緊急事態宣言解除で近づいてきた大学の再開。
しかし、学びを続けられるのか不安を抱く人たちが多くいます。
困窮する学生の現実を取材しました。
43万人…政府も乗り出した学生への支援
【萩生田文科相】(5月19日)
「このたび学生の学びの継続のための緊急給付金を創設することとしました。特に厳しい状況にある住民税非課税世帯の学生等には20万円、それ以外の学生には10万円を支給したいと思います」
政府が打ち出した43万人の大学生たちを対象とする支援策。
新型コロナウイルスの影響で困窮する学生に、10万円から20万円を支給するというものです。
バイト収入は半減…借金を増やすのは怖い
約4500人の学生が通う国立、和歌山大学。
活気にあふれていたキャンパスも…今は立ち入ることができないため、その光景はありません。
5月から授業や教授への相談も、遠隔で行うオンライン形式になりました。
【大学教授】
「現状とか大学とかに世の中に不安や不満はありますか?」
【新入生】
「そもそも友達がいない状況で先輩の情報が得られない中、初めて授業受けるってなってそれもインターネットですっていってもわからないことが多すぎて…」
ある学生が自宅で、オンラインでの講義を受けていました。
教授との会話は英語です。
【英語教授】
「ブライアンは何年生?」
【平見さん】
「彼は2年生」
教育学部2年生の、平見 美憂さん。
パソコン越しの授業にはまだ慣れていません。
【和歌山大学教育学部・平見美憂さん】
「大学の授業行って何があるって、人と話しをして考えを深める部分もあり、それがしにくくなったのが厳しいかな」
平見さんは母子家庭で4年間の学費は親戚から借りています。
生活費は塾のアルバイトで賄っていましたが、新型コロナウイルスの影響で仕事が減り、約6万円だった月収が今は半分に(金額6万→3万)
家賃や光熱費に消えてしまうため、食費や教科書代が重くのしかかります。
部屋の片隅に積まれた本の中から、1冊を選んでもらうと…。
【平見さん】
「これですかね、カズオイシグロです。母親が誕生日プレゼントで買ってくれたやつなんですよ」
何度も読み返したのでしょうか、本には付箋がたくさんつけられています。
今の心配事は、やはり生活や大学にかかるお金です。
【平見さん】
「借金がかさんでいるのが不安。特別に貸してくれる制度あるが、親戚は待ってくれる。そういうのを使って、親戚以外の借金を増やすのが怖いので使えていない」
親に頼ることができず、貯金を取り崩すぎりぎりの生活…。
さらに、気がかりなのは年間の学費が100万円ほどかかる、私立大学に通う弟のこと。
アルバイト先が休業して生活費がなくなり、借りていた奨学金の額を増やしたのです。
苦しい生活について、互いに話し合うようになりました。
【平見さん】
「もともといくら借りてたっけ?」
【平見さんの弟】
「もともと月8万円、いま10万円 やから(返済額が)増えるわな。だらだら大学通ってるより先就職して、借金減らした方がいいんじゃないかっていうのが1個の考え」
【平見さん】
「なるほどな~。借金ではあるんやけど、それでもやっぱり続けてほしいのが私の思いやから。ほんまに苦しかったら(私に)言いよ」
退学を検討する学生…大学も財源確保が難しく
学生団体の調査によると、経済的な理由で自主退学を検討している大学生たちは、20%にのぼります。
一方、大学側も学生の救済に困難をきたしています。
国立大学の場合、収入の大きな割合を占める国の交付金は減少する傾向にあります。
和歌山大学では学費の納付の延期を決めたほか、国が支援を打ち出す前に条件を満たす学生一人につき5万円を給付することにしました。
しかし、申し込みが殺到すると、財源の確保が難しくなるといいます。
【和歌山大学 永井理事】
「マネジメントから行くと本当に難しい話です。学生の窮状はわかるけれども、それに対応していったら大学が今後教育・研究が立ち行かなくなるなると本末転倒ですので、苦しい中でできることはやっていこうということで」
教員になる夢も…教育実習に行けるか分からない。
金銭面に加え、大きな悩みを抱える学生も。
大学院を来年3月卒業予定の田島直樹さん(23)。
実家のある大阪から大学へ通っていましたが、自営業の父親に万一、自分が感染させてしまうと家計が行き詰まると感じ、4月から友人の家に住まわせてもらっています。
【田島さん】
「一人暮らし始めたところなのに、転がりこましてくれたことは感謝しています。ありがたいなぁ」
【宮本さん】
「(田島さんは)大学院からなんで、こっちに知り合いが少ない、しょうがないな」
2人でうどんをすすりながら、ふとした会話には、これからの不安の言葉が出てきます。
【宮本さん】
「いつまで続くんやろうな」
【田島さん】
「2、3年っていう人もいるし」
【宮本さん】
「(それは)さすがにしんどい…」
田島さんの将来の夢は高校教師。これまで順調に単位をとってきましたが…
【田島さん】
「教員免許を取得中で教員の採用試験受けようと思ってるが、教育実習に行けるかわからないという状態で採用試験受けても免許もらえなくて採用されないのが不安で」
教員免許を取るまでに必要な教育実習。
6月ごろに予定されていた日程の中止や、秋以降に延期する事態が相次いでいます。
この状況を受け、文科省は実習の期間を短くして、その分を講義で補うこととする措置を大学側に示しています。
田島さんは9月に実習をすることにしていますが、再び感染が広がれば、中止になる恐れがあるのです。
【田島さん】
「そういう状態になってしまったら来年以降どこで働くのかまた考え直さないといけない点では人生設計変わってくるのかなって」
苦しい生活、将来への不安
田島さんたちは他の学生の状況も知ろうと思い、アンケートを取りました。
そこに寄せられた声は、苦しい生活と、将来進む道への不安です。
【田島さん】
「大学が再開されると今まであえてなかった学生と教員と会えるのが楽しみ。そういう日が早く、日常みたいなものが戻ってきてほしいなと期待しますね」
苦境の中にいる学生たち。本来の大学生活はいつ戻るのでしょうか。