猫たちの声が響くのは、大阪府池田市にある『北摂TNRサポート のらねこさんの手術室』。
ノラ猫の避妊、去勢手術を専門とする病院です。
毎日、電話が鳴りやまないほどの依頼が来るといいます。
【安田和美代表(49)】
「電話はもうひっきりなしです。手術はだいたい(1日)40頭から50頭を平均でお受けしています」
代表の安田和美さん。
手術だけでなく捕獲して、元いた場所に戻すまでを一括で担う、全国でも例のない病院を5年前につくりました。
【安田和美代表】
「何とか地域の猫ちゃんたちの現状を変えたいと思っている人もすごく多くて、たくさんの方が連れてきてくださるし、どんどん依頼の数は増えています」
■「糞とかおしっこが…」苦情が相次ぐノラ猫を救う
この日、捕獲スタッフが兵庫県尼崎市へ向かいました。
数十匹の猫がいる地元自治会からの依頼です。
餌の入った捕獲機を設置していきます。
【地域住民】
「猫が多くてねぇ、もう困ってるんです。嫌でしょ糞とかおしっこされると」
長年、住民から苦情が相次いでいましたが、自治会ではどうすることもできませんでした。
そんな中でこの病院を知り、まずは猫がこれ以上増えないように手術をすることにしたのです。
この日3匹のノラ猫が捕獲されました。
手術を行う獣医師は、出産や育児で仕事を辞めた母親たち。
パートタイムで働いています。
人件費をなるべく抑え、避妊や去勢の手術に特化することで、手術費用は一般の病院の半額以下です。
(1匹あたり オス4000円,メス8000円)
桜の花びらのような耳先のカットは手術を終えた証です。
【安田和美代表】
「しんどいねー」
「両目ともどっちも目やにが出て風邪症状がでてますよね」
捕獲した3匹のうち、体調の優れないオスの白猫。
このままでは両目を失明する恐れがあります。
去勢手術の前に、抗生物質や点滴を打ち、できる限りの治療を行いました。
その甲斐もあり、翌日には治療を受けた白猫の瞳はきれいに…。
手術を受けた猫は、発情期の鳴き声や糞尿の匂いが抑えられるといいます。
【安田和美代表】
「毛並みもちょっとましになってきて、お顔もすごく綺麗になってきて食欲もあって」
「比較的頑張ってお外で暮らしていけるかなぁという状態ではあるので、安心して今日は送ろうと思っています」
■「また連れてくるの?」手術をした猫でも…”地域で受け入れる壁”
猫を捕獲した尼崎市に返そうとすると…
【地域住民】
「また連れて来はるん?」
【自治会】
「今度は子供産まない」
【地域住民】
「みんな(猫を)連れていって」
【自治会】
「それはできない」
【猪名寺自治会 内田大造会長】
「猫の可愛い人、嫌な人も一緒に、どうしたら地域でそういう問題を解決できるかを町内会が入って話し合って…」
「こういう運動を今始めたところで、だんだん皆さん理解してくれると思いますよ。少し時間はかかるけど猫に八つ当たりしないで」
体調の悪かったオスの白猫も元居た場所へ届けられました。
【病院スタッフ】
「この子、放さしてもらいますね」
【地域住民】
「目がちゃんとなってる」
【病院スタッフ】
「多分預かった時よりきれいになってるかなって」
【地域住民】
「綺麗になってる」
地域で、繁殖を防ぎながら優しく見守ります。
代表の安田さんは、自宅にケガをして居場所のなくなった猫を家族として迎え入れています。
10年ほど前までは、2人の子どもを育てる動物好きの主婦でした。
子育てが落ち着いたことをきっかけに就職した動物保護団体で、ノラ猫の過酷な現実を目の当たりにします。
【安田和美代表】
「昔は公園にいっぱいゴミ箱があって、その中には紙袋に入れられた子猫がいるとか、何でこの子は生まれてきてすぐ命をゴミとして扱われてるんだとか、そういうのがもう本当にあまりにも多くて耐えきれなくて」
2019年度、殺処分された約2万7000匹の猫のうち、7割が子猫です。
行き場がなく殺処分されていく子猫たち。
殺処分をゼロにしたいと、仲間とともに 病院をつくる決意をします。
【安田和美代表】
「自然の摂理に実際やっぱり逆らってることですよね、猫を繁殖できないように人間の都合でしているわけですから」
「それは実際、それがベストな形とは思ってなくて、私たちが考えて実際にできることが、今のこの形(避妊・去勢 手術)であって」
■外出自粛で”ペットブーム” 捨て猫が増える懸念も…
安田さんには、気がかりなことがあります。
【安田和美代表】
「最近すごく人気があるノルウェージャンという品種があって…」
病院に運ばれてきたのは、飼い主に捨てられたとみられる子猫です。
【安田和美代表】
「ねぇすり寄ってきますから、お家帰りたいよね」
ペットフード協会によると、2020年、新たに飼われた猫は約48万3000匹で、前年より16%ほど増えました。
外出自粛の影響でペットを飼う人が増えたとみられ、安田さんは捨てられる猫が相次ぐことを心配しているのです。
病院で手術した猫はこれまでに3万3000匹以上。
スタッフは可能な限り、足を運んで”猫のその後”を見守っています。
【安田和美代表】
「1代限りだからこそ、周りの人も、もっとできるだけ温かい目で見守ってもらえたらなと思います」
「同じ命を大事にすることの大切さを少しでも感じてもらえたらと思います」