あべのハルカス近鉄本店に日本人に人気の「台湾」をテーマにしたフロアがオープンしました。
コロナで台湾のスタッフが来日できず、料理などの指導はすべてオンラインという異例の事態、オープンまでの苦難の舞台裏を取材しました。
■10億円かけ、開業以来の大改装
売り場面積が10万平方メートルと、全国最大規模を誇るあべのハルカス近鉄本店。
3月、10階の売り場をのぞくと、大部分が衝立で覆われていました。
積み上げられているのは・・・いま、日本人に人気の台湾から直輸入した商品です。
【近鉄百貨店事業開発部 福島登紀子課長】
「かなり大規模な売り場になるので、なかなか百貨店でこれだけの規模で台湾のっていう売り場はかなり珍しいかなと思います」
2014年の開業以来、初めてとなる大規模な改装。
10階と1階、そして地下2階のフロアを約10億円かけて刷新します。
その目玉となるのが、10階の「台湾フロア」台湾で人気の食品雑貨セレクトショップ。
「神農生活(しんのうせいかつ)」が手掛ける、レストラン、ティーサロン、そして雑貨店が、日本に初めて進出します。
コロナの影響で、去年秋のオープンを見送っていましたが・・・
【近鉄百貨店事業開発部 村中勝彦部長】
「逆にこの時期にあけることによって、コロナで台湾に行けないお客様、店頭で見ていただいて、触っていただいて、旅行気分っていうんですかね、台湾の旅行気分を味わってもらうことを優先した方がいいんではないかと」
外国人観光客が減り、6年ぶりに赤字に転落した近鉄百貨店。
国内で関心の高い「台湾」に起死回生をかけ、日本人客の取り込みを狙います。
■直前に…台湾スタッフが来日できないトラブルが
しかし、この時期のオープンには大きな課題がありました。
台湾フロアの統括を任されたバイヤーの福島さん。
【近鉄百貨店事業開発部 福島登紀子課長】
「茶葉が何グラム、お水の量がだいたい120ml,70ml、お湯の温度これぐらい、今この通りお茶入れてみて、本当においしく飲めるのか検証しています」
本来、お茶の入れ方は、「茶芸師」と呼ばれる国家資格をもった専門家が、教えてくれるはずでしたが、コロナの影響で日本に来れなくなり、手探りで進めることになったのです。
【近鉄百貨店事業開発部 福島登紀子課長】
「やっぱり薄いな…やっぱりう薄い」
「ちょっとあんまり、風味が・・・」
さらに、苦戦を強いられたのが、レストラン「食習(しょくしゅう)」です。
シェフを務めるのは、20年間、広東料理の有名店で務めてきた髙橋さん。
厨房で調理しながら、オンラインで会話しています。
【近鉄百貨店 髙橋大輔シェフ】
「パグハウア(大丈夫ですか?)」
「OKです」
「メゲンティア(問題ない?)」
店で出すのは、定番メニューではなく、「おふくろの味」。
台湾の料理人が来て、直接指導を受ける予定でしたが、すべてオンラインでのやりとりに…。
【近鉄百貨店 髙橋大輔シェフ】
「レシピだよりなので完全に」
「なかなか思うように進まないのでこちらも」
豚肉やイカ、干し豆腐を炒めた「はっか炒め」では・・・
【近鉄百貨店 髙橋大輔シェフ】
「醤油の色とか大丈夫?」
【台湾側】
「ちょっと薄いです。醤油の量もうちょっと入れてもいい」
【近鉄百貨店 髙橋大輔シェフ】
「さっきより分量増やしたけど、、ちょっと薄い?」
【台湾側】
「ちょっと薄いです」
レシピをもとに作りますが、味までは確認できません。
意見をもらおうと、台湾出身の料理研究家たちに、試食してもらうことにしました。
【近鉄百貨店 髙橋大輔シェフ】
「現地の味食べてないから、それを再現してこれで大丈夫かというのが一番の心配で」
【台湾料理研究家 陳さん】
「すごく台湾の味がします。味付けは台湾ですね」
ほっと一安心…しかしー
【試食した台湾にゆかりのある人】
「肉団子はもうちょっと甘みがあったほうが本場に近いかなって感じですね」
肉団子は塩加減を調整して、だし汁を足すことで柔らかさを出すことにしました。
■オープン直前にも…「次々と変更」が
オープン10日前―
台湾にいる新農生活の社長から、これまでになかった指示が入りました。
【神農生活の社長】
「(ズボンは)ブラックはちょっと固すぎます」
「上品な店なので、薄っぺらなメニューでお客さんに注文してほしくない」
盛り付ける量にも食い違いが・・・
【近鉄百貨店事業開発部 福島登紀子課長】
「これ決めてたのじゃあなんだったの?!目安なの?」
【スタッフ】
「目安…盛り付けるため撮影のため…」
【近鉄百貨店事業開発部 村中勝彦部長】
「気失ってる」「山盛りやな…できそう?」
【近鉄百貨店事業開発部 福島登紀子課長】
「・・・・・」
【近鉄百貨店事業開発部 村中勝彦部長】
「返事せーへん」
オープン前日、またしても問題が起きていました。
【近鉄百貨店 髙橋大輔シェフ】
「今回メニューから外しました。間に合わなくなっちゃって実際問題」
「はっか炒め」に使う「干し豆腐」が、台湾の工場のトラブルで、調達できなくなったのです。
色の調整に苦労したはっか炒めの提供は、あきらめざるを得ませんでした。
【近鉄百貨店 髙橋大輔シェフ】
「正直残念な気持ちはもちろんありますね。これだけ試食も重ねてきたので、そういう意味では心苦しい」
■初日の売り上げは…「目標の”4倍”」を達成
オープン当日―
約1100の商品がそろいました。
どこかレトロな台湾の雑貨や、「神農生活」のオリジナルジャム、140種類のお茶を取り扱うティーサロンには、お椀で飲むお茶や、シェイカーでつくるアレンジドリンク。
中には、百貨店が独自に仕入れた神戸の人気店が作る台湾菓子もあります。
【近鉄百貨店事業開発部 福島登紀子課長】
「一組一組あまり急がなあかんと思わずに、ゆっくり、穏やかに、優雅にいきましょう」
普段は後方支援に回ることが多いバイヤーですが、福島さんは自ら売り場に立ちます。
「いらっしゃいませ」
開店とともに、台湾の商品を求めて多くの客が訪れました。
【客】
「めっちゃテンション上がります。台湾ずっと行きたいなと思ってて、コロナで今いけないのでめちゃうれしいです」
レストランは、大阪にまん延防止措置が適用されたことを受け、座席数を3割減らしましたが、一時は26組待ちとなるほど、大盛況。
改良した肉団子も人気です。
【客】
「周りのお野菜はあっさりしていて、肉団子は割とパンチがきいてるいのですごくバランスよくておいしいです」
「コロナのことがあってから(台湾に)いけてないので、本当に久しぶりに台湾を満喫してるって感じです」
初日の売り上げは、目標の4倍を達成。
一方で、コロナの影響により輸送に遅れが出るなど、輸入商品の半数がオープンに間に合いませんでした。
【近鉄百貨店事業開発部 福島登紀子課長】
「直前まで現地から変更の要望が多々寄せられて、決定事項で動いていたものを途中で変更にかかったので、調整が難しかったです、正直」
「現地で人気の商品がまだちょっと入荷待ちで止まってる部分があるので、GW前ぐらいには入荷してみなさんにお届けできたら」
初年度の売り上げ目標は3億2000万円。
コロナの中で商機をつかむことができるのか、このフロアがカギを握ります。