大阪市北区の居酒屋「てつたろう」のオーナー柳川誉之さん(51)。
ある想いを持ってお弁当を作っています。
【柳川さん】
「たったひとつの弁当で、命が救えるかもしれないという気持ちは持ってます。実際助かるかはわからないけど、そうなるかもという希望をひたすら信じてやってます」
大量のお弁当は、路上で寝泊まりするホームレスに配るためのものです。
月に1度、NPOのメンバーと一緒に大阪市北区の路上で寝泊まりしている約80人に直接手渡しています。
【柳川さん】
「今月もおいしいの作ってきましたからね。いつもどうですかお弁当?」
【ホームレスの男性】
「おいしいですよ」
【NPOメンバー】
「お弁当なにか入れてほしいのとかある?」
【ホームレスの男性】
「欲を言えばキリがない」
【柳川さん】
「この機会に欲言って下さい。言ってもらったらなんか入れますよ。何が好きとか言うてもらったら。」
【ホームレスの男性】
「酢の物が好き、ごはんだけでなく、お酢系がたことかなんかいれたきゅうりもんとか、お酢だけでも飲んでますもん」
【柳川さん】
「来月はタコ酢かもみ酢かなんかいれますね」
【認定NPO法人 Homedoor 川口加奈 理事】
「てつたろうさんのお弁当になったとき、お弁当自体が豪華なので、弁当めがけて遠くからもらいに来たりする人がいらっしゃって」
【柳川さん】
「1回2回でわからなかったところかが5、6回目でわかってくることがある。てつたろうがある限り、続けていきたいですね」
お弁当は「てつたろう」のお客さんの応援で作られています。
【客】
「イーデリでお願いしたいんですけど」
【店員】
「かしこまりました」
ホームレスの支援に賛同するお客さんが翌月1カ月間使える食券を買い、お店で使った場合2%が、使い切らなかった場合は残りがお弁当の資金に充てられる「イーデリ」という仕組みを作りました。
【イーデリ利用者】
「自分たちもおいしく食べられて、さらに支援になるというところで、二重の意味で幸せだなと思ってきてます」
「(支援の)輪が広がっていくのは、柳川さんの人間的魅力が広がっているからかなと思う」
これまでに161人がイーデリを利用。約140万円の資金が生まれました。集まった資金はホームレスのお弁当以外にも…
この日、柳川さんがお菓子を持って訪れたのは自殺を防ぐための電話相談をしているNPO法人です。
【相談員】
「大阪自殺防止センターです」
相談件数はおととしに比べ約2割増加。コロナの影響で経済的に困窮している人からの相談が目立っているといいます。
月に1万件以上の「悩み」を受ける相談員に、リラックスしてもらおうと柳川さんは定期的にお菓子を差し入れています。
【認定NPO法人国際ビフレンダーズ北條達人 理事長】
「相談者の6割以上が自殺したいと思った状態で電話をかけてくるんですね。孤独に黙々と相談員も向き合っていきますので、どうしてもしんどい時もある。お菓子を食べられてほっとするなという以上に、だれかが見守ってくれてるような活動なんだな、もうちょっと頑張ろうかなと思える。」
【柳川さん】
「自殺を防ぎたいというか減らしたいんですよね、根本が。かといって“自殺の名所”に行って、じっと待って、『やめとけ』というのは自分もできないし。活躍されているボランティアの方を応援することで、間接的ではあるけど、1人2人救われていく人が生まれるんじゃないかなと思います。」
コロナで変わってしまった日常。
てつたろうも例外ではありません。
【柳川さん】
「取引先に支払いが遅れたりとかいろんな方面に迷惑をかけていたので、見方によっては人にご飯を配っている場合じゃないという部分はあったかもしれない。」
連日賑わっていた100以上ある客席はほとんど埋まらず、ことし1月から9月までの売上は、コロナ前と比べ7割以上も減りました。
その状況で、「だれかの自殺を防ぎたい」と行動するのは、ある理由があります。
「ホテルで撮ったやつですね。多分、お見合い写真やと思うですけどね」
柳川さんの兄・容増さん(当時34歳)。
31年前、事業に失敗し多額の借金を抱えるなか自ら命を絶ちました。
【母・派硫子さん(90)】
「兄弟想いでよく世話する、小さい時から、世話焼きみたいな。借金があっても死ぬことだけはしたらあかんって教えてあげたら死んでないかも。私が言わんかったから死んだんや。」
「まさか死ぬとは思わへんから、それが言えなかった。いつでも一言、線香あげて、ごめんな、一言遅かったな。一言言われへんかったんごめんな。ごめんな、ごめんなばかり言うてます。子供が死ぬということは親がどんだけ悲しいか。子供は大事ですよ。1回おらんようになったら来ないし、会われへんもん」
遺された家族はずっと「あの時、何かできなかったのか」と思い続けて生きています。
【柳川さん】
「(死んだ兄が)会うたびにね、必ずいう言葉がね、『メシ食うたんか?』なんですよ。電話きても、会っても『メシ食うたんか?』。まだっていうたら、どこか焼き肉屋とか中華屋に連れて行ってもらえたり。僕もできるだけ人に言おうとしてるし、そこで何か愛情だったり関心だったり、何かを相手に感じてもらえると思う。色々考えていても聞こえてくる声は『メシ食うたんか?』ですもんね」
ことし10月
【ホームレスの男性】
「ひとつひとつ味がええもんね」
【柳川さん】
「炊き出し自体がやってないの?」
【ホームレスの男性】
「アルミ缶集めても1000円なるかならんかやで」
【柳川さん】
「まあでもこうやってあしたも、あしたも元気に生きてくれたら。みんなしんどいことあると思うけど」
お弁当と一緒に、寄り添う言葉を届けます。
【ホームレスの男性】
「おなか一杯になった」
【柳川さん】
「よかった」
お店に賑わいが戻り始めました。
食を通じて「命を救いたい」。柳川さんの支援はこれからも続きます。
(2021年11月3日放送)