幻想的な水紋をよく見ると、めだかの影が泳いでいます。
大阪府吹田市にあるミュージアム「ニフレル」にできた、新しい展示スペース “およぎにふれる”。
ここには、魚を愛してやまない1人の男の試行錯誤がありました。
魚を…「影」で展示する新エリア
今から約1カ月半前、水族館スペースにスタッフが集まって、なにやら作業をしていました。
中心にいるのはニフレルの館長を務める
小畑洋(おばた・ひろし)さん。
5年前のオープン当初から、すべての展示の統括をしています。
【スタッフ】
「位置これぐらいですか?」
【小畑館長】
「位置ね、もうちょい寄って。そっと」
「ぼけるよ」
「ぼけてますね、さっきは照明に近づいたら…ちょっとマシ」
今回挑戦する魚の“影”の展示。
なぜ“影”なのでしょうか。
【小畑館長】
「彼らの持っている能力に気付いてもらうにはどういう方法があるかなっていうので、もちろん直接見るのも見れて、さらに影が出ることで、透明だったヒレが影に映って泳ぐときにどう動かしているかが気づいたりとかそういう新しい気付きが生まれてほしい」
「影だからこそ見える魚の姿がある」という小畑さん。
実はニフレルきっての魚オタクなんです。
「魚オタク」の名物館長
これまで300種類以上の魚を飼ってきた館長。
海洋学を専攻していた学生時代は、ほとんどを海で過ごしました。
ニフレルの館長になった今も、自ら北極海に潜って展示する魚をとってくるほど魚が大好き。
様々な動物を展示する「ニフレル」を統括している今、事務作業に日々追われる中、隙があれば外に出ていきます。
自分で直接お客さんに魚の面白さを伝えるのも小畑さんならでは。
テッポウウオの展示スペースには、白い棒が並んでいますが…
【小畑館長】
「乾燥したえびなんですけど。これ水中から上を狙うのって、水の屈折があって難しんですけど」
小畑館長が手に持っていたエサを棒につけた瞬間、水面から”ピュー”っと水が噴き出しました!
テッポウウオが見事にエサを「狙い撃ち」したのです。
目の前で繰り広げられた巧みな技に、お客さんも思わず声が…
【客】
「すごーい!」
【小畑館長】
「そうなんですよ。すごいでしょ!ははは」
ニフレルならではの体験に…感動するお客さん。小畑館長も笑顔です。
館長の発想を…スタッフが共に作り上げる
閉館後、「光との闘い」は、まだ続いていました。
魚の動きを影で表現する。
しかし照明の位置や光の強さが少し変わっただけで影はすぐ乱れてしまいます。
【小畑館長】
「もっとちっちゃいの試してみて」
「あ、でもきれいにでるねちょっと暗い」
大切にするのは、魚の見え方だけではありません。
さまざまな年代の人がおとずれるため、誰がどこの角度から見ても美しい展示が求められます。
【小畑館長】
「子供目線やと、ちょっとまぶしいです」
なかなか満足いかない小畑さん。
どこまでも理想を追求していく館長を、従業員はどう思っているのでしょうか。
【従業員】
「えーっと大変です…(笑)。小畑館長の発想は一番最初に聞いた時は『大丈夫?』というか、共有できないところがあって、とんでもない発想をされるので、それを実現するために割とアナログ的な試行錯誤をどーんってすすめなあかんっていうときは結構あります」
【従業員】
「一緒につくって行けているなという感じがする。自分で一生懸命考えたレイアウトがお客様にも響いたらいいな」
従業員の皆さんの努力にも支えられ…影の展示の準備は着々と進んでいきます。
小畑館長もようやく手ごたえを感じ始めました。
【小畑館長】
「あ、めっちゃええ感じ。(影が)出てきた」
「ええ感じ。」
「おー!」
試行錯誤を繰り返して、今、新しい展示スペースが完成しようとしています。
魚を愛するが故の探求心…アイデアは無限にある
26日のプレオープンにはさっそくファンの姿が…。
光の角度や強さを突き詰めた水の中で、生き物たちが、映し出されます。
――Q:影、いっぱい出ていた?
【小さな男の子】
「いま(影が)出てる!たのしい!」
【訪れた人は…】
「こんな形になるんだなっていうのが、魚見ただけじゃなわからないけど、影になることによってくっきりよりわかる感じがした」
これまでどの水族館も挑戦したことのなかった“影”の展示。
完成してもなお、館長の魚を愛するがゆえの探求心は止まることはありません。
【小畑館長】
「まずはみなさんすごいねって魚を見て下さっているんでホッとしました。自分が生き物に対して常々、おー面白いなと思っているところをピックアップできたらと思っているので。僕だけじゃなくて、みんながたくさんアイデアを持っているので、アイデアの数は無限にあると思っています」