応援したい自治体に寄付をすると、住民税などが控除される「ふるさと納税」。
高額な返礼品が問題になりましたが、いま、ふるさと納税の新しい仕組みが、注目を集めているんです!
【薄田ジュリア 12月2日午後7時頃】
「こちらご覧ください。沖縄のシンボル「首里城」再建支援プロジェクトのHPなんですが…見てください!プロジェクトが立ち上がって約1ヵ月なんですが、集まった寄付金がなんと!6億3000万円を超えました」
今年10月に起きた、沖縄・首里城の大規模火災。
那覇市が、ふるさと納税の仕組みを活用して首里城再建に特化した寄付金を募ったところ、全国の約4万人から、6億3000万円が集まりました。
こうした寄付の募り方は、「ガバメントクラウドファンディング」と呼ばれ、様々な形で広がりを見せているんです!
【利用者】
「変わらないでほしい風景を、守っていくために使ってもらえたら」
果たして、どんな魅力があるのでしょうか?
「ふるさと納税」の新常識に迫ります!
神戸市が12月2日に開いた記者会見。ふるさと納税について新たな取り組み始めることを発表しました。
そこになぜか、高校生とロボットが…
【灘高校・武藤煕麟さんの記者会見】
「リモコンで操作するんじゃなくて、こういう時はこうするというプログラミングを組んで、ロボットが自分で判断させるようにしています」
何やら、寄付を集めて、神戸市内の小中学生のために無料の「プログラミング教室」を開きたいというのです。それが、ふるさと納税とどう関係するのでしょうか?
寄付を呼び掛けたのは、神戸市にある灘高校2年で、アマチュア無線研究部に所属する武藤煕麟(ひかる)さん。コンピュータのプログラミングで、様々な動きをするロボットをつくっています。
今年7月に行われた世界大会で、優勝するほどの頭脳の持ち主なんです。
【武藤煕麟さん(17)】
「世界大会に行って思ったのが、周りの海外のチームが非常に強いということです。そこで抱いた危機感は、このままじゃ日本の若者は世界で通用しないのではないかということです」
来年度から小学校で、プログラミング教育が必修となります。武藤さんは、小学校の先生をサポートするため自分たちが学んだ「プログラミング」の知識を地元の小学生に広めたいと考えていました。
そこで、神戸市長に直談判。その後、神戸市が考えたのが、ふるさと納税を活用した「ガバメントクラウドファンディング」でした。
ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付をして、様々な返礼品をもらい、その上、住民税などが控除される仕組みです。寄付金の使い道の詳細はわかりません。
一方、ガバメントクラウドファンディングでは、例えば、「被災した農家の支援」のように、自治体の特定のプロジェクトに寄付をします。使い道がより明確で、返礼品は大抵、そのプロジェクトに関連したものになります。
住民ひとりひとりの要望に対して、自治体が予算を確保することは難しいといいますが、ふるさと納税で寄付を募れば、一気に資金を集めることができると考えたのです。
【神戸市新産業部・吉永隆之さん】
「今回たまたま高校生に出会って。皆さんに共感を得やすい、私も自分たちも受けてみたいと思えるようなプロジェクトが立ち上がったので、これを一個のプロジェクトとして、寄付をお願いしたほうが、皆さんにも寄付していただけやすいんじゃないか」
寄付金の目標額は500万円。返礼品は、プログラミング教室に参加できる権利などです。
学校が休みの日に自ら無償で教えたいという生徒たち。
【灘中・灘高 アマチュア無線研究部の皆さん】
「ぜひ応援をよろしくお願いします!」
全国の自治体のふるさと納税を紹介するインターネットサイト「ふるさとチョイス」によると、ガバメントクラウドファンディングは2013年から始まり、その数は年々増加。
去年は226のプロジェクトと、おととしより倍増しました。この6年間の寄付総額は60億円にのぼります。
――Q:こうやって増えていく背景には何が考えられる?
