インターネットを使っているときに、健康食品を試してみたら「効果が出た」と、利用者の体験談のように書かれた、通称「記事型広告」を見たことはありませんか?
こうした記事型広告を使って、違法にサプリメントを宣伝した疑いで、大阪府警が関係者の一斉逮捕に踏み切りました。
関西テレビは逮捕前に関係者を取材しました。
驚くような体験談…「記事型広告」
そのWEBサイトには驚くような第三者の体験談が並んでいました。
(広告に掲載されていた文言)
「医者が『何コレ…!?』と絶句するほど”脂肪肝”だった私が、お酒も食事も我慢せずにわずか1か月で正常値まで下げた『最強健康法』とは!?」
肝臓の脂肪の数値が「下がった」という内容に…
(広告に掲載されていた文言)
「【衝撃】ズタボロだった肝臓が半年で復活…?!お酒も食事も我慢しなくてOKな方法がスゴすぎる!」
肝機能が復活したという内容。
「肝パワーEプラス」という健康食品を使った「体験談」のように見えますが、違法な広告である疑いが強まり、大阪府警が一斉摘発に乗り出しました。
医薬品医療機器等法違反の疑いで逮捕されたのは肝パワーEプラスの販売会社「ステラ漢方」(福岡県)の広告担当(29)と広告代理店「KMウェブコンサルティング」の社長(30)、広告代理店「ソウルドアウト」の従業員(28)らあわせて6人です。
健康食品は本来、医薬品ではないため、効果や効能を宣伝することが禁止されています。
実際、肝パワーの公式の商品サイトでは法律違反となるような表現はありません。
ステラ漢方の広告担当者は、代理店2社に広告の作成を依頼し、「肝臓疾患の予防に効果がある」などとインターネット上で違法に宣伝した疑いが持たれています。
その際に使われたのが、「個人の体験」風の文章が載った「記事型広告」でした。
担当者は…「答えられない」「わからない」
【取材記者】
「こちらは肝パワーを宣伝する記事型広告にあった写真です。このクリニックについて東京の保健所に問い合わせると、今まで存在していたことはないということです」
記事には、実在しないクリニックの専門家まで登場していました。
警察は、こうした写真などの多くはステラ漢方から広告代理店に提供されたもので、記事型広告から公式通販サイトに誘導することが目的だったとみています。
関係者に「違法な広告」という認識はあったのでしょうか。
関西テレビは逮捕前にステラ社の広告担当にコンタクトを取りました。
――Q:記事型広告で第三者の感想のように、『すごくいい商品だ』と宣伝する広告だったと思うんですが、あの広告は誰が主体となって作成されたんですか?
【ステラ漢方・広告担当(逮捕前)】
「すみません、ちょっとお答えができないです。」
――Q:自社サイトでは言えない効能効果を、記事型広告を使って言おうとした?
【ステラ漢方・広告担当(逮捕前)】
「すみません、それもちょっとわからないです」
「答えられない」「わからない」を繰り返すばかり…。
自身が記事型広告にどう関わったのかについて明言を避けました。
違法性疑われる「フェイク広告」…ネット上で放置
体験談のような文章で商品を宣伝する記事型広告は、インターネット上に無数に存在します。
街で話を伺うと、多くの人が「見たことがある」と答えました。
【街の人は…】
「画像とか、こんなんに弱いな」
「うまいことしてはんな」
「サプリ飲んだりとか」
――Q:なんで、買っちゃうんですか?
「楽やから?楽して痩せようとするから」
【別の女性】
「買わないです、うさんくさいです」
【男性】
「最初記事かなぁと思って、触っちゃいますよね。これ良いものなのかな思ってついつい思って触っていって、行きつく先が今ならナンボとか言ってよく出てますね」
広告会社を経てネット広告のコンサルティング会社を起業した加藤公一レオさんは、違法性が疑われるものが放置されていると指摘します。
【「売れるネット広告社」代表・加藤公一レオさん】
「第三者風に見せているんですね。『私はこれを試したけど、本当に良かった。痩せたし、がんも治った』っていったら信ぴょう性があるんです、広告主が直接言うより。だから記事型広告は売れちゃう」
広告主の「責任逃れ」を許している現状
【「売れるネット広告社」代表・加藤公一レオさん】
「これの何が問題かというと、黙認しているクライアント(広告主)は逃げられる。『どっかのアフィリエータ―や広告運用会社が勝手にそういう記事を作って、我々も困っているんですよ、知りませんでした』と逃げられるんです。じゃあ広告運営会社は、『広告のお金はもらっていないですよ、勝手に感想を書いただけなんですから、たまたまリンクを貼っただけなんですが何か問題ありますか?』って逃げられるんです」
広告主の「責任逃れ」を許している現状があるといいます。
今回、作成に関わった広告代理店「KMウェブコンサルティング」の社長(30)は、逮捕前の取材に対してこう証言しました。
【KMウェブコンサルティングの社長】
「法律があることは知っていましたが、違法性の認識が甘かったと思います。記事型広告の内容について、ステラ漢方の確認を受けて広告を出していました」
広告主であるステラ漢方に内容の確認を受けていたと話す広告代理店。
――Q:法律違反の広告が出ていたのは事実ですよね?
