突然発表された英語民間試験の実施延期
萩生田文科相の「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」という発言をきっかけに注目されるようになった英語の民間試験。
文科省は2020年度から始まる大学入試共通テストで「英検」や「GTEC」など7種類の英語試験を活用する予定でしたが、2024年度までの延期を決めました。
そもそもは中学高校で6年も英語を勉強しても、上手く話せるようにならない日本の英語教育に問題があるとして始まった改革。文科省では、入試改革の目玉として、英語試験の見直しに着手しました。これまでやってきた「読む・聞く」に「話す・書く」を加えた4技能で評価することに決めました。
特に、「話す」試験については、一度に数十万人が受験し採点するのが難しいため、既にある民間試験を導入することになりました。
文科省に欠けていた「地方の視点」
英語の民間試験のなかには、受験できる都市がかなり限られているものもあります。弊社の夕方のニュース番組『報道ランナー』のスタッフ調べでは、ある試験は四国で実施される会場がないものもありました。
民間試験は受験生が高校3年の4~12月に受けた2回までの成績が大学側に提供されることになります。こうした試験は、出題形式に慣れることで得点がアップすることがあります。例えば、都会の受験生は練習のために、試験料さえ払えば身近な会場で、何度でも受験できます。
一方で地方の受験生は、試験の度に多額の交通費、離島の場合は宿泊費も負担しなければなりません。番組で取材した京都府福知山市の学習塾で学ぶ生徒は「田舎なので都会に出ないといけない」「不公平感がある」と話し、塾のトップは「遠方であればあるほど試験はやりにくい」「外に出ていくことに対するストレスはだいぶある」と懸念していました。
これまで、全国高等学校校長会はこうした「地域格差」を指摘し延期を求めていましたが、文科省は聞く耳を持ちませんでした。大学の入試制度は「公平・公正」が大原則です。民間試験の導入は、ただでさえ都市部と地方の格差がある中で、入試においても新たな「地域格差」を生み出す恐れがありました。
問われる文科省の責任
今回の問題で問われるのは、文科省による制度設計のずさんさです。民間試験の導入は約4年前に決まっていたにも関わらず、大学側の参加表明は19年10月までずれ込み、試験の会場の手当ても実施団体任せと指導力不足が指摘されていました。
十分な準備期間があったにもかかわらず、今になって問題点が次々と露呈し、突然発表された延期。一番の被害者は、すでに準備や対策を始めていた今の高校2年生です。これ以上受験生が振り回されることがないよう、文科省にはできるだけ早く次の試験の概要を決め公表することが、これまで迷惑をかけた受験生へのせめてもの償いになるのではないでしょうか。
※カンテレ「報道ランナー」 神崎博 報道デスク