いまだに品薄状態が続いているマスク。「この状況を何とかしたい」と考えた兵庫県尼崎市にある機械メーカーが、新たに生産に取り組み始めました。
機械メーカーが初めて扱うマスク、完成までの道のりを取材しました。
市役所に届けられた「800枚」のマスク
【ショウワ・藤村俊秀さん】
「おはようございます」
兵庫県の尼崎市役所に届けられたマスク。
その数、800枚。保育所などを管轄する部署に贈られました。
【尼崎市役所・こども青少年局 辻本正樹局長】
「買い求めても手に入らないなかなか状況が続いてきていまして本当に助かります」
【ショウワ・藤村さん】
「まずは尼崎でお仕事させていただいているというところを考えると、まずお持ちするのはこちらなのかなと」
このマスクを作ったのは、同じ尼崎市内にある機械メーカーです。
「ごりごりの機械メーカー」が初めての挑戦
従業員約50人の中小企業「ショウワ」。
本業は機械メーカーで、卸業者などが商品を運ぶ時に使う「パレット」を高速で洗う機械などを製造しています。
<今年3月>
――Q:これまでにマスクを作ったことは?
【ショウワ・藤村さん】
「一切ないです。ごりごりの機械メーカーなので消耗材を作るのは初めてです」
新型コロナウイルスの感染拡大によって、品薄の状態が続くマスク。
社長の藤村俊秀さん(49)は、「この状況を何とかしたい」と考えました。
【ショウワ・藤村さん】
「足りないのは明白な事実なので。出来る限り早く供給できる体制を作れば皆さんのお役にも立てるんじゃないかなと」
機械の調整に難航…資材も高騰
国がマスクの生産に取り組む企業を対象に募集した補助金の審査にも通り、早速試作を始めた藤村さん。
しかし、悪戦苦闘している様子です。
【従業員】
「このライン、このライン紙が外れとうやろ」
【別の従業員】
「ほんまや」
機械メーカーが、初めて生産するマスク。ベテランの従業員たちにとっても初めての作業が続きます。
いざ、作り始めると失敗続き。
鼻の部分を固定するワイヤが飛び出しているものや…耳にかけるひもが切れているものも。
これは、2つのマスクがくっついてしまっています。
【ショウワ・藤村さん】
「(機械の)調整はシビアですね。調整のしやすさはこれから作っていかないと自分たちの基準を」
課題は、機械の調整だけではありません。
運ばれてきたのは、マスクの「フィルター」となる素材です。
マスクは三層構造になっていて、カバーとカバーの間に挟まれているフィルターで、小さな粒子を防ぎます。
しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、このフィルターを手に入れるのが難しくなっています。
【調達を担当している三和紙工業・下園大介さん】
「弊社もある一定のルートであれば手に入るという目星はつけていたんですが、どんどん大手さん(メーカー)が買っていただいたんでしょうかね。そのルートでも通常納期で入らないという現象が起きていまして、なかなか苦労しています」
藤村さんが、中国の業者からフィルターを仕入れた時の伝票を見せてもらいました。
1トンあたり60万元=日本円で900万円もします。
世界的にマスクの需要が高まっていることを背景に、フィルターの値段が今年2月に比べて60倍ほどになっているのです。
――Q:現在どれぐらい投資をしている?
【ショウワ・藤村さん】
「設備のほうでいけば4000万~5000万の間ぐらい。ここ最近材料を結構買っているので、8000万ぐらいはもう超えているのかなあと。自分が思っている以上に出費はあるので」
試行錯誤を続けること1ヵ月。
【従業員】
「これいま横に向いているじゃないですか。縦はダメなんですか」
【従業員】
「邪魔にならず機能すれば何でもOK」
最近になってようやく機械のクセなどが掴めるようになり、納得がいくマスクが作れるようになりました。
【ショウワ・藤村さん】
「ばっちりじゃないですかとりあえず。問題はない。機械(の調子)さえよければ良く出来上がると思います」
社会全体が疲弊する今…『何かの役に立ちたい』
尼崎の機械メーカーが初めて取り組んだ、国産のマスク。
まだ試作の段階ですが、「それでも欲しい」という介護施設などに、無償で届け始めています。
【介護施設の職員】
「これ、頂いたマスク。これはええわ、大きいわ。どう、着け心地は?」
【デイサービスの利用者】
「いいよこれ。ゆったりしとるからなここがな。ありがとう」
この介護施設でも、職員や利用者がつけるマスクが手に入らない状態が続いていました。
【デイサービス豆の木・空山恭子さん】
「在宅介護に登録しているヘルパーさんもたくさんいらっしゃるので。みんな本当に体張って頑張ってくれている。そんな中でこのマスクは本当にありがたくて。ほんまに感謝します、ありがとうございます」
【ショウワ・藤村さん】
「喜んでいただけるのであればすごくありがたいし、嬉しいですし、持ってきて良かったなあと思います。自分たちが作っているのも非常に少ない量なので全量ずっと(無償提供を)続けるというのも難しいですけど、出来る限り、お届けできるのを増やしていければなあと思います」
「社会全体が疲弊している今だからこそ、何かの役に立ちたい」
藤村さんは、そう思っています。