色とりどりの衣装。迫力あるパフォーマンス。
披露しているのは、大阪市内の学校に通う中学生と高校生です。
大阪市住吉区にある建国中学校・高等学校は、日本の学校としての認可を得ている韓国系の民族学校です。
授業は日本の教科書を使って日本語で行われていて、その上で朝鮮半島の言葉や歴史なども教えています。
【建国高校の生徒】
「お父さんが韓国人でお母さんが日本人だから韓国系の学校に行こうってなって。おばちゃんとも会話できるように、ちゃんと」
1946年の設立当初は生徒のほとんどが在日コリアンでした。
今は在日コリアンに加え韓国からの留学生や、日本人と韓国人の間に生まれた子ども。
そして、半数以上が朝鮮半島にルーツを持たない日本国籍の生徒です。
ここで、韓国の伝統楽器や民族舞踊を究めているのが、伝統芸術部です。
部長で高校3年生の李 克彦(イ・クゴン)さんと高校1年生の高優愛(コ・ウエ)さんです。
日本で生まれ育った在日コリアンの2人にとって、伝統芸術部はただの「部活」以上の意味を持っています。
【高校1年生・高 優愛さん】
「日本人でもないし、韓国語をベラベラしゃべれるわけでもないじゃないですか。だから、何か自分の国のことをやってないと、本当に韓国人っていえるのかな?というのがあって。伝統芸術を習うことで、自分が在日韓国人なんだなということを改めて感じることもできるという感じです」
【高校3年生・部長 李 克彦さん】
「夢だって日本語で見るし、日本の方が住み慣れてるし。韓国人であるって言われてもピンとこないけど、伝統芸能をしているときに心が躍ったり、懐かしさじゃないけど、自分の中で血が騒ぐというんですかね、韓国の血が流れてんねんやなっていうのを感じます」
伝統芸術部に所属しているのは、朝鮮半島にルーツを持つ生徒だけではありません。
中学生と高校生合わせて18人の部員のうち5人が日本人の生徒です。
【中学3年生・池口彩香さん】
「公演を見てとても感動したので『私もこれをやり続けたいな』と思って入りました」
【高校1年生・細井彰佑さん】
「別に日本の人が韓国の文化を伝えても悪くないと思うので」
ウエさんは、自分のルーツについて考えることはあまりありません。
しかし、ふとしたときに、周りとの違いに気づかされるといいます。
【高 優愛さん】
「学校から一歩外に出たら環境が違うみたいな感じで。病院とかで、『高さん』って呼ばれるんですけど、色んな人から見られたり、『日韓関係今ちょっと悪いね』って言われたりして、そういう話をしたいわけじゃないのに」
父親の信志(シンジ)さん(60)は在日2世で、日本の学校に通っていました。韓国語は話せません。信志(シンジ)さんも、どこかで違和感を抱いて生きてきました。
【優愛さんの父・信志さん】
「あまり具体的なことは言いたくないですけど、それを胸に秘めながら生きていかないと、この日本で、うちの親たちがみんなそう思いながら一生懸命生きてきたんで。(娘の)公演の最初から、終わりまで、涙が止まらないです、うれしくて。自分のルーツというか、民族のことをね、一生懸命やってくれてるのが嬉しいです、自分の代わりにね」
子どもには、自分のルーツを大事にするだけではなく、自分と違う人も受け入れる人になってほしいと思っています。
1月下旬、伝統芸術部1年間の集大成となる定期公演に向けた合宿に入りました。
舞台の最後を飾る演目は「朝鮮通信使」です。
江戸時代、朝鮮から文化交流のため日本に派遣された外交使節団で、通信が意味する「信(よしみ)を通わす」という文字の通り、信頼を深めるために12回にわたって日本を訪れました。
【車 千代美コーチ】
「(最近)日本と韓国があまりよくない状態(関係)であったから、日本の方とも仲良くなるために、私たち韓国と日本の懸け橋になるためにやってますから、よろしくお願いします、という形で。子どもたちに現代の朝鮮通信使になってもらいたい」
本番が近づくにつれ、空気が張り詰めます。
【車 千代美コーチ】
「合ってるの、そこで?」
「克彦が近づきすぎや、秀安と克彦違うよ、立ってる場所、言ってあげな、上(の学年)が!」
「本当に客観的に見て仕上がりがほんまに10%もいってないねん」
「それでいいんやったらそのレベルでやりぃや、ほんま定期公演とかやめたらいいのになと思う」
「ご飯準備してオンマ(お母さん)たちが待ってんねん、あんたは行ったらあかんねん」
長年指導するコーチからは部長の克彦(クゴン)さんに厳しい言葉が飛びます。
【車 千代美コーチ】
「中1のときから一番手間かかってあんた、な、あんたが最後(の公演)やんか。なのにあなたが一人で空回りでさ、誰もついていってないやん」
現役最後の公演。
涙をこらえながら夕飯が用意された部屋に向かったそのとき…。
『克彦先輩、卒業おめでとうございます!』
コーチが克彦(クゴン)さんに厳しくしたのは、愛情に加えて、サプライズ送別会のためでもありました。
ルーツはそれぞれ違いますが、共に泣き、共に笑う若者たちの間に、国境はありません。
【李 克彦さん】
「言葉とか文化は違うけど同じ教室で勉強してるときに、同じ冗談言い合ったりして、国がどうとかそんなん本当になくて」
【藤田叶大さん】
「言葉通じなくても、優しいっていうのはわかるから。いけるやろって、ノリで」
【李 美志さん】
「名前だけちゃうねんな、みたいな感じで。人は「何人」というので変わるというわけではなくて、みんな一緒やなと思います」
【高 優愛さん】
「みんなで楽器を叩いたり、躍ったりして、顔がパって合った瞬間に笑い合えるというのがほんまに自分の中で一番幸せなこと。日本の人も韓国の人も在日の人も、一緒に一つになって楽しんでほしい」