【ステラ漢方・広告担当(逮捕前)】
「みたいですね」
――Q:それに関して知らなかったということですか?
【ステラ漢方・広告担当(逮捕前)】
「どうでしょう、ちょっと僕の立場からはお答えができないので。これ以上お話しすることがないです」
逮捕後の調べに対し、ステラ漢方の広告担当は「サプリメントなので、医薬品のような効果・効能を表現してはいけないことは知っていました」と容疑を認めています。
実はその後の取材で、ステラ漢方は、6年前にも「根拠がないにもかからず、自社サイトで健康食品の効能や効果を表示した」として、消費者庁から改善するよう命令を受けていたのです。
広告主と代理店の「共謀関係」が判明
そもそも「記事型広告」というのは、第三者の体験談のように書かれた広告のことです。
広告主とは関係のない人が「すごく良かった」「すごく効いた」と言っているように見せて信憑性を高め、消費者に買ってみたいと思わせる手法で、ページの最後には、商品の公式販売サイトのリンクが貼り付けられています。健康食品や化粧品などでよく使われる広告手法です。
「記事型広告」そのものが、違法なわけではありません。今回は、健康食品であるにもかかわらず、「肝機能の数値改善」などと医薬品のように効果・効能を宣伝したとして医薬品医療機器等法違反の疑いで事件化されました。
大阪府警によると、このような違法な疑いのある体験談風の広告があると情報提供を受け、サイバーパトロールしたところ、今回の記事型広告を発見。捜査を進めると、広告代理店とサプリメント会社=広告主の共謀関係が判明して一斉摘発に至りました。
広告主が「記事型広告の作成」を指示したかは捜査中ですが、最終的に記事型広告の内容をチェックしていたということなどから広告主の責任が問われました。記事型広告の違法な宣伝について、広告代理店だけでなく、広告主まで逮捕されるのは極めて異例です。
「言い逃れができてしまう」のが問題
違法性が疑われる記事型広告は、ネット上に散見されます。にもかかわらず、取り締まりが及ばないのは、誰の責任かが見えにくいからです。
長年、ネット広告業界に携わる「売れるネット広告社」代表・加藤公一レオさんによると、広告主は「商品の宣伝を代理店に依頼しただけ」つまり、宣伝方法までは指定していないと言い張ります。広告代理店は「利用者の体験談を記事にしただけ。効能・効果などは謳っていない」と言い逃れることで、責任の所在が曖昧になってしまうといいます。
「国による規制」も必要な時期に…
証明されてもいない効果・効能を信じて、消費者が商品を買い続けることにもなりかねない記事型広告。加藤広一レオさんは「国の規制が必要だ」と指摘します。
具体的には、その広告が商品を販売している広告主と関係があるということを、URLなどでチェックすることです。つまり、現状では広告主とは別のサイトで第三者の体験談のような記事型広告が出されていますが、今後は広告主のホームページに紐づいた形に限定させるという提案です。
今回の事件でも、ステラ漢方は、6年前に「根拠がないにもかからず、自社サイトで健康食品の効能や効果を表示した」として、消費者庁から改善するよう命令を受けていたことが分かりました。
今回、容疑者らは自社サイトでは違法な表現はせず、別のサイトで「体験談」風の広告を使っていて、警察は行政からの摘発逃れが目的だった疑いもあるとみて調べています。
違法性の疑われる記事型広告で、最終的に一番不利益を被るのは消費者です。
健康食品そのものが悪いわけでも、記事型広告そのものが違法なわけでもありません。
しかし、第三者的に違法に謳われた薬効を信じて、粗悪な商品を買い続けてしまう可能性があるのも事実です。規制だけでなく、広告を見る側の意識も問われています。