「女の人の体の中に男の人の精子ってどう入るんですか?」小学校での性教育 児童の問いかけに向き合う助産師【今、考えたい“性”のコト②】
シリーズ企画「今、考えたい“性”のコト」
2回目は、予期せぬ妊娠を防ぐために、どんな教育が必要なのか考えます。
教師たちには、性教育の必要性を感じながら、教えたくても教えられない実情がありました。
京都市の助産師、渡邉あいこさん。
性に関する正しい知識を広める活動をしていて、子育て中の母親の相談にも乗ります。
【子育て中の母親】
「コンドームのつけ方とか、知ってんのかなとは(子どもに)聞けない」
【子育て中の別の母親】
「もっと慎重にしてほしいし。付き合うって聞いたら、ものすごい怒るんですよ私。どうしたらいいですか、先生?」
【渡邉あいこ助産師】
「人を好きになると、どんな気持ちになるのか。ずっと一緒になりたくなる。それは当たり前のことだよっていういい面と。でもキスするとかになると、こういうことも起きるよっていうのを示した上で、じゃああなたはどうするの?って選択肢を渡して。もう初潮が来て、精通があったということは、親になれる体になってる子たちなので、自分で考えられるでしょって」
性に関することがタブーとなっている風潮を疑問に思った渡邉さん。
約20年間、性教育を行っていますが、今の子どもたちに危機感を感じています。
【渡邉あいこ助産師】
「性だけを切り取って生きていくことってできないと思うんですよね。(中略)でも全く学べない環境、検索しても出てこない。そのままでいいんだろうかと逆に疑問」
■小中学校の約65%が、性教育が「不十分」もしくは「不十分だが仕方ない」と回答…学習指導要領「はどめ規定」の存在
渡邉さんは、学校から要望があれば、子供たちに性教育の授業をします。
2020年12月、京都市内の小学校で、翌週に行う授業の打ち合わせを行いました。
【渡邉あいこ助産師】
「メダカの勉強したよね、昆虫、哺乳類…、人は性交といいます、っていうのをいれましょうというので(去年は授業に)入れたんですね」
【京都市立洛中小学校・松田新一先生】
「普段はというか通常は…」
【渡邉あいこ助産師】
「他の小学校ではいれないです」
デリケートな内容のため、どこまで教えるか、入念にすりあわせます。
【渡邉あいこ助産師】
「赤ちゃんを抱っこしたり、骨盤模型とか…精子卵子の映像はどうしますか?」
【京都市立洛中小学校・松田新一先生】
「是非見せてあげたい」
【渡邉あいこ助産師】
「性交は、なし?」
【京都市立洛中小学校・松田新一先生】
「性交というキーワード自体は、5年の理科ではないんです」
【渡邉あいこ助産師】
「文科省から言うと、地域との連携、保護者との連携で必要があればということなんですけど」
【京都市立洛中小学校・松田新一先生】
「性交はさらっと」
【渡邉あいこ助産師】
「受精はおさえて…」
小学校や中学校の授業では、教師が性行為について教えることはほとんどありません。
その理由は、国が教育の基準を定めた「学習指導要領」にあります。
理科や保健体育では、「受精や妊娠に至る過程は取り扱わない」という、いわゆる「はどめ規定」があり、性行為について詳しく話すことはできないのです。
関西テレビが京都市立の小中学校にアンケートを行ったところ、回答があった学校のうち約65%の学校が、今の性教育を不十分、もしくは不十分だが仕方ないと回答。
その理由については、「教えてはいけないことが多すぎる。望まない妊娠や不安を取り除くために教えたい」「教員の力量不足」「コンドームの本物を見せるなどをすべきではないか」という声がありました。
【京都市立洛中小学校・松田新一先生】
「大事なことではあるんですけどね。時間的な余裕がなかなかないような状況ではあるので、保健に関しても、教科書のことをやるのでいっぱいいっぱいというか、そこを踏み越えて子供たちに教えてっていうところまで、実際問題考えられていないのが実情なのかなと思います」
■「女の人の体の中に男の人の精子ってどう入るんですか?」小学校での性教育 児童の問いに、助産師の答えは…
迎えた、授業当日。
渡邉さんの授業は、あくまでも“外部講師”による“特別活動“のため「はどめ規定」は関係ありません。
【渡邉あいこ助産師】
「1回の射精で精子が飛び出す個数は1億個と言われています。すごいでしょ。1回の射精でティースプーン1杯ほどの、トロっとした白い液体が出るのが射精と言いますよね。そのティースプーン1杯の中に、精子が1億個近くあるんです。女の人の体の膣の中は、酸性と言っていましたね。でも精子君はアルカリ性の環境が好きなので、灼熱地獄の中に入るようなものなんです」
男性と女性の生殖器の違いや、どのように精子と卵が結びつくか、動画を交えて説明していきます。
担任の先生が、渡邉さんへの質問を児童に促すと、「女の人の体の中に男の人の精子ってどう入るんですか?」という質問がありました。
渡邉さんは、性交について丁寧に伝えます。
【渡邉あいこ助産師】
「離れたところにあるのに、どうやって届けることができるのかなっていう疑問だよね。膣の長さってどれくらいって言いましたか」
【児童】
「中指」
【渡邉あいこ助産師】
「そう。男性の陰茎も中指くらいの大きさになります。性器と性器をピタッとくっつけると、命のもとを送ることできます。例えば子供がこの行為をする、させてくれという大人がいるとしたら、それは犯罪です。大人になって赤ちゃんが欲しいと思ったら、性交してもいいし、したくなければしなくてもいいです」
授業を受けた児童に聞いてみると、反応は様々です。
【授業を受けた児童】
「精子が1051兆分の1の確率で卵子と出会うなんて、僕は正直諦めると思うんですけど、そこまで命がけで攻め込むっていうのはちょっと根性すごいなって思いました」
