ことし大津市内にオープンした「のぞみハウス」。離婚や失業などで経済的に不安定になった母子家庭を支援するためのシェアハウスです。
ここで生活する21歳の泉田加奈さん(仮名)。
3か月前に1歳の息子とここにきました。
持ち物はスーツケース1つだけ。
妊娠中のつわりがひどく、仕事を続けられなかった上、元夫からの養育費は一度も振り込まれませんでした。
【泉田加奈さん(仮名)】
「毎日これからどうしようっていう感じでした。通帳に3万円くらいしかなくって子供がまだ1歳にもなっていなかったし・・・」
シェアハウスを運営しているのは、「滋賀県母子福祉のぞみ会」。
事務局長の坂下ふじ子さんも(63)母子家庭で子どもを育ててきました。
ーーQ:こういう支援ってあんまり行政ではないですよね?
【滋賀県母子福祉のぞみ会・坂下ふじ子事務局長】
「ないですね。私たちも自分が困っていたから自然にできる。してあげたいなという気になる」
「赤い羽根福祉基金」の助成を受けて4世帯が暮らせる1軒屋を借り上げました。
家賃は3カ月間、原則無料。
この期間に自立できるように支援をします。
3歳未満の子供がいる場合は、保育も受け入れています。
【坂下事務局長】
「そういう困った人はつながり・縁がない。もともと自分がそういう環境で育っているので、昔からの連鎖反応です。自分が優しくされたこともないし親からそういう教育されたこともないしそういう方が多い。ここでのんびり生活してもらいたいなと」
のぞみ会ではひとり親が抱える多くの課題を1つずつ寄り添いながら解決していくことを心がけています。
泉田さんものぞみハウスに来て、保育園が見つかり、短期のアルバイトを始めることができました。
12月からはより安定した仕事への就職を目指し職業訓練に通うことに。
【泉田さん】
「行ってきます。またね、お迎え来るからね」
この日、子供を保育園に預けて仕事へ向かいました。
ここに来なければ働くこともできませんでした。
シェアハウスを始めて3カ月。
泉田さんの自立のめどが立ち、近くのアパートで暮らすことになりました。
【坂下事務局長】
「3カ月と二週間くらいお疲れ様でした。いろいろ大変なことたくさんあったけど、一個ずつクリアしてなんとか自立できたと思います。これからは自分で頑張っていかないといけないけど、もちろん私たちもアフターフォローでシェアハウス出たからほっとくわけではないので。なんでも相談してくれたらいい。すぐに言ってくれたらすぐ駆け付けられるから、遠慮せずに言ってください。何といっても遠くの身内よりも近くの他人って言うから」
【坂下事務局長】
「持って行くもの揃えましょうか?掃除機いるやろ?」
【泉田さん】
「いります」
【坂下事務局長】
「テレビは?」
【泉田さん】
「テレビは欲しいです」
【坂下事務局長】
「鍋も一つ持って行く」
【泉田さん】
「欲しいんです」
【坂下事務局長】
「シェアハウスするために誰かが出ていく時に持って行ってもらおうと思って家を壊したり転居する人にいらなくなったものをもらいに行った。ここで整理ストックしている。この方が第一号で出ていく。この方が一番いいものを持って行く」
ここが泉田さんと息子の新しい家。
坂下さん引っ越しも手伝っていました。
家電製品や家具は全て寄付で集まったものです。
シェアハウスから一組の家族が巣立ちました。
坂下さんの元に一通のメールが届きました。
【坂下事務局長】
「体調が悪く働けず支援を受けましたが1回のみで。もし、支援がありましたら宜しくお願い致します」
兵庫県のひとり親からのSOSです。
【坂下事務局長】
「コロナの影響がそんなに長く続くと誰も思っていなかった。およそ2年ですよね。本当に大変だと思う。預貯金を取り崩して皆さん生活していると思う。こんなん日常茶飯事です。ちょっと想像できないでしょ?本当に大変なんです」
すぐに食糧を送ることにしました。
母親たちのSOSは、毎日のように届いています。
【坂下事務局長】
「一番大事です。つながりは。お母さんたちが不安に思っているのはつながりがないんです。地域でそういう縁がない。そういう人は孤立してしまって、自分はここの世界だけやから、どこにどう相談していいか分からない人が増えている。それが貧困につながっていく」
この日、県内に住むひとり親の女性が相談にやってきました。
夫の暴力から逃れるために離婚。
貯金がなくすぐに仕事を探しましたが、コロナの影響で2年近く見つかりませんでした。
このままだと住む場所も失ってしまいます。頼れる人もいません。
【ひとり親の女性】
「家探すのにも最初に払うお金があって、それを貯めようと思って」
【坂下事務局長】
「わかるんです。順序で言ったらそれも必要。お金を貯めることも必要。まず今の生活が十分に満足できてます?」
【ひとり親の女性】
「できてない」
【坂下事務局長】
「不安材料は?」
【ひとり親の女性】
「いろいろあります」
【坂下事務局長】
「まずは、お母さんが何をしたいのか、どうなりたいのか。まずおうちですか?」
【ひとり親の女性】
「そうです。でも子供が学校を変わりたくないって言ってるので、同じ学校にいけるように、まずはその辺で探したい」
女性の話をじっくり聞いた上で、坂下さんは本当に必要だと思ったことを提案します。
【坂下事務局長】
「お母さんは今困っているのは住居だけと思って相談していると思っているんやけど、実際に住居が決まったからって働いて資格もなかったら、それ相当の非正規かパート。それがあかんとは言わないが、子供さんを1人育てていかないといけないときは、ちゃんとした仕事についたら給料も高くなる。まずはそこじゃないか。そのためにシェアハウス利用してください。全然遠慮しなくていい。気軽な気持ちで来てもらって、荷物も持ってこなくていい。全部そろってますので着替えだけ」
【ひとり親の女性】
「一回私と子供で見学にきてもいいですか?」
【坂下事務局長】
「うん、いいですよ」
女性を見送りながら、坂下さんはこう語りました。
【坂下事務局長】
「大変やね。実際に現場で働いてないと分からないと思います。行政は数字だけです。困った人何人、困っててどんだけの人がどうで、困っているの一番目は何、二番目は何ってそんな感じだけなんで、実際にわからないと思う」
当事者だからこそできる支援。
手を差し伸べるのではなく、同じ目線でつながること。
坂下さんが大切にしている思いです。
(2021年11月26日放送)