「大阪唯一のコアラ」だった、天王寺動物園の「アーク」。
様々な事情から、繁殖のためイギリスの動物園に貸し出されることになり、別れの日には涙したファンも…。
あれから2か月。
イギリスに旅立ったコアラの「アーク」を訪ねると、意外な事実が明らかになりました。
風に揺られ…”大阪唯一のコアラ”だったアーク
【女の子】
「木がゆらゆらしてる、そこ!」
【お父さん】
「コアラさんも揺れてる見て、そこ、すごいね」
天王寺動物園の人気者だったオスのコアラ「アーク」。一日の大半を高い木の上で過ごしていました。
【西岡真 獣医師】
「いいでしょ、風に揺られて。こうやって風に揺られるコアラなんて見れるところないんでね」
人の声などに敏感なコアラは、屋外で展示する時間を短く制限することが一般的ですが、できるだけ自然に近い環境で育てたいと、飼育員たちは、ユーカリの大木が生えそろう林を作り上げました。
動物園の常識を覆す、世界に類を見ない場所でした。
しかし、動物園を管理する大阪市は、エサのユーカリ代が、年間約3200万円かかるほか、繁殖を続けることが難しいと判断し、コアラの飼育をあきらめ、アークは2019年10月、繁殖のため貸出依頼のあった、イギリスの動物園へと旅立っていきました。
あれから2カ月、動物園の飼育員たちを再び訪ねると…
【辻本秀樹飼育員】
「この場所に来たらやっぱり思い出しますし、家に帰ってもエサ食べてるのかなぁってふと思い出したりしますよね」
コアラは環境が変わると餌を食べなくなることがあり、アークのことが気になって仕方がないと言います。
そこで取材班は、地球の裏側にいるアークのもとへ。そこで意外な事実が明らかになりました。
イギリスでは…アークが『バーク』に?
2019年10月。繁殖のために天王寺動物園からイギリスへ渡ったコアラのアークは、今どんな暮らしをしているのか。
やってきたのは、ロンドンから車で西へ150キロのところにある『ロングリートサファリパーク』
車を降りて園内でアークを探します。
すると…ありました、コアラのエリアです。
【記者】
「いました、アークです。天王寺動物園と同じで木の高いところにいます」
アーク、穏やかな様子で、のんびりくつろいでいます。
【記者】
「アークは元気ですか?」
【飼育員】
「いや、僕らは“バーク”と呼んでいるよ。バークっていうのはオーストラリアでの名前さ」
ん⁉ バーク…??
なんとアークは、バークという名前になっていました。実は天王寺動物園に来る前に、故郷のオーストラリアで呼ばれていた名前なのです。
【飼育員】
「彼は、アークと呼んでも、バークと呼んでも返事をするよ」
気になるのは食事のこと。イギリスにやってきたばかりのころは、食欲がありませんでしたが…、今は御覧の通りもぐもぐ。15種類のユーカリが用意され、食欲旺盛です。
また、高い木の上にいるのが好きなアークのために、他のコアラの2倍、高さ4mの止まり木を設置。
さらに、気分に合わせて24時間自由に、屋内と屋外を行き来できるようにしました。
アーク改めバークはすでにイギリスの子供たちの人気者です。
【少年】
「かわいいよ」「食べたら寝てたよ」
【記者】
「彼は日本から来たんだよ」
【少女】
「遠くから来たのね」
繁殖のために海を渡ったバーク。気になるのは、そのお相手です。バークのお嫁さん候補は、性格の違う3頭。
大人しくて愛されキャラの「メイジー」
【飼育員】
「バイオレットはもうバークと会話してるんだ。バークに近づいて話をしていたんだ。もうバークは、バイオレットが好きかもしれないね」
「バイオレットは怒りっぽいから、けんかになってしまいそうだけど」
バークは13歳、人間でいうと40代後半に差し掛かりますが
【アーク(バーク)】
『ぐぉーぐぉーぐぉー』
この動物園についてすぐ、メスのにおいに反応し、求愛行動をとりました。
どのメスがお嫁さんになるのか。1月から2月ごろにメスが発情を迎える見込みで、目が離せません。
アークに…天王寺動物園からビデオレター
実は、取材班、天王寺動物園の飼育員たちからメッセージを預かっていました。
録画した映像をアークに見せてみました。
西岡さんが優しく微笑みながら語り掛けます。
【西岡さん】
「ほんとにね、よく頑張って耐えてくれました。ありがとね。さすがです。あなたは素敵です」
木の陰に隠れるようにしながらも…モニターを見つめている様子のアーク。…思い出しちゃったかな?
【辻本さん】
「子作りにも頑張って皆さんに笑顔と愛情をふりまいてください。また、行きますからね」
映像を見終わると木を登り、何かを探すようなそぶりを見せるバーク
【イギリスの飼育員】
「彼は誰の声かわかっているよ、うん間違いないね」
後日、アークの様子を、2ヵ月前まで、ずっとアークを我が子のように愛し、共に暮らしてきた天王寺動物園の2人にも見てもらいました。
【辻本英樹 飼育員】
「覚えてくれとんかなぁ、覚えてくれてるやろうね」
【西岡真 獣医師】
「ほんまはこう、こうしたい」
西岡さんの手が自然と、アークの背中を優しくなでる動きに。
【辻本英樹 飼育員】
「ほんまはな、せやな」
【西岡真 獣医師】
「なんか、手で触れられたら…あれやな、画面を通して」
イギリスでの元気な様子に、お二人も安心したようです。
【辻本英樹 飼育員】
「アークがイギリスで(繁殖に)成功してくれたら本当にそれでよかったなって、十分思えるので。そういった意味でのバトンをイギリスに渡せたわけですから、あとはバーチン(アーク)頑張って、その役目を果たしてもらいたいなと、バーチン(アーク)頑張ってね」
アークの子供が、ロングリートの木を登る日はそう遠くないのかもしれません。