【授業を受けた別の児童】
「精子と卵子があって、結びついたら受精卵になるよって事だけじゃなくて、その受精卵に至るまでの道のりっていうのが、すごい詳しく分かって、とても分かりやすかったです」
【授業を受けた別の児童】
「ニュースとかで、子供のころに妊娠しちゃったとか聞いたことあったので、そういうことが防げるので聞いてよかったと思いました。ちゃんと嫌だたいうことは嫌だって言えるように今回知れたので、嫌だってことはちゃんと嫌だと言いたいです」
教師たちは性教育の大切さを実感しました。
【京都市立洛中小学校・松崎充俊先生】
「自分やったら、うまく説明できなくて変な空気が流れてしまうんじゃないかと思って、自分は、あの質問が出たときにちょっと動揺しました。正しい知識をもとに話して、段階を踏んでいくと、ふざけたり恥ずかしなったり、そういう空気にならないなっていうのをすごい勉強させてもらいました。」
【京都市立洛中小学校・松田新一先生】
「助産師さんの言葉で伝えてもらったからこそ、子供たちは照れずに真正面からそれと向き合って、すとんと入ったのかなと。それを後ろから見させてもらって、素敵な時間になったなと思いました」
■外部講師活用で人工妊娠中絶率が大きく減少した例も…「一番大切な自分自身の勉強が、すごく中途半端」助産師の危機感
こうした外部講師の力を活用し、具体的な成果をあげた自治体もあります。
秋田県は、2000年に20歳未満の人工妊娠中絶率が全国平均を大きく上回ったことをきっかけに、県内全ての中学校と高校で、性教育講座を始めました。
医師や助産師らが具体的な避妊方法なども教え、さらに、性教育について教師が学ぶ研修会も年に1回開くようにしました。
すると、人工妊娠中絶率が大きく減少し、全国平均も下回りました。
渡邉さんは、中学校や高校の授業では、コンドームやピルなど具体的な避妊方法も伝えるようにしています。
しかし、依頼があった学校でしか性教育を行えず、歯がゆさも感じています。
【渡邉あいこ助産師】
「子供は知りたがっていると思います。どうやって米ができるのかとか、どうやって魚が増えていくのかとかそんな勉強はしているのに、一番大切な自分自身の勉強はすごく中途半端な学習であるというのは、子供はどうしてって思うでしょうし、幼児期とか小学生という時期に、今は関係ないかもしれないけど人っていうのはっていう、サイエンスとして伝えるのは、すごく入りやすいし大事な事だと思います」
様々な情報が簡単に手に入る今だからこそ、正しい性の知識を子どもたちに伝える必要があるのではないでしょうか。
(カンテレ「報道ランナー」4月6日放送)
■<取材後記>性教育を進めるためには、まず「保護者の理解」を得ること、そして国が学習指導要領の「はどめ規定」をなくすことが課題
関西テレビは2021年3月、京都市立の小学校と中学校あわせて100校に「性教育についてのアンケート」を実施。(全小中学校からそれぞれ50校ずつを無作為に抽出しました)
アンケートでは「性教育にかけている時間数」や「性教育にどのような内容が含まれているのか」「いまの性教育が十分かどうか」「性教育を進めるうえでの課題」などを聞き、100校のうち36校から回答がありました。(そのうち2校は白紙回答)
アンケートでは「性教育を実施する際の問題や課題」について、①時間の確保が難しい ②教材や情報が少ない ③研修機会が少ない ④教員間で足並みがそろわない ⑤性教育に対する批判や非難が心配 ⑥学習指導要領で規定されている文言(はどめ規定)により教えづらい の6つの選択肢から複数回答可で選んでもらいました。
すると以下の結果となりました。
1位:時間が取れない(約60%)
2位:教材・情報が少ない(約53%)
3位:学習指導要領のはどめ規定(約47%)
アンケートの自由記入欄を見ると、「指導者の知識や力量によって同じ教材を使っても差が出てしまう」「まだまだ不得意と感じている教員も少なくはない」など、教師の力量や熱意がまちまちであることが問題になっているという意見がみられ、「他にやるべきことがあり性教育に時間がさけない」など性教育をやりたくてもやれない現状も明らかになりました。
一方で「現在の性教育はおおむね十分」と回答した学校が35%あり、自由記入の回答欄には「段階を踏み発達の段階に応じて教えているため」「どこまで踏み込むのかが難しい」といった見解が書かれていて、性教育を積極的に進めること自体に、必ずしも賛成ではない学校の姿勢もうかがえました。
文部科学省は学習指導要領に“はどめ規定“を設けている理由を「発達の段階が人それぞれ異なるため、一律に教えるのは適切ではない」と教える内容に応じて集団指導か個別指導かを使い分けることが大事としています。
しかし、助産師の渡邉あいこさんは「表に出づらく相談しづらい問題だからこそ、性について最低限の知識を渡すことはどの子供にとっても大切なこと」と学校教育で等しく性の知識を教える重要性を訴えています。
学校で性教育を進めるためには、まずは保護者の理解を得ること、そして国が学習指導要領の「はどめ規定」をなくすことが課題となります。性教育実施については、必要を感じながらうまくいかない学校、そもそも推進に賛成できない学校などさまざまですが、実際に有意義な性教育の現場を取材すると、その取り組みの重要性をあらためて感じました。性教育に対して様々な立場の人がいるからこそ、反対の意見を持つ人と賛成の意見を持つ人がきちんと話しあう必要があると思います。
(関西テレビ記者 東 和香奈)
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https://www.ktv.jp/news/feature/20210405/