【ふるさとチョイス運営・トラストバンク川村憲一取締役】
「どうしてもモノ(特産品)がない、お礼の品がない自治体もある。そういったときに、コト(事業)ですとか課題から共感を得てというやり方というのが、いろいろと増えていく中で自治体さんもやりやすくなってるというので増えている」
豪華な返礼品を規制する新たな制度が今年6月から始まったことで、自治体が返礼品を見直したことも、増加の理由とみられています。
一方で、寄付をする人にとっては、どんな魅力があるのでしょうか?
訪ねたのは、大阪府内に住む森さん夫妻。今年初めて、ガバメントクラウドファンディングで寄付をしました。
妻・敏子さんの生まれ故郷、島根県奥出雲町の棚田を残すプロジェクトに共感し、10万円を寄付したといいます。
【森敏子さん】
「育った田舎のことは大好きですし、変わらないでほしい(棚田の)風景を守っていくために使ってもらえたら」
これまでも、ふるさと納税で 奥出雲町に寄付をしてきた夫の貴浩さん。寄付金が、何に使われるか考えたこともありませんでした。今年もお得な返礼品を探す中で、たまたま棚田のプロジェクトが目にとまりました。
【森貴浩さん】
「いいところなので、みんなに少しでも知ってもらいたいし、地方の活性化で興味あったので何かの力になれればなと思った」
――Q:返礼品目的から切り替えた理由は?
「お金を預ける目的が明確化しているので、より身近になるんじゃないかと」
返礼品でもらったのは、地元の米で作った地酒。そして何よりも、故郷の棚田を見に行くのが楽しみだといいます。
こうして集まった寄付金は、どのように使われたのでしょうか。プロジェクトを終えた自治体へと向かいました。
【薄田ジュリアリポ】
「滋賀県日野町にある近江鉄道日野駅にやってきました。ご覧ください。こちらは築100年以上の木造建築のレトロな駅舎です。地域住民や鉄道ファンからも大変愛されている場所なんですが、その古さゆえにある問題があったんです」
その趣から、映画のロケ地としても使われてきた日野駅。老朽化が進んでいましたが、近江鉄道は財政的に厳しく、住民からの要望を受けた日野町が3年前からガバメントクラウドファンディングを実施。すると、全国から400万円もの寄付金が集まったのです。
100年後も残る駅舎を目指し、修復工事を行った結果、見た目がほとんど変わらない、耐震性のある立派な駅舎に再生しました。
【日野町企画振興課・嶋村和典さん】
「柱を見ていただいたらわかりますが、ここまでは古い柱。ここからは新しくなっておりまして」
――Q:丸々変えるんじゃなくて、こうして残して使うんですね。
「できるだけ古いものを残すと…」
「こちらのほうを見ていただきますと、駅の看板ですね。これも当時のまま」
――Q:すごく趣がありますね。味があってすごくいい。
さらに、古い駅舎にはなかった、地域住民たちの憩いの場ができました。
【日野高校3年生】
「こんにちは~♪」
駅の再生とともに作られたカフェ。毎日オープンしていますが、月に一回、地元の高校生が授業の一環で運営を任されています。
【日野高校3年生・雁瀬真奈さん】
「結構楽しいんですよ。なんか普段学校にいることもあって、地域の方と関わることがあまりないので…」
【駅員】
「若い人たちがいることで、若い人たちも来てくれるのですごく活気が出ていいと思います」
【地元住民】
「寄付によって皆さんの思いで駅舎ができてるというのはやはり誇れるもののひとつだと思うので、よいことだなと」
日野駅の再生が、地域の活性化に、つながっていました。ちなみに、寄付の返礼品は、駅の古木をフレームに使った切り絵アートや、鉄道レールで作った文鎮など。さらにうれしいことに、10万円以上を寄付した人の名前が入った刻銘板が、駅の入り口付近に飾られるということです。
寄付金の使い道が明確な、ガバメントクラウドファンディング。
寄付する側の『共感』と、される側の『感謝の気持ち』という、ふるさと納税のあるべき姿がそこにありました。