“幸せな低酸素症”「ハッピー・ハイポキシア」とは、新型コロナウイルスに感染した患者の症状のことです。
息苦しさを伴わず、自覚がないまま悪化していくため、この名がつけられています。
容体の急変を防ぐためにどのようなことに注意が必要なのでしょうか。
■ “幸せな低酸素症”とは? 経験者「得体のしれない怖い病気」
ストレッチャーに乗った患者が、救急車に運び込まれます。
【救急救命士】
「ただいま出発しまして、40分に到着予定になっています」
新型コロナウイルスに感染した患者を搬送する、「関西MEDICAL民間救急」。
大阪府内の多くの自治体から委託され、自宅で療養している患者などを病院に運んでいます。
【救急救命士】「息苦しさはないですか?」
【70代の患者】「はい」
【救急救命士】「(新型コロナ検査の)結果を聞いたのはいつなんですか?」
【70代の患者】「4~5日前だった」
【救急救命士】「家で待っててくださいと言われたんですか?」
【70代の患者】「そうですね」
患者を病院に運ぶとき、必ず行う検査があります。
重症化のサインをいち早く察知するため、「パルスオキシメーター」という医療機器で、血液中の酸素飽和度を測定しているのです。
【救急救命士】
「(酸素飽和度は)99%なので、十分体の中に酸素が取り込めていますね。大丈夫ですね」
国の診療の手引きでは、酸素飽和度は93%以下だと「呼吸不全あり」とされています。
自宅で療養する人が増え、1月には1カ月間として最多の645件の搬送を行う中、患者のある症状が目立つようになりました。
【関西MEDICAL民間救急 畔元隆彰社長】
「このCOVID-19の搬送においては、(患者が)普通に会話をされて、特に問題なさそうに乗車するが、酸素飽和度を測ると80%台前半とか、そういった状態の患者さんは非常に多く見られる」
本人の自覚がないままに呼吸不全に陥ってしまう…
このような症状は息苦しさを伴わないことから、「ハッピー・ハイポキシア」、”幸せな低酸素症”と呼ばれています。
新型コロナに感染し、「ハッピー・ハイポキシア」があった60歳の男性です。
【60歳の元患者】
「ちょっとしんどい…」「(仕事を)気を張ってやっていたけど」
2月に退院しましたが、体調はまだ万全ではありません。
【60歳の元患者】
「本当に得体の知れない怖い病気だなと」
男性は1月9日に発熱やせきなどの症状が出て、かかりつけの病院で検査をしたところ、感染が判明。
当初、息苦しさはなく、保健所は軽症と判断し自宅療養になりました。
1月16日、症状が長引いていたことから、家族が救急車を呼びましたが、酸素飽和度は「呼吸不全がない」とされる95%。
病院には運ばれませんでした。
2日後、一向に回復しないことに不安を覚えた家族が保健所に訴え、男性は宿泊療養のホテルに入ることに。
そのときにも…
【60歳の元患者】
「苦しいとかそういう感じはあまりしなかった」
「息苦しさも、酸素が吸えないとか、そんなことはあまり感じなかった」
ところが、ホテルに着いたその日のうちに突然、胸の痛みに襲われました。
【60歳の元患者】
「急にですね。『うわ、痛い』ではない。ぐっと押されているような、じわじわとくる感じ」
「怖かった。この先どうなるのかと」
男性は、ホテルのパルスオキシメーターで自ら酸素飽和度を測定。
すると、「呼吸不全あり」とされる91%まで下がっていました。
すぐに救急車で病院に運ばれ、「重症一歩手前」の肺炎と診断された男性。
その後、さらに容体が悪化しましたが、一命をとりとめました。
【60歳の元患者】
「急激に変化するから、用心した方がいいということは、今回感じた」
■原因不明の“幸せな低酸素症” 医師は「命を失うケースも」
「ハッピー・ハイポキシア」は、新型コロナウイルスに感染したことで、酸素不足を察知する脳や首の神経が反応できなくなっているとみられていますが、まだ解明はされていません。
「ハッピー・ハイポキシア」はどれぐらいの割合で起きるのか。
一般の患者とは空間を隔離してコロナ患者を受け入れている病院では、これまでに入院したコロナ患者100人以上のうち、3割~5割の人に「ハッピーハイポキシア」の症状が見られたということです。
【北野病院・丸毛聡医師】
「この人は、普通に歩いて救急に来られた方だが、ひどく酸素が下がっている形で緊急入院になった方ですね」
「もう集中治療室にいるぐらい悪い肺炎」
さらに医師は「ハッピーハイポキシア」のリスクについて…
【北野病院・丸毛聡医師】
「そのまま呼吸不全が治らずに命を失うケースがあります」
「悪くなるリスクがある方が重症化するので、そういった方で、もし脈拍が上がるとか、あるいは呼吸数が増えているということであれば、これは非常に危険」
■自覚の無いまま進む症状…周囲も知るべき“リスク”
自宅療養の患者をケアする保健所は、見えにくい容体の変化に、どう対応しようとしているのでしょうか。
【保健師が自宅療養者に電話】
「息を吸ったり吐いたりするときは、どちらの方がしんどいとかありますかね?」
この日、自宅療養中の30代の男性から、息苦しさを訴える連絡が入りました。
電話だけでは容体がわからないため、保健師が男性の自宅に向かい、酸素飽和度などを確認することに。
この保健所が確保しているパルスオキシメーターは、1月の時点で20台。
数に限りがあり、高齢者や基礎疾患のある人を優先して配布しています。
大阪府は2月から、各保健所のパルスオキシメーターの数を増やして、対応を強化しています。
【藤井寺保健所・田中英夫所長】
「入院している状況と同じレベルでのモニタリングができないのは当然なんですが、できるだけそのようなギャップも埋めるように、我々としては対応しているところ」
自覚症状がなくても、容体が急変するリスク。
患者本人だけでなく、近くにいる家族も知っておく必要があります。
(カンテレ「報道ランナー」2/9放送)