医療崩壊を招く「院内感染」の恐怖や、いわれのない差別や偏見。
新型コロナウイルスとの戦いが長期戦の様相を呈する中、悩み、もがきながら立ち向かう、医療現場の最前線を取材しました。
地域医療を支えながら、感染患者の受け入れ
市内で最も大きな規模を誇る、宝塚市立病院。
年間22万人を超える患者を診療し、地域医療を支える大きな役割を担っています。
新型コロナウイルスに感染した疑いがある人の検査をする帰国者・接触者外来が設置されていて、これまでに200件を超えるPCR検査を実施しています。
隔離された場所で、防護服を着た医師が男性に声をかけていた。
【医師】
「まっすぐ向いてもらって、ちょっと上向いてもらって。はい、終わりました。これで検査は終わりになるんですけどね」
病院内では病院長が各スタッフの場所を回り、直接声をかけていく。
【病院長】
「コロナの軽症疑いの人、とります」
この病院は感染症指定医療機関ではありませんが、空気を外に漏らさない特別な個室で、新型コロナウイルスに感染した患者を受け入れています。
地域医療を支えながら、新型コロナウイルスに感染した患者を受け入れる。
この両立が崩壊しかねない危機がありました。
【宝塚市立病院・明石章則病院事業管理者】
「当院に勤務する30代の職員が新型コロナウイルスに感染いたしました。市民の皆様には多大なご迷惑とご心配をおかけいたしましたことをお詫びいたします」
宝塚市立病院では、4月9日、看護師の1人が家族から感染したことが明らかになりました。
院内感染は起きませんでしたが、18人の医療従事者が自宅待機を余儀なくされたのです。
【宝塚市立病院・野田洋子看護部長】
「20名ほどが(濃厚接触者として)自宅待機を強いられましたので、あれを経験した時こうやって患者さんの数と医療者の看られる数のバランスが崩れていって、こうやって医療崩壊が起こっていくんやなと実感したんですね。感染症の対応って人がいるんです。倍いるというか」
感染疑いの患者が…事前連絡なく、ロビーや外来に
医療崩壊を起こす”院内感染”。
その危険は、いつも隣り合わせです。
【看護師】
「横むいたりするよ」
急遽、個室に運び込まれた患者。
CT検査で肺に影が見つかりました。
【小林敦子 感染対策室長】
「先生おっしゃるように気管支肺炎っぽいですね。なかなか解熱しない?」
【医師】
「そうですね」
病院では、熱や咳などの症状があり感染が疑われる人は、事前に連絡をもらい、別の入り口に誘導して個室で対応しています。
しかし、さきほど運び込まれた患者は、家族に付き添われてロビーまで入ってきてしまったのです。
【看護師長】
「ここに来られて、けっこうぐったりしていたので、大体、そういう方は先に電話連絡を頂けるが、今回は電話連絡も何もなく、直接介護タクシーでこちらにいらっしゃったので」
本来であれば別の入り口に誘導する患者でしたが、命の危険が迫っていたためとった緊急の措置。
ただ、対応した多くの医療従事者にも影響が出る恐れがありました。
【小林 感染対策室長】
「患者さんが既に内科の外来に来られてしまってたんですよね?」
【看護師】
「そうですね」
【小林医師】
「こちらとしては動線を準備しているが何も言わずにそこにすっと座っている可能性もある。それが危険かなと思う。そこをどうするかですね…これからは」
看護師は「悔しい」と言って、泣いていた。
医療従事者を悩ますのは、感染のリスクだけではありません。
――Q:医療従事者に対する誹謗中傷、偏見などを感じたりすることは?
【野田 看護部長】
「すごい悔しいと言って泣いていたのが、保育所ですよね。保育所に子どもを預けられなくなったスタッフがいる。彼女はそのことを言っていた」
――Q:濃厚接触者ではないんですよね?
【野田 看護部長】
「ではないんですよ。だから悔しくて泣いていたんですけどね。その中のどういう状況だったかまでは詳しくわからないので、情報がつまびらかにされてないので、名前とか組織とかグループで判断されたり」
【宝塚市立病院の医師】
「変に警戒感を与えても向こうも気を使うかなというところがあり、最近はどこで(勤めている)とか、医療従事者だということは意識的に避けている」
「感染者を悪人にしてしまっているような、今、どこで、誰がうつるかわからない状況で、そういう悪人にしてしまっているところが、今の世の中の気になるところかなと思います」
わたしたちの町の医療を守るために、今、必要なこと。
それは、わたしたちが正しく恐れ、理解することです。