新型コロナの影響で延々と続く「移動の自粛」。
鉄道業界から、かつてのような活気が消えています。
これに伴い、旅の楽しみの一つ「駅弁」も売り上げが激減。
かつてない危機に見舞われている老舗の駅弁メーカーを取材しました。
■コロナ禍のなか 「駅弁」をテーマにした新店舗をオープン
7月29日、神戸・三宮駅の高架下にオープンしたこちらの店舗。
目を引くのは大きな駅弁マーク。
たくさんのお弁当だけでなく全国の駅弁グッズをここで買うことができます。
この駅弁をテーマにした新店舗その名も”駅弁市場”です。
【駅弁メーカー・淡路屋 柳本雄基副社長】
「もっと(テレビ)映る? いま初めて会話したんですよ」
気さくに従業員に話かけるこちらの男性。
店の責任者で神戸の老舗駅弁メーカー「淡路屋」の柳本雄基さん、39歳です。
【柳本副社長】
「一応この会社の副社長なんですよ」
コロナ禍の駅弁業界。新進気鋭の副社長率いる駅弁メーカーの挑戦とは…。
明治36年創業、118年の歴史を持つ神戸の駅弁メーカー「淡路屋」。
全国の駅弁メーカーでもトップクラスの売上を誇ります。
タコつぼを模した特徴的な容器で、多くのファンを獲得している看板商品「ひっぱりだこ飯」。
糸をひっぱると具材が温められ、暖かい駅弁を食べることができる「あっちっち弁当」。
アイデアあふれる商品が魅力の会社です。
そんな淡路屋で新商品の企画、商品のデザイン、営業、広報、そして副社長を任せられたのが柳本さんなのです。
【柳本副社長】
「ずっと戦前から、今とは全然違う料亭から鉄道ビジネスを初めて、宝塚の地から神戸に移ってきたりとか。今まで人がしたことないようなことをどんどんやっていく。うちは“変化し続けることが安定”という変わった会社なのかなと」
■「真剣にふざけよう!」新商品開発にかける思い
この日は、土用丑の日に合わせた新商品の会議…
【柳本副社長】
「一生懸命作ったんですと言ったって、そんなん皆一生懸命やっているに決まっていてるやないかい。そこでうちのユニークさよ。真面目に考えすぎたらあかん、真剣にふざけよう」
ーーQ:会議で大事にしていることは?
【柳本副社長】
「ギスギスしないこと。きょう結構ギスギスしてた?」
【若手営業社員】
「緊張してたんじゃないですか」
【柳本副社長】
「それはカンテレさんが悪いねんな(笑) 喧嘩しながら、泣きながらええもん出来る訳がない」
淡路屋もこの新型コロナで今までにないほどの苦しい状況に陥っています。
【柳本副社長】
「実際のところ売上は2020年の95%減くらいになっている、4~5月は緊急事態宣言でボロボロの状態になりまして。創業以来じゃないですかね」
電車と共に歩んできた駅弁業界にとって、「移動の自粛」は大きな打撃となりました。
一番ひどい時では、1週間で1万個売れていた弁当が、300個しか売れないこともありました。
この工場でも社員数人だけで、1時間ほど弁当を作って帰る日々もあったといいます
【柳本副社長】
「だいぶ元に戻してきているけど、コロナ前に比べたら半分以下ですかね。これ「ひっぱりだこ飯」の壺の山ですよ。ただコロナになってからペース悪いんで。本当はこんなにたまってないんですよ、日に日に無くなっていくんですけど」
そんな中でも…
副社長も笑えば、従業員も良く笑う。淡路屋の社風なのか。
社内に悲壮感は漂っていません。
【柳本副社長】
「この人、勤続年数が結構長いですよ」
【料理長】
「もう35~36年になります」
【柳本副社長】
「やいのやいのケンカしながら作っていって、この15年くらいは二人で商品開発している」
ーーQ:柳本副社長に不満は?
【料理長】
「いや~、色々ありますよ(笑)」
【柳本副社長】
「ずっと聞いてます、全然我慢せんと直接言うんで。うちの会社年齢関係ないので」
【従業員】
「私は(勤続)2年です~」
【柳本副社長】
「2年? 0が1個抜けとるやろ(笑)」
ーーQ:コロナで変化はあった?
【従業員】
「休み、休みで休業ばっかし。よう休ませてもらいました~、ははは」
■売り上げ減少の打開に向けた 淡路屋の新たな作戦
売り上げが減少する中、淡路屋はどんな手を講じているのか…。
その一つが「どこでも駅弁」
これは“駅以外”の販路の拡大を目指し強化している通信販売です。
作られた駅弁を瞬時に“急速冷凍”することで、北は北海道、南は沖縄まで全国に送ることができるようにしました。
「蓋だけ」
コチラは看板商品の「ひっぱりだこ飯」の“蓋”だけ。
通常容器には紙の蓋がついてますが、この容器の蓋を販売したところ、7か月で約8,000個が売れました。
【柳本副社長】
「もちろん売り上げもボロボロですけど、新しいことや今まで出来なかった事に対して、どんどん取り組むようにする。喜びを感じられる回数が多くて、みんなやる気満々。苦労・苦労って言ったって、それは未来に対する取り組みですから、特に苦労だとは感じていない、みんな笑顔で楽しそうにやってます」
■コロナ禍で移動自粛となっても 「駅弁を忘れさせない」
そして、もうひとつの挑戦がこの「駅弁市場」。
テーマはコロナ後に向けて、「駅弁を忘れさせない」です。
【訪れた人は…】
「この“日本の朝食弁当”をください」
「おちょこが欲しいんですけど」
次々と売れていく弁当やグッズ。
買っていく人にとって、駅弁は単なる「おいしいお弁当」以上の意味を持つようです。
ーーQ:最近駅弁食べました?
【訪れた人は…】
「全然食べていません、新幹線に乗ることもないので。だけど、こうして駅弁を買うと遠方に行ったときの思い出とか思い出すじゃないですか、そういう目的での駅弁購入もいいのかなって」
「昔だったらお茶をもって新幹線に乗る…とか、それがちょっとした旅行とかワクワク感。駅弁ってなんか特別じゃないですか。そういう思いを味わえるっていうのも嬉しい」
淡路屋の次の挑戦は全国の駅弁を取り寄せて販売することです。
【柳本副社長】
「コロナで不安はありますが、放っていても売り上げが回復するもんじゃないでしょう。
じっとしていたら古臭くなりますので。駅弁という枠組みの中で、常に新しい動きをし続けて常に新しい駅弁を生み出し続けたいですね」
(2021年8月5日放送)