場所も非公開、全国一斉で行われた「サプライズの花火大会」で、人々にひとときの笑顔を与えた花火師たち。
新型コロナウイルスの影響が残る中、その花火師たちも苦境に直面していました。
それでも夜空を彩ろうと奮闘した、ある老舗花火会社の社長の想い…。
「上を向いて、先を向いていける、元気を届けたい」
全国一斉、場所も非公開の「サプライズ花火」
6月1日の午後8時。
日本各地の夜空に突如現れた花火。
【見ていた人たち】
「すごーい」
「予告なしで上げるんだ…」
全国の160を超える花火会社が参加した「Cheer up!花火プロジェクト」。
人が集まるのをさけるため、場所は非公開のまま行われました。
その舞台裏には、業界が苦境に陥る中でも人々に笑顔を届けようと立ち上がる花火師たちの姿がありました。
花火大会の中止が相次ぎ…苦境に
奈良県香芝市の山の中にひっそりと建つ工場で、花火づくりにいそしむ職人たち。
【葛城煙火・古賀章広社長】
「こんな感じかなって簡単に(花火を)作るのは出来るんですけど、突き詰めるのは難しい」
創業70年を迎える「葛城煙火」の3代目社長・古賀章広さん。
日本三大祭りの一つ「天神祭り」などの花火を手掛けてきました。
しかし今年は軒並み中止に…
【葛城煙火・古賀章広社長】
「年間170~180くらい現場があって、7~9月は70くらい現場がある。そのうち35~40くらいは中止ですと言われている。絶対にやります、というのはゼロです」
倉庫には、行き場を失った花火の玉が積まれていました。
【葛城煙火・古賀章広社長】
「本当だったら、夏の現場で打ち上げるはずの花火の制作作業を止めてる」
――Q:キャンセルになった場合お金は?
「まるまる入ってこないですね」
苦しい状況の中、花火の楽しさをなんとか伝えようと、古賀さんが始めたのは…
【葛城煙火・古賀章広社長】
「花火・かつらぎ・チャンネル~!」
密にならずに家族で遊べる花火などを紹介する動画をYouTubeで配信。
(古賀社長)
『パラシュート、どちらが多くとれるかチャレンジ、スタート!』
古賀社長も自ら出演し、スタッフと共に花火を楽しむための企画に挑戦していました。
【葛城煙火・古賀章広社長】
「せっかくやるなら、楽しく元気に明るくやらないと、相手には伝わらないし…社員を巻き込んで」
企画会議では、若手からベテランの花火師が集まり、WEBで見られる“オンライン”花火大会など、様々なアイディアを出し合います。
【社員】
「可能か分からないけど、『点火のスイッチ押せる券』とか…」
悪疫退散を祈願、希望と元気を届けたい
新型コロナウイルスの時代を生き抜く方法を模索していた最中に「Cheer up!花火プロジェクト」の誘いを受けました。
悪疫退散を祈願し、人々に希望と元気を届けたいという趣旨に共感し、参加を決めたのです。
【葛城煙火・古賀章広社長】
「どっかで花火上がったね、見られなくて損したじゃなくて、心温まるね、くらいの意味合い。究極、本当に見えなくてもいいと思う」
この日、職人が作っているのは、プロジェクトで打ち上げる新作の花火。
【濵邊眞人さん】
「タイトルは『夜明け』です」
――Q:どういった思いで作られた?
「こういう時代なので少しでも早く元に戻れたらいいなっていう。明けない夜はないっていう、夜明けが来てほしいなって…下が紫で、上が黄色。その中に半分だけ、紅の太陽が出てくるイメージで…実際上げてみないと何とも言えないので、上がる時が楽しみです」
手書きのメッセージを張り付けて仕上げました。
【葛城煙火・古賀章広社長】
「“笑顔と感動”というのも、あと“元気になりますように”っていうのも。夜空に打ちあがって、かなうといいよねって」
「5分間」にかける花火職人たち
6月1日。
「Cheer up!花火プロジェクト」、当日。
大阪の会場となる舞洲では、準備が進められていました。
【兵庫・たつの市の花火職人】
「出来ることからやっていければと思ってるんですけど、僕らには花火上げることしかできないんで」
そして、午後8時。
時報と共に、一斉に花火が打ち上げられました。
奈良県の宇陀市で…
【古賀社長】
「お~いいんじゃないですか」
わずか5分間でしたが、見つめる人々は自然と笑顔になっていました。
【花火を見た姉妹】
「また見たい」
【母親】
「ありがとうやな、花火師さん」
――Q:明日からの学校がんばれそう?
【花火を見た姉妹】
「うん!」
【花火を見た男性】
「時間は短かったけど、見れたんで良かった。復興も早く、コロナも早く収まってくれたらいいなと思いました」
上を向いて、先を向いて、
打ち上げが終わり…
【職人】
「気分いいですね。楽しかったです」
達成感からでしょうか、打ち上げ前の緊張が解け、すっかり笑顔に。
この日のために新作を作り上げた職人も…
【職人】
「自分の考えていたことが出来たと思います」
【葛城煙火・古賀章広社長】
「下向きになってる子どもとか社会を、上向いて、先を向いて、やってかないといけない、という元気は届けられたのかな」
苦境の中、職人たちが打ち上げた希望の花火。
コロナウイルスを乗り越えるその日まで、輝き続けます。