■母子家庭からの“SOS” 支える当事者たち
1949年に設立された社会福祉法人「滋賀県母子福祉のぞみ会」。
全国に先駆けて始めた子ども食堂。
70年以上に渡って母子家庭を支援しています。
事務局長の坂下ふじ子さん。
坂下さんも母子家庭で子どもを育ててきました。
当事者だからこそ、母親たちの話に耳を傾ける大切さを知っています。
【母子福祉のぞみ会・坂下ふじ子事務局長】
「一人で悩みを抱えてたらあかんよ」
【母親】
「子育ての悩みでもいいの?」
【坂下さん】
「うん、全然大丈夫よ」
【母親】
「愚痴になりますけど…」
【坂下さん】
「私らおんなじ立場やん、そういう経験してきましたし」
孤立しがちな一人親とつながること。
坂下さんが大事にしている思いです。
【坂下さん】
「一番大事です、つながりは。お母さんたちが不安に思っているのは、つながりがないことです。地域でそんな縁がない、そういう人は孤立してしまう。『自分はここの世界だけだから、どこにどう相談していいのか分からない』という人が増えている。それが貧困につながっていく」
孤立させないために、支援を求めている親たちを見つける。
■“当事者”として母子家庭を支援 相次ぐSOS
のぞみ会では、SNSの利用を始めました。
この半年で寄せられた相談は、1000件以上。
新型コロナの影響で働く場所がなくなったり、夫の暴力による離婚で、経済的に困窮したりする家庭が多く見られました。
ただ、こうした声とつながるのは簡単ではありません。
【坂下さん】
「難しいんですよ、『信用できない』とか言われますしね。今まで親身になって相談に乗ってくれる人がいなかったから、ここに相談していいのか…と思うのではないか。強制もできないし、本人のほうから歩み寄ってきてくれないと。みんなギリギリのところで、また我慢するんですよ」
生活を立て直すための住む場所を提供できないか。
坂下さんは2021年8月に「赤い羽根福祉基金」の助成を受けて、4世帯が暮らせる1軒屋を借り上げました。
3カ月間、家賃は無料。
この期間に自立できるように支援します。
■DV・困窮… “シェアハウス”に来る母子
最初の住人となったのは、22歳の泉田加奈さん(仮名)。
離婚を機に、沖縄県からやってきました。
1歳の子どもを保育園に預けられず、働きに出ることもできないなか、SNSで見つけたシェアハウス。
夫から養育費の支払いは一度もありません。
【泉田さん】
「毎日これからどうしようって感じでした、通帳に3万円くらいしかなくって。子供がまだ1歳にもなっていなかったし」
泉田さんは、ここにきて保育園が見つかりました。
今はシェアハウスを出て、職業訓練に通っています。
12月24日、新たにシェアハウスの入居を希望する親子がやってきました。
年越しをここで過ごしたいというのです。
坂下さんは戸惑いなく受け入れ、親子にシェアハウスの説明をしました。
【坂下さん】
「基本的に外出は自由です。携帯電話もかけてもらっていい。共有スペースにはテレビもあるし。こちらはお部屋の見取り図です。1階の和室9畳、その部屋に入ってもらおうかなと」
夫に暴力を振るわれ離婚し、小学生の息子と二人暮らし。
頼れる人はいません。
【のぞみ会の職員】
「ここ、キッチンを使ってもらっていいので。洗面所とお風呂も」
離婚してすぐに新型コロナの感染拡大が起こり、短期のアルバイトを見つけるのがやっとのことでした。
【シェアハウスに入居した母親】
ーーQ:何が苦しかった?
「お金です。働きたいけど、なかなか(仕事が)見つからない。住むところがあって本当によかったです」
■SOS発する母子… 当事者と行政の“ギャップ”
仕事納めの前日、行政から突然連絡が入りました。
【坂下さん】
「相談の内容を見させて頂いた。この中身を見ると、1日でも早くシェアハウスに入られた方がいいと思う」
問い合わせの内容は、シェアハウスに空きがあるかどうか。
夫と離婚を考えている外国籍の女性に、シェアハウスを紹介したいというのです。
坂下さんは行政の担当者に受け入れの意志を伝えました。
【坂下さん】
「こちらからお迎えにも行きますしね。でないと、このままの暮らしを続けていても良いことないと思いますし。旦那さんが一緒にいるので、是非うちのシェアハウスに入ってもらえたらいいと思うので、ちょっと本人にお話しをしてもらえます?」
坂下さんはすぐにでも連絡を取りたいと伝えますが、担当者はつないでくれません。
【坂下さん】
「行政はトロイですわ。明日までや、この人たちの仕事あるのは。そしたら連絡も取れなくなる、携帯を教えているわけでもないし。この人が困っても年明けの4日までほったらかしになってしまう。『それやったらうちで預かります』って思います。絶対なんかあるよね、ほっといたら」
■母子に寄り添う当事者の支援 続くつながり
年越しに向けて、年内最後の食糧支援。
配られる食料は、企業や地元の農家からの寄付です。
【坂下さん】
ーーQ:これからの食料も困る人はいる?
「そうなったら3食を1食に減らすんです。毎食は食べないんです。『お米も久しぶりに見た』と言う人もいました。助かりますよね、あるってだけで。不安につながらないから、ちょっと安心してもらえるかなって」
【支援を受けた母親】
「ありがとうございます」
電車で1時間ほどかけて来る母親の姿もありました。
【坂下さん】
「(カバンに)入る?これは常温保存の牛乳です。冷蔵庫に入れなくていいタイプね」
【母親】
「ありがとうございます、もらいに来てよかったです」
【坂下さん】
「遠いところご苦労さま」
シェアハウスを出て、自分で家を借りた泉田さんもやってきました。
【坂下さん】
「ほっきかな?マグロ系。豚肉も持って帰る?これはちゃんと切っといてん。皮も向いてね。すぐに料理できるよ」
【泉田さん】
「ありがたい」
この場所で生まれたつながりは、ずっと続いていきます。
新年に向け、坂下さんはシェアハウスをもう一軒作ることにしました。
のぞみ会の活動を応援したいと、持ち主が格安で貸してくれたのです。
新しく借りた部屋をスタッフみんなで掃除しました。
床を拭いた雑巾は真っ黒に。
【坂下さん】
「結構、真っ黒やね。このお部屋、3年間も使ってなかったからね。面談をしていて、色んな課題を抱えてきている人が増えてきた。それで今回、思い切ってもう一つ家を借りたんです」
母親たちからのSOSに耳を澄まして…。
寄り添い、つながろうとしている人たちの活動は続きます。
(2022年1月4日放送)