水槽の中をフワフワと舞うクラゲ。
京都水族館で行われた大規模リニューアル、7月16日にオープンしたクラゲの世界で、西日本最多となる5000匹ものクラゲが展示されています。
実は、この日を迎えるまで裏側では様々な試練がありました。
2年目の若き飼育員…「夢の展示」を目指す
京都駅のすぐ近くにある京都水族館。
西日本で最多のクラゲを使った展示作りは去年11月に始まっていました。
クラゲの飼育を担当する六浦文さん(25)。
繊細なクラゲを傷つけないように一匹ずつ慎重にすくいます。
六浦さんは大学生の頃からアルバイトとして京都水族館で働き、去年2月に正社員になったときにクラゲの担当になりました。
もともとクラゲには興味がなかったといいますが…
【六浦文さん】
「クラゲの種類によってご飯もらったときのリアクションが違ったりするので、口をワッて開けるような種類がいたりするので、やっぱりそういうのを見てると癒されます。スッとクラゲのことが入ってきてその後ずっとクラゲのこと考えちゃうみたいな。夢にも出てくる」
今では文字通り、「寝ても覚めても」クラゲのことで頭がいっぱいです。
リニューアルの予定は4月。
それに向け、クラゲチームは会議を重ね、入社2年目の六浦さんのアイデアが採用されることになったのです。
そのアイデアとは。
【クラゲ展示飼育チーム長 河崎 誠記さん】
「びっしりにしたいんでしょう?」
【六浦文さん】
「そうですね。床一面サカサクラゲにしたいです。だめですか?」
【クラゲ展示飼育チーム長 河崎 誠記さん】
「わかんない。わかんないけどやってみたらいいんじゃない?」
【六浦文さん】
「だって見たことないじゃないですか~」
六浦さんが提案したのは、水槽の底一面にサカサクラゲをしきつめること。
サカサクラゲは、“サカサの状態”で水の中にいるクラゲで、ふわふわ浮かばずに、海に底でじっとしる習性があります。
500匹をしきつめるのが目標ですが…
【クラゲ展示飼育チーム長 河崎 誠記さん】
「今は42(匹)」
【六浦文さん】
「10倍以上に(しないと)」
京都水族館にいるのはたった42匹。
こつこつ繁殖も進めていたなか…「大量発見」の情報が!
発見場所は、京都から450キロ以上離れた高知県の沿岸。早速、向かいます。
【六浦文さん】
「クラゲの夢見てハッて起きちゃって。海の中にサカサクラゲがいっぱい、たぶんいてほしいなって思いすぎて、夢に出てきちゃいました」
半日以上かけてようやく高知県に到着すると…
夢にまで見た、大量のサカサクラゲです!
女性が着替える場所がなかったため、六浦さんの代わりに先輩が潜りました。
サカサクラゲは目標の5分の2に当たる、200匹に達しました。
リニューアル目前…「新型コロナ」で長期休館に
その後も、着々と準備が進みます。
通常の入り口からは入らない巨大な水槽をクレーンでつりあげます。
クラゲも増え、水槽も設置。しかし…
<2月29日 新型コロナウイルスの影響で無期限休館>
誰も訪れない館内でクラゲたちの世話をする日々が続きます。
この日、繁殖を続けていたサカサクラゲが巨大水槽に引っ越しました。
【六浦文さん】
「広い、水槽!広い!急に豪邸に引っ越したみたい」
大水槽に、六浦さんも「ちょっとわくわく」してるみたいです。
【六浦文さん】
「思ってたより水槽が大きかったです。かなり広々とした感じになってしまったのでこれから機会を見つけて採集に行けたらなと思います。私の夢の中では一面にサカサクラゲカーペットのみたいな感じだったのでそこを目指していきたいです」
6月15日、長かった休館は終了。
しかし、サカサクラゲはまだまだ足りません。
思っていたよりも困難だった繁殖。
さらに、新型コロナウイルスの影響で、県をまたいで採集に行くこともできませんでした。
季節が変わったからか、移動が解除されたころにはサカサクラゲはもう高知県でも見つからなくなったため、今回は展示を断念することになりました。
【クラゲ展示飼育チーム長 河崎 誠記さん】
「悲しいね」
【六浦文さん】
「悲しいですね」
大きな水槽からサカサクラゲを取り出し、もとの水槽に戻します。
【六浦文さん】
「必ず高知の海にずっといるとは言いきれないし、繁殖も必ず成功するとも言い切れないので生き物に絶対ってないんだなというのを改めて感じました」
ぜひリベンジ!「いつか水槽一杯に…」
そしてリニューアルオープンを迎えた16日。
【訪れた人は…】
「ふわふわクラゲ。楽しかった」
「ちょっと変わった丸い形の中に入っていくのが今までにない感じで楽しかったです」
六浦さんも、クラゲ愛たっぷりにお客さんに説明しています。
【六浦文さん】
「めっちゃかわいいんですよ。傘があってぶらんって風鈴みたいな感じでかわいい」
最初の計画よりはだいぶ小さい水槽ですが、サカサクラゲも展示されています。
六浦さんはまだ諦めていません。
【六浦文さん】
「採集してきたサカサクラゲを元気に維持することを心掛けているので、その子たちを増やしていけたらいいなと思ってます。ぜひリベンジしたいなと思っているので、たくさん繁殖で数を増やしたら、いつかここの水槽一面サカサクラゲにしたいと思っています」