11月6日、解禁になった冬の味覚“ズワイガニ漁”。
京都府舞鶴市では「舞鶴かに」の初モノが水揚げされ、次々と競り落とされていきました。
このカニが市場にやって来るまでには、冬の日本海を相手に奮闘する若者の姿がありました。
【浅井淳志さん】
「船で作業するって知らんかったから、ジーパンはいてきてもうたんです」
浅井淳志さん、21歳。そして20歳の奥村涼さん。
今年4月から正式に漁師となった新人です。
自ら京都府舞鶴市の漁船「大和丸」の船頭、熊谷洋二郎さん(71)のもとへ飛び込んできました。
【浅井淳志さん】
「(船頭を)初め見たときめっちゃビビってました」
【奥村涼さん】
「基本はめっちゃ優しい人でお世話になってます」
【『大和丸』船頭の熊谷洋二郎さん】
「昔は14隻あったんです。今は5隻になって、後継者不足となかなか船頭になる人がいない。こちらで定着して漁師を頑張ってやってくれたらいいなと思っています」
実は若者2人、舞鶴には何のゆかりもありません。
いわゆる“Iターン”で漁師になるため、舞鶴へと移り住んできました。
大阪狭山市出身の浅井さんは実家から乗ってきた和泉ナンバーの車で港までの通勤が日課です。家賃約4万円、間取り3Kの部屋を借りて、漁師として自立した生活を送っています。
“Iターン”で漁師になった21歳 きっかけは?
【浅井淳志さん】
「ロマンを求めて。“一人暮らしで3Kだぜ”って友達に自慢してやろうと思って」
浅井さんは大阪府でも屈指の進学校を卒業。
周りは大学に進学する中、両親の反対も押し切って夢見た漁師の世界に足を踏み入れました。
【浅井淳志さん】
「漁師になりたいとずっと思ってたのが残ってるだけで、何かきっかけが、と言われるとあんまり記憶にないんですよね。やめろとか大学行けって言われるから戻るみたいなことは考えてないです、正直。」
沖に出れば丸一日帰ることもできませんがそんな中で楽しみもあります。
すぐ会える距離に友達はいませんが離れていてもオンラインのゲームで繋がっています。
【小学校時代からの友人】
「(漁師になりたいと)言ってました、小学校の頃からずっと言ってました。こいつはなると思ってましたよ。言ったら聞かないんで」
浅井さんは自分らしさを貫く、今どきの漁師です。
そんな彼に漁師の道を開いたのが、京都府宮津市の漁業者の育成校「海の民学舎」
”漁師の基礎”を2年間で学ぶ「海の民学舎」
京都府や自治体、漁協が中心となって2015年に設立しました。
【京都府水産事務所 海の民学舎担当・狩野拓海さん】
「漁師さんの減少を食い止める。新しい若い人材を育てていきましょうということで始まった」
授業料は年間・約12万円。
現地での研修を含め、2年かけて漁師になるために必要な知識を学びます。
これまでに修了した13人が漁師になり、現在も各地から研修生が集まっています。
【長岡京市からの研修生】
「元々は山の猟師をしていて、肉をとれるようになった次は海に繰り出してみようかなと」
【愛知県からの研修生】
「18で就職してサラリーマンを17年やってました。海辺に住むんだったら海に出れる漁師になりたいなと思って」
修了生の浅井さん、実際の船の上ではまだまだ慣れないことだらけです。
船頭の息子で現場を取りまとめる熊谷謙さんは、新人漁師2人には今回のカニ漁を通じて成長を期待しています。
【熊谷謙さん】
「真面目やね、今の子は。自分がどういうポジションにいかなあかんのか、自分で考えて仕事に励んでもらえたら嬉しい」
勝負の漁へ!新人漁師が挑むズワイガニ漁
漁の解禁が迫った午後8時。
一年で最も大事な漁へと出発です。
漁場までは約3時間半。各地から船が集まる一帯へと向かいます。
午前0時、日付が変わると同時に底引き網を仕掛けます。
頼りになるのは勘と経験。
目当てのカニがいるかは網を引き揚げるその時までわかりません。
「“アカコ“やなぁ」
一見、たくさんのカニがいますが、実は「アカコ」と呼ばれる産卵を控えたメスのカニばかり。保護のため、とってはいけない決まりになっています。
高値で取引されるオスのカニやメスのセコガニはほとんどいません。
今度こそはと迎えた2回目。
いつもは一度に数百ととれるはずが、またしても目当てのカニはほとんどとれませんでした。
「カニが食べれんわ、おらんで」
「さっき何匹おったん?」
「12。ヤバい、こんな年ない。ここいち悪い」
船の上に重苦しい空気が漂います。
この時、すでに午前4時。
残されたチャンスはあと2回。
短いながらも仮眠をとり、3回目の引き揚げは…
「セコや!タテもおるやん」
3度目の正直。“タテ”と呼ばれる立派なオスのカニを含め約1000匹が引き揚げられました。
獲れたら次は選別です。
傷はないか、足が欠けていないか、素早くカニを見極めるのは売りに出すための大事な仕事です。
新人の浅井さん…先輩漁師のスピードになかなかついていけません。
学歴も出身地も関係ない漁師の世界です。
結局この日は、2000匹を超えるカニが獲れました。
「帰ったらゲーム」新人漁師の自分らしい生き方
【浅井淳志さん】
「大きいカニが揚がってきたらうれしいですね」
――Q:明日帰ってくる?
【浅井淳志さん】
「明日の朝ぐらいですね」
――Q:帰ったら何しますか?
【浅井淳志さん】
「ゲームします。ブレないです」
夢をかなえ、自分らしく生きる。
また海へと向かった今どきの新人漁師にひとつの生き方を教わったような気がしました。