人と動物がともに寄り添って暮らす高齢者施設が大阪にあります。
家族と会えない状況が続く中、犬や猫との触れ合いがもたらす癒やしの日々を見つめました。
大阪市住之江区にある特別養護老人ホーム「加賀屋の森」
体の衰えや認知症などがあり、日常生活全般で介助が必要な高齢者が生活しています。
ここでは、4匹の猫と柴犬の「いおり」ちゃんが、大切な存在としてそばに寄り添っています。
【入居者 宮みどりさん】
「加賀屋の森って言ったら、いおりちゃん。それしかないもんな。加賀屋の森イコールいおりちゃんってなってる。当たり前みたいに。いおりちゃんのおかげで、みんな明るくてな、仲良しで」
6年前から入居している高橋栄さん、99歳。
息子夫婦がすぐ近くに住んでいますが、新型コロナウイルスの影響で面会ができず、顔が見えない日々が続いています。
【高橋さんの息子 義彦さん】
「僕は去年の3月ぐらいから全然(会いに)行ってない。2月か3月か」
高橋さんは83歳の時に卵巣がんがあることが分かりました。
医師に「余命3カ月」と言われましたが、今年の9月には100歳を迎えます。
【義彦さんの妻 多美子さん】
「顔がいい顔してるわ。大好きやね。動物好きで良かったなと思いますわ。生きる力持ってはるんですね。それは、いおりちゃんとか、猫ちゃんからもらってるのかも分かりません。周りの人に助けてもらっていけてんのやろね。やっぱり百聞は一見に如かず、会いたいですね」
いおりちゃんが、それまで暮らしていたところから「加賀屋の森」にやってきたのは2018年。
新しい飼い主を探していた いおりちゃんを紹介してくれたのは、トリミングサロンの奥保ちよ子さんと、娘の匡永さんです。
【2018年にいおりちゃんを紹介 奥保ちよ子さん】
「初めは落ち着かへんかった子でね。ガサガサしてたんですけど、加賀屋の森に行ってからなんですよ。あんだけ落ち着いてちゃんと人の話も聞けるようになったんが。お顔も優しなってるしね。本当にありがたいことです。あんなええ子になるとは思ってなかった」
いおりちゃんは、今では、入居者だけでなく職員の間でも人気者です。
【加賀屋の森の職員】
「職員も表情柔らかい感じになって。しんどいこととか嫌なこととかあったりしたら、すぐみんな(いおりちゃんの所に)行きますしね。『聞いて』みたいな感じで。すごく癒やされますね」
「加賀屋の森」と同じ法人が運営するグループホーム、「東加賀屋のつるさんかめさんとみんなの家」は、飼っているペットを連れて入居することができます。
【飼い猫と入居する 北野八重子さん】
「ここやったら猫一緒でもいいっていうから、連れてきたんよ。他にも行くとこあったんやけどね、猫入れてくれるとこなかった、ここしか。『あの世へも一緒に逝こうな』言うてんねん」
高齢者と動物が寄り添いながら生きていく。
これは、施設を運営する法人の理事長が、かねてから思い描いてきた光景です。
【社会医療法人三宝会 三木康彰 理事長】
「施設というよりは、普通の家庭環境を目指しているんですね。ここに来たらペットがいるんだ、もしかしたら自分のペットも連れてこれるかなって思ってもらえたらね」
■感染拡大で「クラスター」発生…「いおりちゃん」との触れ合いも中止に
4月、新型コロナウイルスの感染者数は高止まりが続き、「加賀屋の森」と同じグループの「南港病院」でも、患者の受け入れが増加していました。
【グループの全体報告会でのやりとり】
「1名フォローアップセンターより入院となってます。それから死亡退院がありました」
「大阪市のフォローアップセンターからのご紹介で67歳の女性の方、COVID(新型コロナ)で、ご入院になってます」
【加賀屋の森 矢部賢太施設長】
「加賀屋の森、矢部です。コロナ関連ですが、24日、土曜日に看護師がPCR陽性、発熱ということで、陽性になりました」
【医師】
「その方はワクチンは?」
【加賀屋の森 矢部賢太施設長】
「ワクチン打ってません、まだ打ってません。一部の者は医療従事者として打ってるんです」
5月、「加賀屋の森」はクラスターに襲われました。
職員と利用者、合わせて19人の感染が判明し、施設は3週間に渡って閉ざされました。
【加賀屋の森 矢部賢太施設長 】
「コロナが出てしまいまして、その対応で毎日PCR検査ですね。本当に生きた心地がしないという、そんな感じですね」
入居者といおりちゃんたちの触れ合い活動も中止されましたが、並行してワクチンの接種が進められ、触れ合い活動を再び再開できる日がやってきました。
【加賀屋の森の入居者】
「いおりちゃん。いらっしゃい」
「いおりちゃん。久しぶりやね。このごろ、コロナウイルスで、いおりちゃんも来ないってしゃべってましてん」
外部からの立ち入り解禁と共に、施設内の移動制限も解かれ、「加賀屋の森」に少しずつ日常が戻ってきました。
7月、入居者と家族の面会が一部認められるようになりました。
1階ロビーで15分に限り、会うことができるようになったのです。
訪れたのは、高橋栄さんの息子・義彦さんと妻の多美子さんです。
【高橋さんの息子 義彦さん】
「義彦やで、分かる?」
【義彦さんの妻 多美子さん】
「声出して」
【入居者 高橋栄さん】
「義彦。多美子さん」
【義彦さんの妻 多美子さん】
「良かったわ、来た甲斐あった。今度もっと大きな声出してな、来た時」
【高橋さんの息子 義彦さん】
「良かった、ちゃんと(顔を)見られた。また来るよ、元気しときや」
人と動物が一つ屋根の下で暮らす、終の棲家。
新しい家族の形が、そこにはありました。
(カンテレ「報道ランナー」7月28日放送)