夏の街を彩るはずだった祇園祭「山鉾巡行」の中止が決まった京都。
コロナの影響で我慢の時が続く中でも、壮大な復活に備える人たちがいます。
200年前に焼け落ちた山鉾を復元し、お囃子も一から作り上げた保存会。
伝統を守り、作っていく姿を追いました。
京都の町中を歩いていると聞こえてくる祇園囃子。
ほんの少し、祭の雰囲気が漂っています。
繁華街からは少し離れたところで行われていた練習を覗いてみました。
練習に励むのは、山の1つ「鷹山」(たかやま)の囃子方(はやしかた)。
200年越しの特別な時に備えています。
「鷹山」は、室町時代から祇園祭へ参加していたことが記録されています。
ところが、約200年前に、鐘とご神体の一部を残して焼けてしまい、以来、山鉾巡行に参加できない「休み山」とされてきました。
しかし、6年前、町内の人たちが保存会を設立し、残された資料を読み解いて復元に着手。
今年になってやっと、その全貌が見えてきたのです。
【鷹山保存会 山田純司 理事長】
「今までは木組みだけの状態で見てたのでまだ実感はなかったんですけど、こうやって屋根も付けて、なおかつ懸装品(けそうひん)も全部つけてというと、巡行できる姿に本当に近づいたなと。いろんな縁が集まって、来年巡行できるというのは、それも神様がそろそろ巡行しよかと思わはったんちゃうかなと」
来年、山鉾巡行への復活が予定されているのです。
■「鷹山」復活へ挑戦 「お囃子」も一から
復元が必要なのは山だけではありません。
巡行するにはお囃子の演奏が必要ですが、当時奏でられていたお囃子についての資料は一切残っておらず、お囃子も、演者も作り上げる必要があったのです。
その大役を担うのが、別の山で長年囃子方をしていた西村健吾さんです。
【鷹山保存会 囃子方代表 西村健吾さん】
「最初はすごく悩みましたよ。(これまで囃子方をしていた)北観音山は降りたくなくて。大好きな山で。ただ、思ったより、みんなの(鷹山に)集まってくる人たちのパワーもあって、こいつらと復興させたいなという思いが強くなってきて、決断しましたね。間違ってはいないと思います」
新型コロナの影響で稽古は中止していましたが、祇園祭を前に数か月ぶりに再開しました。
現在約50人いる鷹山の囃子方は発足当時たったの8人で、経験者は西村さんともう1人だけ。
西村さんは、1から指導をしてきました。
【西村健吾さん】
「ほんまひどかったですよ。本当に、これですんのという状態だった」
【鷹山のメンバーの1人】
「今でもさっき吹いてたらここはこうやったほうがええと言われて。みんなの先生」
来年の復活に向け、西村さんたちは鷹山独自の曲を模索してきました。
【鷹山のメンバーの1人】
「すぐ聞いてわかるのは、鐘の音色ですね。これは鷹山でしかないものですし、ほかの山鉾聞いても全く違うというのはすぐ分かっていただけると思う。」
【西村健吾さん】
「みんなで投票しながら、忘年会で、この曲はこういうイメージの名前にするって、みんなで決めた感じがあったね。鷹山の曲っていうのは、そこからちょっと変わってきたかもしれない」
メンバー全員で話し合いながら、鷹山にしかできないお囃子を作り、2019年には、山の代わりに唐櫃(からびつ)を曳く特別な形で、山鉾巡行への参加を認められ、お囃子の披露も出来ました。
西村さんは鷹山の町内で80年以上続く寿司屋の3代目。
囃子方として祇園祭に40年以上参加してきました。
去年は生まれて初めて山鉾巡行の完全中止を経験。
そして今年も同じ夏を迎えます。
【鷹山保存会 囃子方代表 西村健吾さん】
「お囃子がないということはやりたいという子も少なくなることやしね。お祭りが普通通りやって、興味を持ってやりたいと思う子が何人かいてくれれば、全部どこの山鉾でも囃子方が不足することはないし」
■旅館に八坂神社も…様々な場所でお囃子を披露
ただ、去年から状況の変化もあります。
去年は人前で演奏する機会は一切ありませんでしたが、今年は、来年復活を控える鷹山の存在を多くの人に知ってもらうため、旅館など、様々な場所から呼ばれる機会が出てきたのです。
【お囃子を聞いた人】
「知らなかったです。初めて聞きました。最近こういうお祭りとかも全然ないので、ここで聞けて元気になりました」
【お囃子を聞いた人】
「鷹山を初めて知ったので、来年探して、皆さんにお会いできたらうれしいなと思いました」
そして祭そのものにも変化が。
6月下旬、鷹山保存会が訪れたのは八坂神社。
去年は中止となった、祇園祭の始まりを告げる神事「奉納囃子」(ほうのうばやし)が開催されたのです。
2年ぶりの神事。
1から作り上げた鷹山のお囃子が、八坂神社に響き渡ります。
去年よりわずかに増えた披露の場で、少しでも多くの人にお囃子を届けます。
200年ぶりの山鉾巡行に向け、お囃子の稽古は続きます。
【鷹山保存会 囃子方代表 西村健吾さん】
「今まで当たり前のようにできたことが去年できなかった。集まる機会を大事に考えてくれていると思うので、そこは大事に時間を使いたいなと思います。気持ちはみんな毎年一緒の夏がやってくる」
来年に迎える特別な1年のため、今年は限られた場でお囃子を奏で続けます。
(カンテレ「報道ランナー」 7月12日放送)