「紀州うめどり」という鶏をご存知でしょうか。 和歌山県のブランド鶏で県民にとってなじみのある鶏なんですが、生産する養鶏業者が経営破綻し、14万羽もの死骸が放置されたことが問題となりました。
なぜこんなことが起きたのでしょうか。ツイセキ取材しました。
立ち込める悪臭…14万羽の鶏の死骸
和歌山県田辺市の山あいにある集落の一角。
【記者リポート】
「養鶏場が見えてきました。少し離れているんですけど何かが腐ったような生ぐさい臭いがしています」
悪臭が立ち込める養鶏場。 その中には大量の鶏の死骸が放置されています。
去年12月ごろ、ここで紀州うめどりを生産していた有田養鶏農業協同組合が経営破綻し、鶏は餌が与えられず餓死したのです。 死骸の数は3つの養鶏場で14万羽にのぼります。
【近隣男性】
「くさい、だいぶ臭い。困りますよなるべく早く処理してもらわないと」
【近隣女性】
「こうなる前に何か手だてがなかったのかなって、もったいないない。鶏もかわいそう」
苦情が相次ぎ、県は組合に死骸を処理するよう再三指導しましたが、従わなかったため、行政代執行に乗り出しました。
その費用、約1億円は組合側に請求する予定ですが、現状、県民の税金が使われています。
そして、6月…
【記者リポート】(6月19日)
「和歌山県警の捜査員が養鶏業者の事務所に家宅捜索に入りました」
鶏を餓死させたことが「虐待」にあたる疑いがあるとして、警察が強制捜査に入ったのです。
「紀州うめどり」の大量死。
実は大きな影響を及ぼしています。
ブランド鶏が「生産停止」…再開めど立たず
梅酢を混ぜた餌で育てられる「紀州うめどり」
和歌山県のブランド鶏として年間150万羽出荷され、県内の鶏肉生産量の半分を占めていました。
組合はうめどりのブランド化を進める協議会から生産を任されていましたが、経営破綻により流通がストップ。協議会によると、再開の目途はたっていないということです。
【和歌山県・仁坂知事】(2009年食博覧会で)
「和歌山県は鶏が一位ですよ。紀州うめどりっていうのが一位なんです」
全国のブランド鶏のコンテストで一位を獲得したこともある紀州うめどり。その良さを熱弁していた仁坂知事は現状について…
【和歌山県・仁坂知事】(6月30日)
「私なんかはものすごく宣伝していた非常に確立した良いブランドだったんですよ。誰かがそのノウハウを引き継いで、同じところじゃなくていいからやってくれたらいいが、今のところまだ目途がたっていない。ということは和歌山県にとっては残念なことだなと」
和歌山県民にも話を聞いてみると…
――Q:紀州うめどりを食べたことは?
【和歌山県民】
「あります。からあげにして食べました。おいしかったです」
「和歌山県民には知名度があるかなと思う」
「(スーパーなどで)最近みないですね。食べれなくなったら寂しい」
大阪・北新地の鶏肉料理店。
紀州うめどりを専門に扱う店として売り出していましたが…代わりに別の鶏を使わざるを得ない状況に。
【店長は…】
「(紀州うめどりを食べて)一番お客様が驚く、感動するのは実が柔らかいところ。臭みがないといったのも特徴。正直販売できていないのがすごく悲しい。なるべく早めにうめどりが復活することを非常に願っている」
余波はそれだけにとどまらず…
手つかずの鶏糞倉庫からは「何度も出火」
【記者リポート】
「あちらが鶏の糞をためている倉庫だというんですけど、中から煙が出ていますね。あたりは少し焦げ臭いにおいがしています」
放置され発酵した糞が発火。壁が焼け落ち、大量に漏れ出しています。
なぜこのような状況になったのでしょうか。
【有田養鶏の元従業員】
「何度も出火して消防も何度も来て是正を言い渡されているが放置されている」
――Q:代表たちは直そうとしなかった?
【有田養鶏の元従業員】
「直そうという、そぶりがなかったです。経営破綻後もしばらくは放置。『人員を一人割りあてて消せ』という指示は出ていたが、この鶏糞(の火災)をスコップ一つで一人で消せるものではない。(代表らは)“そういう姿勢“だったんじゃないか」
消防は山火事の危険があるため、十数回以上指導しましたが、組合の代表は「費用が捻出できない」としてまともに対策をとらなかったといいます。 様々な影響を及ぼしている経営破綻。その裏では不可解なことが起きていました。
関連会社で「大量退職」…作業が滞る事態に
【和歌山県の担当者】
「関連会社の食鳥処理をしている吉備食鶏組合で雇用人員の大量退職があった」
――Q:なぜ大量離職が?
【和歌山県の担当者】
「そこもわれわれはつかめないんです、聞いても全然わからない」
生産・解体・販売を一本化して出荷されていた紀州うめどり。 生産を担当していた有田養鶏農業協同組合の代表が他の2つの会社の代表も兼ねていました。
そして、解体を担当していた吉備食鶏組合で従業員が大量に離職。
徐々に作業が滞ったことで売り上げが減少し、エサを買う金もなくなったというのです。
ベテラン技術者の解雇をきっかけに…元従業員が語る内部実態
吉備食鶏組合の元従業員は当時の状況をこう話します。
【吉備食鶏の元従業員】
「技術のいる仕事だが、昔からやってる職人さんレベルの人達が切られていったんですよ。せっかく育った職人を急にやめさせるのは、今後の会社のためにもおかしいやり方だなって」
対象になったのはほとんどが技術をもったベテランの従業員たち。
その結果…
【吉備食鶏の元従業員】
「普通やったら午後4時に終わる仕事が、(次の日の)朝までぶっ通しでやったりとか。半分以上が外国人の方になって、外国人が手が足りなくて、知り合いの外国人を無理やり集めて…衛生の勉強もなく無理やり解体ラインにつかせてやった。できる範囲だけで解体処理して、あとは捨てるって感じだった」
作業が滞る中でも、数年前までグループ全体では黒字でした。 その末の経営破綻には驚きを隠せません。
【吉備食鶏の元従業員】
「ありえへんっていうのが正直な意見。現場で仕事しているものからしたら、明らかに注文数は増えているし、そんなはずはない。紀州うめどりが欲しいっていう客はいるんですよ、今でもあるくらい」
組合の代表は「連絡が取れない状態」
取材班は話を聞こうと、代表が寝泊まりしているという建物に向かいましたが…
【記者】
「人がいる気配はありませんね」
(代表の携帯に電話してみるが…)
『おかけになった電話番号は客の都合により出れません』
今回の事態について組合の代表は県に対し、「こうなってしまってすまない」と話していましたが、現在は連絡がとれない状況だといいます。
家宅捜索の際、その場にいたグループの役員は…
――Q:なぜこういうことになったんですか?
――Q:代表はなぜ出てこないんですか?
記者からの質問に答えることはなかった。
問題の裏側で深まる謎。失われたブランドをもう一度取り戻すことはできるのでしょうか。