11月22日は「いい夫婦の日」ですが、長年支え合って生きていても「ふうふ」として認められない人たちがいます。
同性婚の実現を願う人々の思いを取材しました。
■私たちだって”いいふうふ”になりたい
11月22日は「いい夫婦の日」。
大阪市内のギャラリーでは、「私たちだって“いいふうふ”になりたい展」が始まりました。
日本では認められていない同性婚について、知って、見て、考えてほしいと大阪のNPO法人「カラフルブランケッツ」が開いたのです。
恋人への思いをつづった手紙が展示されています。
【恋人への手紙】
「一途なだけでなく真面目で誠実な人だということが分かって、だんだん惹かれていきました。私から告白して付き合いだして一緒に住んでもう10年になるんだね」(じゅんさん)
【恋人への手紙】
「同じ屋根の下で、一緒にご飯を食べて、一緒の布団で寝て、何気ない話ができる。こんなささいなことがとても幸せだなぁ」(すみとさん)
【恋人への手紙】
「結婚式するのもいいね。祝われることに慣れていないし、しなくてもいいかなと思ってたけど、法的に認められるって、祝われるって、多分すごく嬉しいんだろうね」(ゆいさん)
【イベントを主催 カラフルブランケッツ 井上ひとみ代表】
「同性カップル、同性婚は自分には関係ないって思っている方が多いと思うんですけど、身近にもいることを知っていただきたい。自分の兄弟や子供、友人にもいるかもしれないって思いながら、関係ないことではないと考えてほしい」
■同性カップルだと隠して生活
カラフルブランケッツの代表を務める井上ひとみさん(42)。
パートナーの瓜本淳子さん(41)と10年間一緒に暮らしています。
付き合い始めたころは、カップルだということを隠して生活していました。
【井上ひとみさん】
「(学生時代に)同性愛に関する情報や友達の反応が、肯定的なものが何1つなかったんです。(友達の家で)深夜番組を一緒に見てたら、たまたまレズビアンカップルさんが出てて。横にいた友達が『うわ、あの人たちレズビアンなん?めちゃめちゃ気持ち悪いよね。こんなん見たくないわ』みたいな感じで言っていて。私はその時、自分がレズビアンやとはっきり自覚していたんで、『あなたの隣にいるのはレズビアンやけど、やっぱり気持ち悪いと思うんかな?』って…。私を傷つけようと思って、そんな事を言ってるんじゃないっていうのは重々分かるんですけど、ものすごく傷つきましたね」
「(私たち2人の関係も)こんなカミングアウトして生きていけるとは思ってなかった。一生隠し通していくんかなと」
■宣誓しても…法律上は赤の他人
打ち明けられるようになったのは、6年前。
性の多様性を認め合うイベントで「結婚式」を挙げたことがきっかけでした。
大勢の人が祝福してくれて、存在を認められたような気がしました。
【井上ひとみさん】
「あれほど幸せな瞬間はないなと思いましたね。終わった後は『もう何回でもやりたい』って思いました。結婚式、ほんまに出来ると思ってなかったよね。出来ると思ってなかったから、したいっていう夢や願望も全く抱いてなかったです。はなから出来ないと思ってたので」
当時は、自治体が同性カップルの存在を認め、関係を尊重する「同性パートナーシップ制度」が広がり始めていた頃。
2人も大阪市でパートナー関係だと宣誓。
近い将来、同性婚の法制化も進むのではと期待しましたが、状況は変わりませんでした。
宣誓しても、2人は法的には赤の他人。
パートナーが急病になったときに、「家族」として治療に関われず、手術の同意や手続きを断られることもあります。
配偶者ではないため、税金の控除を受けられず、どちらかの扶養に入ることもできません。
同性婚が実現しなければ、不安を抱えたまま暮らしていかなければならないのでしょうか。
■家を相続できず…「公正証書遺言」で
【井上ひとみさん】
「私たち家を2014年に買ったんですけど、それが私1人の名義になってることもあり、私が死んだら、パートナーが暮らせなくなるって言うのが1番心配で、何とかしたいと思って」
2人は、「カラフルブランケッツ」の共同代表を務める行政書士の康純香さんに相談して、ある法的な手続きをとることにしました。
それは「公正証書遺言」。
役場で作って保管される、法的な効力を持った遺言です。
家のローンや生活費を半分ずつ出し合っている2人ですが、ひとみさんがもし先に亡くなったら、残された淳子さんは家を相続することができません。
そこで、公正証書遺言を作り、ひとみさんが亡くなった場合は、家が淳子さんに譲られるようにしたのです。
【行政書士 康純香さん】
「同性パートナーの場合は、戸籍を見ても書いていないので、(財産を)もらうことができない、譲ることができない。それぞれの本来の親族、戸籍に載っている法定相続人のものになってしまいます。大切なパートナーを失うと同時に、住むところも失ってしまうことになりかねないです」
公正証書を作るには、平日の日中に役場で手続きをしなければならず、証人の依頼や数万円の費用も必要になるなど、手間も負担もかかります。
それでも、不安を1つでも減らすためには必要でした。
【淳子さん】
「住む家が将来心配だったので、ひとまず安心かなと思います」
【ひとみさん】
「公正証書の中に『同性パートナーの瓜本淳子さん』って書いてあるので、ちゃんと言ってもらって、証明できるものが一つできたのがうれしかったのと、容易に撤回できないことなので、自分の中では婚姻届けを出したのと同じような気持ちになりました」
男女のカップルであれば、婚姻届け1枚で得られる「当たり前の権利」。
ただ、この公正証書で得た「相続」の安心は、婚姻で得られる多様な保障のなかの一部を補うものにすぎません。
【ひとみさん】
「医療機関でもし何かあったときに、『戸籍上のご家族にしか病状説明できない』『手術の同意ができない』とか、そういう問題は公正証書では解決できてないと思うので、まだまだ心配の種はある。私たちのどこが家族じゃないんだろうって思うんです。10年も一緒に暮らして生計ともにしてて、お互い支え合って生きてきているので、これを家族じゃないっていうんだったら何が家族なんだろうって思うんです。法律でも家族だと認めてほしい」
■家族としての安心がほしい
展示会の準備のためにカップルたちが集まりました。
それぞれに、伝えたい思いがあります。
【メッセージを書きに来た人】
「パートナーが同性であることは何も特別なことではないと、もっともっと知ってもらいたい」
【メッセージを書きに来た人】
「(家族に話して)超楽になった。カミングアウトで、これだけ楽になるとは思わなかった。50年以上ずっと言えなかった。まだ会社にもカミングアウトできていないので、今後どうするか分からないですけど。悩んでる人たちが展示会を見て参加してもらうことによって、楽になってくれたらと」
【井上ひとみさん】
「同性婚を認めてほしいのは、税金の面や医療の面もあるんですけど、国が認めてくれることによって、『同性愛って言うのがおかしな事じゃないんだよ』ってお墨付きをくれる部分がすごく大きいと思うんです。それが1番私としては、同性婚を認めてほしい理由です」
自分たちも「いいふうふ」になりたい。そして、家族としての安心がほしい。
淳子さんがひとみさんに宛てたラブレターは、こんな言葉で、締めくくられています。
【淳子さんがひとみさんに宛てたラブレター】
「日本で同性婚が認められるようになったら私と結婚してくれますか? じゅん」
この展示会は11月24日まで開かれています。
(11月22~24日 会場:大阪市北区中之島「ギャラリーMAGATAMA」)
(取材:関西テレビ放送報道センター記者 竹中美穂)