関西が世界に誇る高級牛肉「神戸ビーフ」。
今、新型コロナウイルスの影響で危機に直面しています。
2年前の「半値」に…休業で「売り先」が無く
【セリ人】
「神戸ビーフです」
神戸市の市場で行われた「神戸ビーフ」のセリ。
「黒毛和牛の頂点」とも言われる神戸ビーフは、輸出やインバウンドによる需要の高まりから、近年、市場価格が上がっていて、2年前には1キログラム当たり、4000円を超える高値で取引されていました。
しかし…
【セリ人】
「2005円です」
この日、取引された32頭のほとんどは、1キロ当たり2000円前後と、2年前の約半分の価格でした。
最も良いとされる「最優秀賞」の肉でさえ、3100円しかつきませんでした。
【セリ人】
「3100円です」
市場関係者は…
【神戸中央畜産荷受 芦田日出夫専務】
「2月の終わりぐらいから徐々にその(下落)傾向がみられて、3月で下がって4月がもう一段(下がる)という。多分、初めてじゃないか、ここまでの下落率は。レストラン、外食が今、全然ダメなんで、ほぼ卸はきょう買われてない。そういう意味では半減以下になってる、買われる量も」
価格が大きく下落している要因は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界的な飲食店の休業です。
売り先がなくなったため、在庫を抱えた卸会社などが買い控え、さらに今後の見通しもつかないことから、価格が暴落。
神戸ビーフは8年前から、輸出にも力を入れ、海外の高級レストランでの需要も伸ばしてきたため、その影響をもろに受けているのです。
【神戸中央畜産荷受 芦田日出夫専務】
「例えば九州の牛だとかはスーパーに流通しているものが多いから、ダメージはまだ神戸ビーフに比べたら小さい。ところが神戸ビーフのようなブランド牛はどうしても高級外食だったから、こういうときに一番、影響を受けやすい」
かさむ経費…取引量も減り「出荷もできない」
神戸ビーフの市場価格の下落は、子牛の取引価格も引き下げ、生産農家を苦しめています。
中でも、繁殖農家から子牛を購入し、2年間育てて神戸ビーフとして出荷する「肥育農家」と呼ばれる生産者は、危機的な状況にさらされています。
【谷口牧場 谷口隆博代表】
「この辺が出荷控えています。(購入価格が)110万円超えの牛になっています。オリンピックに当て込んだ仕入れとなると(2年前に)みんな、俺も俺もと仕入れたものだから、どんどん(子牛価格が)上がってしまって、結局120万円ぐらいまでいってしまいましたね」
――Q:当初、オリンピックがありいくらで売れるだろうと?
「キロ単価にしたら、4200円、4300円、そういうのを夢見ておったわけですよ」
本来であれば、今年開催予定だった「東京オリンピック」。
世界中から多くの人が日本を訪れ、「神戸ビーフ」の需要が高まることが期待されました。
そんな期待から子牛の価格は跳ね上がり、1頭当たり110万円から120万円と、それまでの2倍近い価格で購入しました。
谷口さんの牧場では、2年間の肥育期間に、一頭当たり、餌代や牛舎の電気代、人件費など、約45万の経費がかかります。つまり、120万円で購入し育てた場合、165万円以上で売らなければ利益は出ないのです。
【谷口牧場 谷口隆博代表】
「(2年前は)相場が良かったから、120万円の仕入れができた。今のように(1キロ当たり)1700円とか1800円で出荷するとなれば、1頭当たり(の収入は)70万から80万円、逆にお金をつけて出すような状況に今陥ってる。目から血がでているような帳面。滝つぼに飛び込んいるような相場ですね」
さらに、食肉市場での取引量が減っているため、本来であればすでに出荷しているはずの牛が、今も牛舎に残っています。
出荷時期が遅れると、収入がないまま経費がかさむ上、太りすぎた牛が病死するリスクも出てきます。
【谷口牧場 谷口隆博代表】
「死んでいたり、そんな事故もあるので、それだったら半値でも肉にしてほしいと思うが、問屋さんのことを考えると持っていけない、すごいジレンマ。非常に悔しい、悲しい事態。終わりが見えないのが一番つらいですね」
国も県も…業界全体でないと「立て直せない」
神戸ビーフや但馬牛を中心とした黒毛和牛を扱う精肉店と、レストラン、ホテルを経営する兵庫県芦屋市の竹園。
緊急事態宣言を受け、レストランは4月8日から休業していましたが、もともと予約が入っていたこともあり、5月から、県の要請に従った範囲で、感染対策をして営業を再開しました。
レストランとホテルの4月の売り上げは、去年と比べて8割ほど落ち込みました。
一方で、自粛要請による「巣ごもり消費」の影響からか、精肉店の売り上げは、1割から2割ほど伸びているといいます。
【竹園 福本吉宗社長】
「私たちができることは本当に微々たることかもしれませんけど、但馬牛(と神戸ビーフ)をちょっとでも多く売っていく。このままの状況がずっと続けば生産農家さんが廃業する可能性は十分あると思ってます。神戸ビーフの名前が下手したら消えていってしまう。幻の食材にならないためにも、国をあげて、県をあげて、但馬牛の元牛を守っていかないといけないのではないか」
新型コロナウイルスの感染拡大がいつ終息するのか、現状では、わかりません。
思うように出荷ができない今も、谷口牧場では子牛を仕入れ続けています。
【谷口牧場 谷口隆博代表】
「我々の仕事のもとを作ってくれてるのは繁殖農家の子牛なんで、自分が苦しくても神戸ビーフっていうもうワンチームでやっていかないと本当にもう建て直せない。『俺だけ(よければいい)』という人は今この業界にいないと思う」
繁殖農家と肥育農家、そして小売が、今、一丸となり「神戸ビーフ」というブランドを守るため戦っています。