■シャッターを彩るアーティスト
色鮮やかなアートを作り上げていくアーティストたち。
キャンバスは、店のシャッターです。
神戸市長田区にある大正筋商店街。
約60の店舗が軒を連ねています。
この商店街でシャッターを彩る「シャッターアート」が進められています。
参加したアーティストの一人、宮本明香さん。
普段は、西宮市の自宅でイラストレーターと絵本作家の仕事をしています。
【宮本明香さん】
「出来上がりはいつも見てもらうんですけど、描いている“過程”を人に見られる事ってないんで、緊張と嬉しさと」
宮本さん、2021年1月までは夫の実家がある長田区でギャラリーを営んでいました。
【宮本明香さん】
「ギャラリ―運営をしている時に、長田区のたくさんの方たちに応援して頂いたりとか、励まして頂いたりもあったので、1クリエイターとして街に何かしら還元できないかなって思っていた時に、シャッターに私の絵が残ったら嬉しいなって思って応募しました」
コロナの影響により不動産会社が倒産したため、ギャラリーが入っていたビルが閉鎖されたのです。
この町が大変な目に遭うのは、これが初めてではありません。
■震災そしてコロナ、商店街に変化を作るために…
26年前の阪神淡路大震災。
大規模な火災がいくつも発生しました。
大正筋商店街でも、店舗の9割が焼失。
その後、神戸市の再開発事業のなかで、長田の再建は遅れ、かつての賑わいは今も戻っていません。
そして、新型コロナの影響。
撤退する店も出てきていて、閉まったままのシャッターも目立ちます。
この商店街でリハビリ施設を経営する34歳の廣田恭佑さん。
4年前にやってきて去年から理事を務めています。
【大正筋商店街理事・広田恭佑さん】
「震災前というか、そこに戻り切れてない部分みたいなところは肌で感じていて、そんな中で僕たちはそれが無くて、ゼロで入ってきてるので、もっとゼロからプラスにもっていってもいいんじゃないか」
「ゼロからプラス」にする一歩として始めるシャッターアート。
応募してきたアーティストの作品をお店が選びます。
「『ほんとに成長する商店街』っていうフレーズ、そこには変化っていうのがずっと付いてくるかなって思いますんで、個々が諦めずに、何かちょっとでもいいように変えていこうっていう、その行動が一歩あれば、すごくいい商店街になるのかな」
創業36年のパン屋さん「HORUS(ホルス)」。
宮本さんがこの店のシャッターを彩ることになりました。
この組み合わせは偶然でしたが…。
【宮本明香さん】
「ビックリしましたね。主人のお父様とおばあ様がすごくホルスさんの食パンが大好きで。大正筋商店街のシャッターに私が絵を描いて、それを見て欲しいっていう気持ちもあったんですけど、これがまさかお父さんの大好きなホルスさんになるなんて、引き寄せられたとしか思えないです」
■描くのは亡き義父が愛したパン屋さん
2021年5月に亡くなった宮本さんの義理のお父さんが大好きだった店でした。
【HORUS・笹岡友子さん】
「なんかご縁感じます。宮本さんを選ばせていただいて」
【宮本明香さん】
「その辺りの経緯を私全然知らなかったので、笹岡さんが私を選んでくださったっていう事で」
【HORUS・笹岡友子さん】
「もうひと目で気に入って」
【宮本明香さん】
「そうやったんですね。めっちゃ嬉しいです」
【HORUS社長・笹岡丈二さん】
「どうもご苦労様です。いや、素晴らしいね。今日完成ですか?」
【宮本明香さん】
「どうですかね。今日か29日かに完成です」
【HORUS社長・笹岡丈二さん】
「これ、パン増やしてくださったんですか」
【宮本明香さん】
「はい」
【HORUS社長・笹岡丈二さん】
「まだ途中やけどなんかメルヘンチックで、素晴らしい物になるんじゃないですか。完成が楽しみやね。まぁ言うても、閉店の時しか見られんゆうのがな(笑い)。なんやったらこの壁にも描いてほしいくらいやな」
震災で全壊したホルス。
それでもこの地で再建し営業してきました。
【HORUS社長・笹岡丈二さん】
「店自体グチャーって潰れてしまったからね。挟まることなくみんな出れて。もしそこでケガとか、もっとひどい事になってたら、僕もやっぱりここで商売ようせんかったやろうな。出来るだけ若い人がここに来て、新しい商売とか、事業を起こしてもらえたらと思います。せっかくこんだけ足の便がいい所で、こんだけの場所があるんですからね」
少しずつ増えていく彩り。
街の人も見つめます。
■商店街に増えていく彩り
【通りかかった人たち】
「今日で仕上げ?元気が出るね」
「あー、かわいい!」
「ゾウさんと男の子とワニや」
【宮本明香さん】
「正解」
【宮本明香さん】
「完成です。想像していた以上に可愛くて、ほのぼのしてて、みんな笑ってて温かい気持ちになります。ありがとうございました。この三日間制作してて通りすがった方が、『可愛い』とか『いいな』とか、そういうお声が聞こえてくるので、長田の地域の方々に貢献…とまではいかないですけど、温かい気持ちになってもらえるかなっと思います。自分で言うのもなんですが、意外といいなと思います」
ずっと踏ん張ってきた商店街。
大切に思う人たちの彩りが風景に加わりました。
(2021年10月13日放送)