフトを使って、納期を見ながら、何を加工に入れていくかを打ち合わせしているって感じですね」
角野社長と「ニッツク」創業時から付き合いがあるという、奈良県の町工場「井上工作所」は、これまで紙で行ってきた納期管理を、このシステムに切り替えました。
【井上工作所 井上英之専務取締役】
「俺が納期管理やねん!って思ってたけど、もうそれを言う時代じゃないって言うのをそれを入れてからわかった。自分の覚えることを、このシステムが覚えてくれるというか、ひとつ余計なことをこっちに託せるから自分が身軽になったというか。たまたま来たお客さんから『最近納期早なったな』って言われた」
角野社長とは「ニッツク」創業当時からの長い付き合い。町工場を良くしようとする熱い2人ですが、そこには共通して抱える危機感があります。
【日本ツクリダス 角野嘉一代表取締役】
「危機感すごいです。もう自動化の波と、電気自動車と」
【井上工作所 井上英之専務取締役】
「国内の業者だけじゃないから、海外で作らせたりとかなってくると、やっぱり危機感やね」
【日本ツクリダス 角野嘉一代表取締役】
「ほんまに俺らの仕事いつまであるんやろうと思いながらやってます」
■「見せる努力」は社員にも 厳しい現実も包み隠さず
この日、「ニッツク」では年納めの恒例行事が行われていました。部署の成果や、職場環境の改善できた点を従業員全員で発表し合います。
角野代表取締役からは、賞与が社員に直接手渡されました。
新型コロナの影響で発注が減り、業績は落ち込みました。賞与の総額は、社員約30人で総額136万円でした。厳しい現実も、ごまかすことなく社員に伝えます。
【日本ツクリダス 角野嘉一代表取締役】
「正直少ないなってみんな今率直に思ったと思うんですよね。改めて掲示板で公開してるんでぜひ見ておいてほしい」
事務所に設置された大きな画面には、日々の売り上げや成果が事細かに公開されています。「見せる」努力は、社外にだけでなく、社内にも向いています。
【日本ツクリダス 角野嘉一代表取締役】
「(来年の賞与は現状の業績では)ほぼほぼ倍増ペースでいってるんじゃないかなと思います。自分たちの動きがボーナスに直結してるんだよということを見ながら仕事に励んでもらえたらなと思っています」
激動の時代の中で、誇る技術を守りたい。だからこそ、変わる努力を進めます。
【日本ツクリダス 角野嘉一代表取締役】
「チャンスがあるっていうことをとにかく(社員に)伝えたいんですよ。うちの規模だから、伝わりやすいんですよね。もうコロナになってやっぱり業績ががんと落ちましたけど、準備はやってきたんですね。なので、ことしはその準備を爆発させる年だと思ってるので、邁進していきたいなと思っています」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年1月7日放送)