不動産賃貸会社「リノベータ―」の社長・松本知之さん(41)
大阪や東京を中心に50以上の物件を保有しています。
大阪府枚方市にある、築43年の一軒家。
間取りは3DK、家賃は4万円で、周辺の相場で最も安い料金です。
入居希望で松本さんのもとを訪れた30代の男性は、今年に入り体調不良で会社を辞めて無職でした。
【リノベーター・松本知之社長(41)】
「しんどかったですか?探すときに保証人がいないってなると」
【無職の30代男性】
「保証会社様に払うお金が割り増しになったりとか、条件がありましたから…」
松本さんは、“連帯保証人”を求めません。
銀行の融資などを元手に取得した空き家をリフォームし、安い料金で貸し出しています。
■”保証人なし”で格安の賃貸物件 背景には新たなビジネス
【無職の30代男性】
「広々としてのどかなところで、いいなと思いました」
去年からこの事業を始めた松本さん。
生命保険会社に勤めていたころに、所有していたマンションの一室を貸そうとしたことがきっかけでした。
【リノベーター・松本知之社長(41)】
「不動産会社でよく言われたのが、高齢者ダメですか?外国籍ダメですか?みたいなことを言われた」
「『なんでみんな敬遠するのかな』とよく分かっていなかったんですけど」
「どうせ家をお貸しするなら、困っている方に提供した方がより多くの方の役に立つのではないかと思って」
家賃滞納やトラブルなどを恐れる不動産業界。
松本さんは、住宅を借りることができない人が多くいることを知り、買い手のつかない築年数の古い空き家を活用できないかと考えたのです。
この日、入居者から雨漏りの相談を受け、駆け付けた松本さん。
【50代女性】
「ケガせんとって下さいね」
家賃を低くおさえるために、管理会社を間に挟まず、簡単な修理であれば自ら行います。
【リノベーター・松本知之社長(41)】
「ここですわ」
【50代女性】
「家が古いけどそれ分かって借りているので」
「だけどこういうことがありましたと言うと、ほんならいついつ行きますと。最初から結構対応してくれるので安心ですよね、何かあった時に相談できるし」
次に訪れたのは、1人暮らしをする高齢の女性の自宅です。
【リノベーター・松本知之社長(41)】
「これ?どうしたん?」
【70代女性】
「まだマシになったほうやねん、内出血して、すごかってん。こけてん」
女性からの依頼で、毎月家賃3万5000円を直接取りにきています。
松本さんは、入居者と頻繁に顔を合わせ、信頼関係を築くことで家賃滞納やトラブルを防げると考えています。
――:Q松本さんはどんな人ですか
【70代女性】
「親切や、優しい。」
――:Q住み心地はいかがですか
【70代女性】
「もともと近所に住んでいたからね。娘らと一緒に。住み心地悪くないのよ」
事業開始から1年半、収益も安定し来年には100件程度の物件を提供したいと考えています。
最近では行政からも頼られる存在になりました。
この日は、市営住宅の空き室を、委託できないかという相談です。
【リノベーター・松本知之社長(41)】
「入居者のことを家族くらいな感じで思っている。」
【京都市の担当者】
「どういう形での入居者支援ですか?」
【リノベーター・松本知之社長(41)】
「例えばお仕事困っている人、困ってるけど就労の意欲ある人だったら、働き先を紹介します」
「実際に職に結び付いた人もいますし」
【京都市の担当者】
「本当に使っていただける法人さんがどんなニーズを持って…というところから入っていきたいと思っている。引き続き詰めさせていただければと思います」
「生活困窮の方、色んなご事情を抱えています。もともと行政だけでというところは難しいという話があったので、民間の方々との連携なしでは前に進んでいかないと思っています」
■収益を上げつつ“社会の課題を解決”! 若者が起業する『新ビジネス』とは
【リノベーター・松本知之社長(41)】
「売り上げ・収益を確保するには社会の課題を解決しなければいけない、社会の課題を解決すると売り上げがあがるところの両方を追求するのが一番面白いと思っています」
社会の課題に対して収益を上げながら解決する手法は「ソーシャルビジネス」と呼ばれていて、その多くを、若い世代が担っています。
学生の起業を後押しする専門の授業を行っている龍谷大学。
深尾教授は、ソーシャルビジネスに関心を持つ若者が増えたことは、今の社会状況が影響しているといいます。
【龍谷大学・深尾昌峰教授】
「誰かのためにとか、今の若い世代を見ていると思いは人一番強いと思う」
「経済成長がない社会の中で、そんなに過度な競争がない中で育った環境は大きいかなと思います。シェアハウス・カーシェアとかにパッと飛びつけるというか、そんなことが色んなイノベーションを起こしていくんだなと」
「本当にソーシャルビジネスを起業している人たちを見ると才能だなと思います」
深尾教授の教え子で、在学中に起業した人がいます。
滋賀県湖南市にある「はたけのみかた」社長の武村幸奈さん、28歳。
有機野菜を使った離乳食を販売しています。
もともと農業に関心があった武村さん。
学生時代に、地域の野菜を販売する「野菜市」を開いたとき、小さな子供を持つ母親たちと会話したことがきっかけでした。
【はたけのみかた・武村幸奈さん(28)】
「『今まで自分が食べるものは何でも良かったけど、子供が生まれて本当にいい食事って何なんだろうと考えるようになったので野菜市に足を運びました』とおっしゃったんですね」
「子どものために安心安全でおいしいものをあげたいと思っているお母さま方に野菜を届けることが出来れば、母親のためにも、農家のためにもなっていく状況が作れるのではないかと」
化学肥料を使わない有機野菜は、形が安定しないため売れ残るものも多く、農家が困っていることを知っていました。
そこで、有機野菜を離乳食に加工することで、農家と母親たちの悩みを一緒に解決しようと考えたのです。
今では全国の百貨店などにも展開する企業に成長しました。
【龍谷大学・深尾昌峰教授】
「すべての課題に税金だけで対応する、公務員の皆様方だけでは対応するのは限界性が見えてきていますので」
「役所だけではやりきれない時代になってきているんだろうなと」
収益をあげながら様々な課題を解決する…
そんな“民間の力”が今の社会を支えています。