普段は市の職員として働きながら、無償でダンス指導を続ける男性が兵庫県にいます。
教える相手は、様々な障害がある子どもたち。
ダンスが子どもたちにもたらす変化と、男性が活動を続ける理由を取材しました。
■子どもたちに無償でレッスン
ダンスの技術と個性を競い、勝敗を決める、ダンスバトル。
今、障害がある人たちの間でも、ダンスバトルが広がっています。
毎週、開かれているダンス教室「アートファンク姫路」。
ここには発達障害や知的障害など、様々なハンディキャップのある子供たちが通います。
教室の運営に関わっている阿部裕彦(あべひろひこ)さん。
各地で障害者に、無償でダンスを教える活動を続けています。
ダンスを始めたのは高校時代。
普段は、加西市の職員として働いています。
この日、ダンスを教えるのはプロのダンサーを目指している2人。
聴覚に障害があります。
阿部さんは2人に、ジェスチャーと大きな口の動きで指導します。
【阿部さん】
「ジェスチャーです。これで僕がこれだけ、ずっと一緒に居られるんで、誰でもずっと一緒にいられると思います。でもね、ダンスの手話は教えてもらいました」
■障害もつ妹を心配して亡くなった母親
相手の障害にあわせて、全力で指導する阿部さん。
活動を始めた理由は、強い「後悔」の思いでした。
阿部さんの妹、恵子さん。
生まれつき背骨が変形している障害があり、幼いころから入院と退院を繰り返していました。
阿部さんは一緒に過ごした記憶がほとんどなく、今もあまり連絡を取っていないといいます。
【阿部さん】
「幼いころは障害がある妹がコンプレックスでした。友達に会ったら、友達が障害者って見下したり差別したりするんじゃないかなって心の中で思ってたから。社会に対して遠慮してました。すいません、みたいな。感じ。なにかね。車いす押して、すいません、という、そんな感じ」
阿部さんが恵子さんと距離を置く中、つきっきりで恵子さんを介護していたのは、母親の克代さんでした。
誰の前でも明るく気丈に振舞っていましたが、8年前、脳腫瘍で倒れると、口にしたのは恵子さんを心配する言葉ばかり。
亡くなった後、遺品からは、コツコツと貯められた、恵子さん名義の貯金が見つかりました。
【阿部さん】
「最期に涙を流して、記憶が薄れる中で、障害がある子供のことを心配して逝くって、そこを嫌だなって、そんな社会嫌だなって思わないですか。子供産んで、最後心配して死んでいくって、どうなんだろうと。僕の顔をみると『後は頼む』としか言わなかった。それしか聞いてない」
■ダンスを通じて成長する子供たち
妹との関係は、なかなか前に進めることはできません。
それでも、阿部さんが辿り着いた、障害者の自立を支援する方法。
それが、大勢の人を前に自分を表現する「ダンスバトル」でした。
【阿部さん】
「自分を瞬間的に出せる。ダンスはどんな出し方でもオッケーだし、まねできない出し方をした人が、すごく尊敬されるというか。拍手をもらえる」
10月開かれた兵庫県の大会に出場していた、中学1年の嶋尾朱織(しまおあかり)さん。
2歳で自閉症と診断され、人と関わることが苦手でしたが、2年前からアートファンク姫路に通い始め、自分に自信が持てるようになりました。
阿部さんは、家族と一緒になって、子どもたちの変化を見つめています。
【朱織さん】
「ダンス楽しい。お友達もたくさん」
【朱織さんの母・嶋尾みち子さん】
「他人から褒められる、出来てよかったねとか、プラスの言葉もらえることで、自信が積み重なって、表現力も言葉も増えたし、人と接する機会も増えた。怖くないというかな、自分が人と接しても大丈夫なんやと」
ステージを踏むごとに、成長していく子どもたち。
それを、誰よりも喜んでいるのは母親たちです。
11月、障害者ダンスバトル、初の全国大会が開かれました。
アートファンク姫路の子どもたちも、大舞台にあがり、自分を出し切りました。
【朱織さん】
「楽しかった!ダンス!バトル!」
【みち子さん】
「もっともっといろんな人と出会って、人との関わりをもって楽しい生活を送っていってほしいな」
【阿部さん】
「自分の表現を短期間でやってお祭りみたいに、人にも見てもらって、すごく生きてるってことを本人たちが感じているといますので、そのパワーが前向きに勉強に向く人もいれば趣味に向く人もいるだろうし、保護者はその元気な子供をみて今までもしかして託せなかった夢を、もう一度見ていただいて、両方が一歩前進するきっかけになってほしい」
踊り出せば自然と笑顔があふれだす。
ダンスを通して「前に進む」力を届けます。
(関西テレビ「報道ランナー」2021年11月16日放送)