大阪から和歌山県かつらぎ町に移住し、子供に人気のお菓子を開発した女性がいます。
3人の男の子を育てながらゼロから事業を始めたのですが、その原動力は、子育て中に経験したある挫折にありました。
3月8日、国際女性デーに開催された「LED関西」
新たな事業を始めたいという女性を支援するイベントです。
大きな夢を持つ女性たちが、企業や自治体などの前でプレゼンしました。
【猪原有紀子さん】
「廃棄フルーツで世界中の親子を幸せにしたい。原材料は和歌山県の廃棄フルーツだけ」
参加者の一人、猪原有紀子さん(34)
自ら開発した、子どものためのお菓子「無添加こどもグミぃ~。」を多くの人に届けたいとアピールしました。
■和歌山・かつらぎ町に移住…ゼロから地元農家との関係築く「農家さんが畑に捨てる光景を見て、これでグミを作ろうと」
和歌山県かつらぎ町に住む猪原さんの1日は、3人の男の子を叩き起こすところからスタートします。
約2年前、自然に囲まれた中で子育てをしようと、大阪市内から移住してきました。
【猪原有紀子さん】
「めっちゃ狭いマンションで長男と次男生まれて、『狭い狭い狭い!』って言うから、引っ越さなあかんな、みたいな感じで」
3兄弟を保育園に送り届けてから、起業家としての1日が始まります。
【猪原有紀子さん】
「7年前ぐらいに、ふらっとかつらぎ町に来た時に、夫が山にひと目ぼれして『ここやったら住んでもいいな』って言い出したのが最初ですね。めっちゃいいですよ、めっちゃ大好きかつらぎ町」
ゆかりのない土地で、地元の農家との関係をゼロから築いてきました。
地元の農家から、商品として売りに出せない季節のフルーツを、安い値段で買い取っています。
【西岡農園・西岡宏倫さん】
「こういう風にやけてきたら商品として出せないんで。廃棄のやつを商品にしてくれるのはものすごく農家にとってはありがたい」
これでお菓子を作ることに決めたのは、かつらぎ町で見たある光景がきっかけでした。
【猪原有紀子さん】
「長男が今6歳なんですけど、2歳の時、イヤイヤ期の時にカラフルなグミがめっちゃ大好きになって、スーパーに行ってもグミ買えグミ買えって騒ぐ。無添加でカラフルで甘くて、グミみたいなお菓子あったらいいのにって、ずっと頭の中にあって、かつらぎ町に来た時に柿農家さんが畑に柿を捨ててる光景を目にして、これでグミ作ろうと思った」
■長男を妊娠してから10カ月寝たきりに…グミ開発の原点
猪原さんは大学卒業後、大阪の広告代理店で仕事一筋の毎日を送っていました。
26歳の時に結婚。変わらずキャリアを積んでいくつもりでしたが妊娠をきっかけに転機が訪れます。
【猪原有紀子さん】
「私1回キャリアを断絶していて。長男妊娠したときに重度妊娠悪阻というのがあって、食べられない、立てない、ずっと寝たきり10カ月、点滴で命を繋いでいた」
妊娠してから、約10カ月間寝たきりに。
その後も子育てをしながら、同僚たちの活躍に複雑な思いを抱えていました。
【猪原有紀子さん】
「私はずっとマンションの中で子どもとずっと一緒で幸せなんだけど、自分が今まで培ってきたものが、ボロボロこぼれ落ちるような感覚」
その時の経験が、グミぃを開発する原動力になっています。
【猪原有紀子さん】
「私は添加物の入ったグミをあげるのがすごく嫌なんだけど、騒がれると口止めするような感じであげてしまって罪悪感。不用意に怒りすぎちゃって罪悪感というのがすごくあって、小さいストレスなんです。育児ストレスって。絶対これあったらお母さんたち救えるって確信だけはあったんです」
仕事を休んでいた時間を取り戻すように始めた新たな事業。
会社員の夫もサポートしています。
【猪原さんの夫・祥博さん】
「子育てのタイミングで縛り付けてしまったところも図らずもあるので、そういうものから解き放てたことが、彼女にとって幸せなんだろうなと感じますし、僕もよかったなと思います」
■障がい者就労支援施設に大学教授…様々な人と協力して挑んだグミ開発
お金もノウハウも人脈もなかった猪原さん。
フルーツの加工をお願いしたのが、新型コロナウイルスの影響で仕事が減っていた障がい者就労支援施設です。
季節に応じて持ち込まれる、イチゴや、キウイ、デコポンなどのフルーツを加工することは、施設で働く人のやりがいにも繋がっています。
【和の社・大中一施設長】
「うちの利用者さんたちのカットスキルが一気に上がりました。新しい商材が来れば来るだけみんなやる気を起こすんです。次は何が来るんだろうと」
フルーツを乾燥させ、グミのような食感にする独自の製法は、事業を進める中で出会った大阪市立大学の教授らと2年がかりで共同開発。
構想から4年、2020年10月からインターネットで販売をスタートしました。
大阪府に住む村上さん。
SNSで「こどもグミぃ~」のことを知り、娘のこはるちゃんのために定期購入しています。
これまでは、市販のお菓子を好んで食べていたこはるちゃんも、すっかりお気に入りです。
【村上小百合さん】
「この子を初めて出産して、食事とかおやつとか、与えるもので悩んでいた時期で、不安に何も感じないで子どもに与えられるものはほんと素敵」
ひと月に5袋、約2000円という価格設定ながら、350を超える定期購入があり、スタッフと2人で運営に追われています。
【猪原有紀子さん】
「毎日注文が入るけど、すごく心苦しい。だから認知を拡大して、原価を下げて、もっと手の届くおやつにしたいという思いがあって。農家、障害者福祉施設、子育てママっていうトライアングルを全国に広めたいなと思って」
■かつて働いた大阪でのプレゼン…新たな事業の準備も「やっとスタートラインに立った」
事業拡大のために猪原さんが応募したのが、女性起業家を応援するLED関西。
140人の中から選ばれたファイナリストの1人としてプレゼンに挑みました。
【猪原有紀子さん】
「地方は課題が山積みと言われていますが、私の目にはその1つ1つが宝物に映っています。私はこれからも、地域の課題を解決しながら、希望溢れる世界を子ども達に残してまいります」
この日、猪原さんは投票で最も多くの票を集めて、オーディエンス賞を受賞。
かつて働いた大阪で、新たなきっかけをつかみました。
【猪原有紀子さん】
「ここ(梅田)職場で、天満橋から保育園連れていって、自転車でここまで毎日通ってました。でも無駄じゃないよって、言いたいですね。あの時あったから、ブレーキ踏んでるときあったから、今めっちゃアクセル踏んでるよって言いたい。やっとスタートラインに立ったかな」
猪原さんは今、子どもが自然体験できる農園の準備をしていて、この夏のオープンを目指しています。
第2のキャリアはまだ始まったばかりです。
(カンテレ「報道ランナー」4/1放送)