老夫婦で経営する、小さなビジネスホテル
大阪市淀川区にあるビジネスホテル、アワーズイン三国。
客室の空気を入れ替えるのは、オーナーの堀尾勝男さん、81歳です。
【アワーズイン三国オーナー・堀尾勝男さん】
「使っていなくても、ほこりがたまったりすんで、空気を入れ替えてほとんど毎日掃除はやっている」
この日の宿泊客はゼロ。
それでも、いつお客が来てもいいようにと掃除を欠かしません。
客室は11だけの小さなホテルですが、新型コロナウィルスの感染が拡大した時期も休業せずに続けてきました。
しかし、緊急事態宣言が解除された後も、改善の兆しは見えません。
【アワーズイン三国オーナー・堀尾勝男さん】
「無茶無茶悪いです。去年の4月と今年の4月を比べると…80%減ぐらい。6月に入っている予約は3件ですね」
予約リストは、6月以降ほぼ真っ白の状態です。
価格競争に巻き込まれ…コロナで大打撃
ホテルの前身は、昭和10年創業の「三国旅館」。
母親の千代さんが女将として切り盛りし、出張の宿として繁盛しました。
ホテルには、旅館時代の思い出が残されています。
【アワーズイン三国オーナー・堀尾勝男さん】
「これは旅館にございました灯篭の石です…」
13年前、駅前再開発で旅館を閉じようかと考えましたが、ホテルとして再出発を決めたのは、常連客の言葉でした。
【アワーズイン三国オーナー・堀尾勝男さん】
「お客さんがみな、辞めるのと違ってやってよ。私らずっと使ってんねんからと言われて、家族ぐるみのサービスが出来るようにした」
しかし状況は、年々厳しさを増します。
800軒余りだった大阪市内のホテルは、この5年で倍増。特にここ数年は、外国人観光客をターゲットに急増しました。
激しい価格競争となり、客は減少。堀尾さんのホテルも、1泊7800円から1割値下げせざるをえませんでした。
そこに追い打ちをかけた新型コロナウィルス。
予約サイトには、大幅な値引きがずらり。
小さなホテルでは、とても太刀打ちできない価格にまで下落しています。
ともにホテルを支えてきた妻・明美さん。
苦しい胸の内を語りました。
【妻・明美さん】
「私はもうやめたいんですけど…」
【アワーズイン三国オーナー・堀尾勝男さん】
「きれいに片付く(新型コロナが収束する)のは2年ぐらいかかるんとちゃうか」
【妻・明美さん】
「2年も頑張れる?」
京都で「軽症者の受け入れ施設」になったホテル
コロナに翻弄されるホテル業界。
将来ため休業を余儀なくされるケースもあります。
京都市上京区。御所の西隣にある、京都平安ホテル。
年間延べ3万8000人が利用する人気の宿でしたが、4月から新型コロナウィルスに感染した軽症者のために部屋を提供しています。
【平安ホテル営業支配人・伊藤之博さん】
「こちらが営業時はカフェレストランとして使用していたスペースなんですけれど、今現在は医療スタッフの詰所として使用している
【平安ホテル営業支配人・伊藤之博さん】
「パーティションの向こう側はいわゆるレッドゾーン。軽症者の方が移動する通路として、完全にパーティションで封鎖をして、グリーンゾーンとの区分けをしている」
ホテル自慢の庭。
外国人観光客が選ぶ日本庭園ベスト10の常連です。
その眺めが評判のカフェは、医療従事者が働く事務所として使われています。
感染者が減り、1か月以上受け入れ人数ゼロですが、再開のめどはたっていません。
【平安ホテル営業支配人・伊藤之博さん】
「第2波、第3波に備えて、軽症者の受け入れ施設としてホテルを確保したいと要請があったので、受け入れを決断した」
京都府から支払われるのは、患者の宿泊に使われる2フロアの代金ですが、施設全体で受け入れ態勢をとっています。
そして、100人近いスタッフの大半は、休業手当を受けながら自宅待機の状態。
先の見えないホテル再開に向け、待つ日々が続いています。
悩んだ末…事業を継続「コロナに負けてられない」
一時はホテルをやめようかという話も出た、堀尾さん夫婦。
悩んだ末、特別融資を受けて、事業を継続することを決心しました。
【アワーズイン三国オーナー・堀尾勝男さん】
「コロナになんか絶対負けてられんと。あそこのおじさん止めるらしいでという情報があったら、怒りに来てください。叱りに。やめませんから」
85年続いたホテルを守るため、先の見えない闘いは続きます。
社会活動が戻りはじめた一方で、それぞれの生活にコロナが深い影を落としています。