避妊の失敗などで、思いがけない妊娠を防ぐための「緊急避妊薬」。
今は医師の処方箋がなければ手に入らない緊急避妊薬ですが、薬局で買えるようにしようと政府が検討を始めました。
なぜ今、市販化が必要なのか、ツイセキしました。
■避妊に失敗した女子高校生…妊娠の不安
【高校生】
「ずっと焦ってた。ピル(緊急避妊薬)をもらいに行かないとあかんけど、産婦人科が閉まってて…」
関西の高校に通う18歳のカナさん(仮名)
【高校生 カナさん】
「とりあえず焦ってた、ずっと焦ってた…子供出来たらどうしようって。とりあえずピル(緊急避妊薬)を飲まないといけない、という状況になっちゃって…。自分がしてしまったことやからどうにかしないといけないし。でも子供ができてしまってからだと遅いとはわかっていたので…余計焦りました」
妊娠しているかもしれない・・・
不安のなかで、手が届かなかった「緊急避妊薬」。
≪緊急避妊薬(=アフターピル)とは≫
避妊の失敗や性暴力などで、思いがけない妊娠を防ぐための薬。
性行為の後”72時間以内に服用”することで、排卵を遅らせたり着床をブロックしたりして高い確率(約85%)で妊娠を防ぐ。
海外…約90か国で薬局で買うことができ、薬剤師から説明を受けられる。
日本…医師の診察を受けて処方箋をもらわなければ入手できない。
しかし、政府は10月、処方箋なしで薬局で購入できるようにする方針を示したのです。
■年齢を理由に受診断られ… 薬を手に入れたのは”4日後”
なぜ、緊急避妊薬の市販化が求められているのでしょうか。
高校生のカナさん(仮名・18歳)は、新型コロナウイルスの影響で学校が休みになる中、先輩と頻繁に会うようになり、ある日性行為にいたりました。
【高校生 カナさん(仮名)】
「避妊できる、してもらう状況を作れなくて、そのまま進んでしまって。自分でもやばいなと思ってたけど、どうしても言えなかった状況で」
――Q:どうして言えなった?
「年上の人っていうのと、その人のことが好きで言いづらかった、あと行動が先に進んでいて…」
カナさん(仮名)は断り切れなかった自分が悪いんだと、誰にも相談できずに一人で緊急避妊薬を手に入れようとしました。
しかし…
【高校生 カナさん】
「そういう行為をしたときにちょうどGW始まったときで、不安になって焦りに焦って、病院行かないとあかんな、ピル(緊急避妊薬)をもらいに行かないとあかんなと思ったけど婦人科が閉まっていて…」
インターネットで知ったオンライン診療で緊急避妊薬を手に入れようとしましたが…
【高校生 カナさん】
「身分証か保険証の写真を送らないといけなくて、『年齢がダメなので診療ができません』と話を切られてしまって。『平日に婦人科を行くことをおすすめします』って言われてしまいました」
友達に打ち明け、休日でも開いている別の病院になんとかたどり着きました。
緊急避妊薬を手に入れられたのは、性行為から4日後のこと。その後、妊娠していないことがわかりました。
カナさんのように緊急避妊薬を求める人は少なくありません。
その6割がコンドームを使用したにも関わらず、破損したり脱落したりしたことが原因になっています。
■「生理が来ず…どうしたら」 コロナ禍で”妊娠不安”の相談急増
自らも思いがけない妊娠での中絶を経験し、性教育などの啓発活動を行う染矢明日香さん。
新型コロナウイルスによって自粛ムードが広まる中、妊娠への不安を訴える相談が倍増したといいます。
【NPO法人ピルコン・染矢明日香理事長】
「もしかしたら避妊に失敗したかもしれない、妊娠が不安だけど緊急避妊薬を飲むまで至らなくて次の生理が来るまで待っているっていう子もいます。学校や仕事があって(病院に)平日・日中にいけないとか、人の目が気になって学生だから行くことがためらわれる子も中には多い」
染矢さんが代表を務める市民団体は、緊急避妊薬へのアクセスを改善するため、2年間で約7万人の署名を集め、今年7月、厚生労働省に提出。
【NPO法人ピルコン・染矢明日香理事長】
「困っている人や人生がかかっていたり、妊娠となるとその後の人生や健康に大きく関わることなので、より多くの人に当事者意識をもってこの問題を捉えていただけたらと思っています」
■ハードル高い”市販化“ 「避妊せずに性行為が増えるのでは」反対意見も…
長年、緊急避妊薬の市販化を求める声があったにも関わらず、なぜ解禁されなかったのでしょうか。
実は、3年前にも厚生労働省で検討されましたが、緊急避妊薬が安易に手に入ると、
「避妊をせずに性行為をする人が増えるのではないか」
「緊急避妊薬の市販よりも先に正しい避妊の仕方を教えるべき」
といった反対意見があがり、見送られていました。
【田村厚労大臣】(今年10月)
「性教育の問題もあると思います。緊急避妊薬を飲むことで子供が生まれないことによっての行動など、感染症の問題もありますから、そういうことを含めたしっかりとした教育、これをやらなきゃいけない」
田村厚労大臣は、期限を区切らずに慎重に検討する方針を示しました。
緊急避妊薬の市販化を国に求めている産婦人科医師は…
【遠見才希子産婦人科医】
「性教育が必要というのはもちろん正しい意見なのですが、実際に今日も困っている人は存在します。妊娠阻止率が約85%ということなんですけど、時間が経つほど下がってきてしまうんですね。早く安全に適切に安心して手に入れられるっていうシステムを作ることが大切だと思います」
今困っている人が取り残されないように、新たな仕組みを考える必要があります。
<ニュース解説>
■市販化を求める声 解禁すべき?
日本で承認されている緊急避妊薬「ノルレボ錠」。
重大な副作用はないと言われていて、WHOは「医学的な管理下におく必要はない」としています。
早く服用すればするほど妊娠を防ぐ可能性が効果が高くなることから早く手に入るような環境を整えることを求める声が上がっています。
世界90か国で薬局で購入可能とされています。
市販化が進むと、性的なリスク行動が増加するという懸念の声がありますが、WHOは「緊急避妊薬が手に入りやすくなっても性的リスク行動は増加しない」と示しています。
■根強い慎重意見も…
「緊急避妊薬で完全に妊娠を防げない」「対面診療が必要」
「避妊しない人が増える」「性感染症が広がる恐れも…」
などといった市販化に慎重な意見があります。
緊急避妊薬は時間内に服用したからと言って、100%妊娠を防ぐことができる薬ではなく、あくまで緊急時に服用する薬です。日常的な避妊方法として使用することはできません。
■「緊急避妊薬の市販化」と「性教育」は分けて両輪で進めるべき
市販化よりも先に性教育という声が根強くあります。もちろん性教育は重要ですが、長年、性教育の遅れは指摘されていて具体的なゴールの設定や見通しを立てることが難しいこともあります。
その議論が行われている今にも、予期せぬ妊娠を防ぎたいと困っている人がいます。
性教育の議論と市販化の議論は分けて、両輪で進めていく必要があるのではないでしょうか。