働けず…貯金を切り崩しながら帰国を待つ実習生
小さなキッチンで、肩を寄せ合いながら昼食を作る5人のベトナム人男性。
部屋には、東南アジアを思わせる香辛料の香りが漂います。
【ベトナムから来た元技能実習生】
「鶏肉を鍋で煮る。スープみたいなもの」
大阪市生野区にある8畳一間のマンションで、一緒に暮らす彼らは、日本で働きながら技術を学んでいた、元外国人技能実習生です。
3年から5年の実習期間を終え、この春、帰国する予定でした。しかし、母国ベトナム政府は新型コロナウイルスの影響で、3月から日本からの入国制限を実施。今も帰国できません。
【ファン ヴァン タオさん(31)】
「兵庫の会社で働いていました。金属プレスの仕事です。仕事は3月31日まで、帰国の予定は4月3日でした。(会社も新型コロナウイルスの影響で)引き続き雇用してもらえませんでした」
帰国できない技能実習生に対し、日本政府は半年間、引き続き日本に滞在し、就労することもできる特別措置を取りました。
しかし、実習先で高い割合を占める製造業では、新型コロナウイルス不況で、引き続き受け入れる企業が少ないのが現実です。
【淀川中小企業振興協同組合 西川直孝専務理事】
「帰国できない技能実習生たちの荷物を一時的に預かっています」
技能実習生の受け入れ支援を手掛ける大阪の組合では、4月に50人の実習生が帰国難民となりました。そのうち働くこともできず、住む場所もなくなってしまった20人に、最低限の家電を備えた部屋を無償で提供しています。
【ファン ヴァン タオさん(31)】
「安い食材を買っています。千円もいかないです」
節約のため、食事は1日2回。感染を避けるため1日の大半を部屋で過ごしています。
それでも、最後に受け取った給料から母国の家族への仕送りもしています。
【チャン クォック タンさん(28)】
「新型コロナウイルス、病気、空腹、残された日々の生活費が足りるのか心配です。(手元にあるのは)3000円です。4月24日(に子どもが生まれた)。とてもとても子どもに会いたいです」
【グェン タィン リーさん(31)】
「帰国したら結婚するつもりでしたが、帰国できないので、延期しなければなりません。いつ帰国できるかわからないので不安です」
【ファン ヴァン タオさん(31)】
「組合僕たちを支援してくれるのでとても嬉しいです。仕事があるなら残って働きますが、仕事がないなら早めに帰国したいです。時間とお金がもったいないです」
実習期間が終了し帰国できない技能実習生は当初、10万円の現金給付の対象に含まれていませんでしたが、5月、給付金が支給される特別措置を取りました。
しかし、申請するためには住民基本台帳への再登録など、新たな手続きが必要で、時間がかかります。
【淀川中小企業振興協同組合 西川直孝専務理事】
「想定外の事態とはいえ、後手後手に回った感、また縦割り行政の悪い面が出たなというのが実感ですね。本来はベトナム政府、国内の問題で彼らが自国民を受け入れるのが本来あるべき姿だと思うので、我々日本が早く感染症を撲滅し、安全だという信頼をベトナム政府にもってもらうと」
外国からの実習生も「来日できず」…現場は人出不足に
もともと日本で培った技術を母国に持ち帰って役立ててもらおうと創設された技能実習制度。しかし、実際には、人手不足が深刻な農業や製造業などの分野を中心に利用が拡大し、昨年末には41万人以上と、10年間で4倍に増えました。
大阪府富田林市で、ナスや海老芋を生産する乾農園では、18人いる従業員のうち、3人が技能実習生です。
国内での求人に比べて、決まった期間に、確実に人材を確保できることから、7年前から採用を始め、この春も、新たに2人の実習生が来る予定でしたが…
【乾農園 乾裕佳副代表】
「入国予定だった(実習生)2人が、飛行機が飛ばなくなって入国ができなくなったので、短期の募集でもかけないと間に合わないなと」
新型コロナウイルスの影響で、予定していたベトナム人実習生2人が、ベトナムを出国できない事態に。4月から6月は、収穫や作付けなど繁忙期に当たるため、急遽インターネットで短期のアルバイトを募集しました。
そして、応募してきたのが、営業マンという、まさに「畑違い」の仕事をしていた小倉さんと森田さんです。
【宿泊業の営業マン 小倉健太さん(24)】
「会社の業種が、新型コロナウイルスで経済の影響を受けてしまって、休職になってしまって生活的にも収入が厳しくなったので」
――Q:なぜ農業?
「やっぱり飲食関係は全部だめで、農業であればコロナウイルスの影響がないかと考えて」
もう一人の営業マン、森田さんも収穫作業に奮闘中。
農園の副代表の乾さんから指導を受けています。
【乾農園 乾裕佳副代表】
「あんな、11時半まで(収穫)すると、ナスめっちゃ柔らかくなってきたやんか。朝早くとにかく終わらせる。ただ折れているのを見過ごして通ったらいかんってだけ」
食べごろのサイズのナスを見分け、素早く収穫する作業は、一朝一夕にはできません。
【乾農園 乾裕佳副代表】
「こんなしんどい目して、スーパーで買ってくるの楽やけどな」
【宿泊業の営業マン 森田貴仁さん(35)】
「ありがたさは実感しました」
元々来るはずだった2人の実習生は、過去にこの農園で3年間実習した経験者だったため、即戦力として期待していました。募集で来てくれたのは未経験の2人でしたが、それでも、収穫期に人手を確保できたことはありがたいと乾さんは話します。
そんな森田さんと小倉さんは、6月までの短期雇用。今年、ベトナムで予定していた、実習生の面接や家庭訪問は保留となり、新たな実習生がいつ来てくれるのか、見通しは立っていません。
【乾農園 乾裕佳副代表】
「今いる実習生も来年の3月で帰国予定となっているので、そのタイミングで(新たに採用する実習生)2人の面接をこの夏に予定していたんです。その予定も今、未定なところもあるし。今2か月だけやり過ごせばそれでなんとかなるという問題ではなくなっている」
今や、日本の産業を支える大事な一員となっている技能実習生や外国人労働者。
新型コロナウイルスは、外国人政策や、彼らを取り巻く環境についても改めて考るきっかけとなるのかもしれません。