私たちが着ている服。
これ1つをカタチにするために、大きな労力がかかっていて、その過程で大量のゴミも出てしまっています。
そんな中、ファッション業界で注目されているのが「3Dモデリスト」。
これまで平面でのみ作図されてきた服の型紙を、 パソコン上で3DのCG技術を使い、立体の形状に仕上げる技術を持ったファッションクリエイターです。
試作品作りの工程を大幅に省くことができ、環境にも優しいのが特徴です。
今回、「3Dモデリスト」を志す学生に密着しました。
■3Dモデリングに挑戦! 20歳の学生
大阪文化服装学院。
ここには、ファッション業界を志す若者たちが集います。
この学院に通う2年生、今井萌花さん(20)。
子供服を販売していた母親の影響で、デザイナーや、デザインを形にするパタンナーに憧れ、ファッションの道へ足を踏み入れました。
萌花さんが選択したコースは、今年、全国の専門学校で初めて開設されたばかりの最先端の分野。
その名も、「3Dモデリスト」コースです。
3Dモデリストとは、これまで平面でのみ作図されてきた服の型紙を、 パソコン上で3DのCG技術を使い、立体の形状に仕上げる技術を持つファッションクリエイターのことです。
【今井萌花さん】
「(オリエンテーションで)先生が『これ見てください』って。皆『え?こんなん、え?これ最新の技術?!』って驚いていた感じでした」
「もう、他のコースで決めてたんですよ、私。でも『お、これや』って、すぐころっと変わりました」
服作りで最も時間を要するのが、試作品作りです。
型紙を作り、生地を切って縫い合わせます。
そして着用感を確認したら、型紙に微調整を加え、また生地を切り…と、完成までには5回ほど試作品を作り直す工程があります。
それが、3Dモデリングでは…
【3Dモデリスト 志茂資士さん】
「スカートを広げます。裾幅を35センチメートルぐらいまで広げて…ざっくりですけど、ワンピースをアバターに着せるという作業は、たぶん10分もかからないで済むと思うんです」
あっという間に修正が完了。
着用イメージをリアルに再現できる3Dモデリングなら、チェックのほとんどをパソコン上で済ませ、試作品作りの工程を大幅に省くことができるのです。
3Dモデリングにすっかり魅了された萌花さんですが、慣れないパソコン作業に四苦八苦。
パンツもベルトも、縫い合わせがちぐはぐです。
【今井萌花さん】
「全部うまいこといってない…めっちゃ難しい。頭使いますね」
実は萌花さん、デザインのセンスはピカイチ。
1年生の時にデザインしたドレスが学内で評価を受け、表彰されたほどです。
その上で、未知の分野に飛び込んだのは、デザインの伝え方を広げるためでした。
【今井萌花さん】
「好きなことを追求するために3Dモデリングは必要やなって思って」
■3Dモデリングにはアパレル企業も大きな関心
夢を掴むために学び始めた3Dモデリング。
この技術に大きな関心を寄せているのが、大阪市に本社を置くアパレル企業、「アーバンリサーチ」です。
【アーバンリサーチSBU部 新山浩児部長】
「ものづくりの方でもそういうDX化(デジタル技術による改革)ってしていかないといけないと思うので、これはちょっとチャレンジしとかないと」
全盛のバブル期には15兆円あった国内のアパレル市場は、輸入品の割合が増えるとともに、大きく右肩下がりへ。
そこに新型コロナウイルスが追い打ちをかけ、多くのアパレル企業が倒産に追い込まれました。
【アーバンリサーチ 新山浩児部長】
「何か変えていかないといけないとは常に思ってるんですけど、今回、特に考えさせられたところはありますね」
アーバンリサーチでは年に新作が何百着も生まれます。
その度に試作品作りに追われるため、時間とコストが大幅に削減できる3Dモデリングに期待しているのです。
そんなメリットを確認するため、アーバンリサーチでは、萌花さんたち3Dモデリストコースの学生と一緒に、商品開発をすることになりました。
コラボするのは、アーバンリサーチの中でも特に環境に優しい商品を扱うブランド「ザ・グッドランド・マーケット」。
最終的にごみになってしまう大量の試作品を大幅に削減できる3Dモデリングは、ブランドイメージにピッタリだと期待が高まります。
■プロ相手にプレゼンへ挑む学生たち
萌花さんたちはプレゼンに向け、準備を進めます。
【今井萌花さん】
「ギャザー寄せてるんですけど」
【大阪文化服装学院の講師】
「ここだけ(ギャザーが)ないの気になるわ。ここも寄せてみたら」
【今井萌花さん】
「やっと、何を動かせばいいのかわかってきた気がします」
テーマは「誰にでもやさしい服」。
萌花さんは、体型が変化しても、ずっと愛用できるワンピースを提案します。
【大阪文化服装学院の講師】
「まず中間。中間プレゼンでそこでまたいろんな意見言われると思うから、そんなにかしこまって読む必要もないよ」
プロにデザインを提案する、プレゼン当日。
【学生】
「左身ごろだけ3枚仕立てになっていて、上のこれがコットンで、その下のこの生地がレース生地」
まるで本物の生地のようにめくれ上がると、アーバンリサーチの商品の企画担当者も興味津々です。
【今井萌花さん】
「エプロンワンピースのデザインで、提案させていただきます」
緊張の様子の萌花さん。
妊婦の体型にも対応できるということを、アバターを使って説明します。
【今井萌花さん】
「特徴としては、胸元のところをポケットにして、リップとかウエットティッシュとか、そういうものを入れられるように深さを調整しています」
着る人を思い、厳しい目で見るプロたちですが、萌花さんたちのプレゼンに、3Dモデリングの可能性を感じていました。
【アーバンリサーチ 新山浩児部長】
「課題がたくさんあってもいいのよ。デザインはなんぼでも(変えられる)。それ(3Dモデリング)の一番いいところやから。すぐに変えることができるんだから。しっかり次は話できたらいいかなと思っています」
【アーバンリサーチ 下間祥子さん】
「実際の妊婦さんにサンプルの商品を着ていただくということは、現場だとなかなかない機会なので、そういったところを想定して組み立てられるというのはすごくいいなと思いましたし、かなりリアルだなとは思いましたね」
【今井萌花さん】
「どういうお客さんに向けて作るから、こういうデザインにした方がいいっていう練り直しも効いていくので、(画面上で服を)動かしながら、引っ張って見せるとか、そういう風にした方が皆さんの反応もよかったので、そういう使い方もしたいなって思いました」
発売は2022年3月。
ファッション業界の未来を見つめる若者たち。
新たな技術を手に、どんな服を生み出すのでしょうか。
(カンテレ「報道ランナー」9月7日放送)