新型コロナウイルスの影響で、多くのスポーツが中止や無観客で行われる中、ひと足早く、観客を入れて公式戦をスタートさせたプロ野球の球団があります。
煌びやかなNPBのプロ野球とはかけ離れた、もう一つのプロ野球「独立リーグ」で奮闘する球団代表の日々を追いました。
堺シュライクス、2年目のシーズンに臨む
6月、NPBのプロ野球よりも、ひと足早く開幕した関西独立リーグ。
試合中、グラウンド整備をするのは、夏凪一仁さん。
実はこの人、球団代表なんです。
【夏凪一仁・球団代表】
「野球というもので、自分の街に恩返ししていければと思っていますので」
大阪・堺市出身の夏凪さんは、2018年、故郷に独立リーグの新球団・堺シュライクスを設立。
迎えた監督は…中学時代のチームメイトで、オリックスなどで活躍した大西宏明さんが就任しました。
NPBのプロ野球選手輩出を目指し、2年目のシーズンを迎えます。
独立リーグは現在、全国に23球団あり、選手は約600人いますが、NPBへの道のりは狭き門となっています。
2019年ドラフトに指名された選手は、たったの9人で、毎年半数近くの選手たちが、リーグから去っていくのです。
【夏凪一仁・球団代表】
「独立リーグってもちろんプロ野球を目指す場所でもあるんですけど、同時に野球をあきらめるというか、次の社会人へのステップ、それを決断する場でもあると思うので。5年~10年長くやるより短期間で勝負して、ダメであれば次の道を探す一つのきっかけになれば」
感染拡大で…試合も練習もできない日々
限られた時間の中で、勝負や引退の決断を下す選手たち。
しかし今年は、新型コロナウイルスの影響で、リーグ戦は開幕延期になり、約2ヵ月間、試合もグラウンドでの練習もできない日々が続きました。
【河村将督選手】
「自分でバット振ったり、キャッチボールしてとか、個人個人でやってたのがほとんどですね。グラウンドで出来る喜びは再認識しました」
堺シュライクスでは、ほとんどの選手が寮生活をしています。
選手たちに給料は支給されていませんが、家賃は無料で、またシーズン中のアルバイトも認められています。
夏凪さんは同じ寮に住み、選手達のサポートと球団運営を行っています。
【夏凪一仁・球団代表】
「本当に今年野球できるのかな?っていう所もありましたし、スポンサー企業の中でもコロナの影響ですごいダメージうけている企業もありますので」
運営資金の「8割」がスポンサー料
選手のユニフォームを見てみると…太もも部分には11社のロゴが。
独立リーグの球団は、NPBとは違い、複数の中小企業などから、スポンサー料を得て運営しているところがほとんど。
堺シュライクスでも、年間5000万円ほどの運営資金のうち、スポンサー収入が8割を占めています。
そのスポンサーを確保するのは、夏凪さんの仕事です。
お世話になっている企業へ営業に向かいました。
【夏凪一仁・球団代表】
「やっと何とか開幕できることになったんですけど、なかなか観客をまだたくさん入れては難しいですし、御社も学校とかに牛乳を卸している中で、結構大変だったのでは?」
【泉南乳業・吉田茂夫社長】
「学校給食無くなったダメージは大きいけど逆に巣ごもり需要はあった」
変わらず応援してくれるスポンサー。
そして、新規開拓も行います。
【夏凪一仁・球団代表】
「すみませんお忙しい中、ありがとうございます。堺シュライクスの夏凪と申します」
【ウェーブ薬局・角忠恒社長】
「私も堺の人間で、野球チーム出来たってチラチラ聞いたことがあって」
【夏凪一仁・球団代表】
「できたばっかりの新しいホヤホヤの球団でして」
【ウェーブ薬局・角忠恒社長】
「立ち上げはね、なかなか信頼とか最初は大変なんですけど」
【夏凪一仁・球団代表】
「球団経営初めてやってるので、どうしていいかってことが多いんですけど」
【ウェーブ薬局・角忠恒社長】
「またぜひ、応援させていただければ」
【夏凪一仁・球団代表】
「ありがとうございます」
今回の営業、手ごたえはあったのでしょうか?
【夏凪一仁・球団代表】
「すごく気さくな社長で野球もやっていたみたいなので、結構盛り上がりましたね」
――Q:コロナの影響で営業活動は
【夏凪一仁・球団代表】
「久々のしっかりとした営業というか、ちょっと緊張しました」
焼き肉店も経営…休みなく働く日々
ホームでの開幕戦まであとわずか。
多くのスポーツが無観客で行われる中、夏凪さんは観客を入れて試合することを決めました。
【夏凪一仁・球団代表】
「全てが全てストップさせることがいいのかどうかがすごく考えたところですね。屋外でのスポーツですし人数制限も行うというところで、野球を見たいというファンもたくさんいますので」
オンライン会議を終えた夏凪さんは…急に服を着替え出しました。
胸元には焼肉店のロゴが…
球団だけでなく、焼肉店も経営しています。
自身も週6日働き、練習を終えた選手たちのアルバイト先にもなっています。
――Q:休む暇は
【夏凪一仁・球団代表】
「休みはほぼないですね。こっちもそうですし野球もそうですけど、自分自身が楽しくやっているのでそれが原動力になってるのかなと思いますね」
野球を見たいファンのために…ホーム開幕戦
そして迎えたホームでの開幕戦。
夏凪さんは人数制限をとり、事前予約した観客120人を入れることにしました。
感染防止の対策をしながらの初めての試合運営。
観客には入場前、大阪コロナツイセキシステムの登録を義務付け、消毒や検温も実施しました。
【スタッフ】
「おでこ失礼します」
【観客】
「何度?」
【スタッフ】
「36度2分です」
【観客】
「あぁちょっと低い」
さらに、スタンドを周り、感染防止を呼びかけます。
【夏凪一仁・球団代表】
「すみません、もうちょっと前後も、横も距離とっていただけると」
そして、2ヵ月遅れでのホーム開幕戦が始まりました。
試合中、夏凪さんはファンとの交流も欠かしません。
【観客】
「芝、キレイになりました?」
【夏凪一仁・球団代表】
「”シュライクス・カラー”にしてもらってん」
【観客】
「もともとこれやん!(笑)」
試合は、一歩も譲らない投手戦となりましたが、6回以降、堺シュライクスの打線が爆発しホーム開幕戦を勝利。
球場にはファンの拍手が響きました。
【夏凪一仁・球団代表】
「色んな制限ありますけど、制限の中でやれることをしっかりやっていくことこそが重要だと思っていますので、一つ一つクリアして頑張っていきたいと思います。今シーズンの目標は、NPBドラフト指名とチームの優勝とその2つを追い求めていきたいですね」