『日本の町おこし』にも!? “ワイン“と“ランニング“を楽しめる「メドックマラソン」に参加してみた【フランス発!記者リポート】 2019年11月02日
人々を魅了する「ワインマラソン」
人はなぜ走るのか―数年前、ランニングブームにあわせてこんなテーマで取材をした。ある大学教授の方の答えとして、「人間の体は走るためにできている」と教わった。確かにどんなにゆっくりでも走る姿勢をとると、お尻から、太もも、背中と全身の筋肉を使っている感覚がある。やはり人間の体は走るためにできているのだろう。
日本に負けず、フランスもランニングブームだ。パリ市内の公園は陸上競技場かと思うほど多くのランナーが走っている。そんなフランスで知人に誘われ、ユニークなマラソンに出場することになった。
9月に開催された「メドックマラソン」は、フランス南部のワインの産地・ボルドー地方、その中でも有名な銘柄が並ぶメドック地区で開催され、フルマラソン=42.195kmを走りながらワインを楽しむことができる。1984年にニューヨークマラソンに参加した地元の人が同じようなイベントを開催したいとして企画し始まったという。
大会をスムーズに運営できるよう、参加者は8500人に制限され、コースはこのメドック地区のブドウ畑とワイン醸造所・シャトーをめぐる形で設定されている。後半には、補給所で生牡蠣やステーキといった特別なメニューがふるまわれるという特典もある。「お酒を飲みながら走る」ということから健康にも配慮し、300人の医療スタッフがコース中の10ヵ所とゴール後の5つのテントで、参加者の健康状態をケアする。
参加者は仮装することになっていて、毎年そのテーマが変わる。ことしは「スーパーヒーロー」がテーマで、会場にはスーパーマンやバットマンといったアメリカのヒーローのほか、スーパーマリオやドラゴンボールのキャラクターなど、日本のヒーロー姿で臨む参加者がたくさんいた。
地元の人たちの「おもてなし」に感動
実際に参加して走ってみると、ボランティアとしてかかわる地元の人たちの「おもてなし」がとても手厚かった。
まず、ワインの醸造所であるシャトーでは、自慢のワインを惜しみなく提供してくれる。それに加えて、クロワッサンなどの軽食や果物もあり、フルマラソンを走るために必要な補給ができる。シャトー以外に設けられている沿道の補給場所では、子供たちも参加して、水や食べ物を配り「アレ!アレ!」(フランス語で「行け!行け!」「頑張れ!頑張れ!」)と声をかけてくれた。近くに住む人がコースに出てきて、ゼッケンに書かれた名前を呼んで励ましてくれもした。
私は17キロ地点で両脚のふくらはぎがつり始め、半分を過ぎたところで、歩くことも多くなってしまったが、声をかけてくれる街の人たちや参加者たちのおかげで何とかゴールまでたどり着けた。初めてのフルマラソンだったが、疲れ以上に充実感と楽しさを感じることができた。
日本でも「お酒×マラソン」の実現は?
42.195kmという長距離をただ走るだけでなく、普段はあまり見ることのないワイン用のブドウ畑の眺めを楽しみ、さまざまなワインを味わうというこのマラソンを経験して、私は「これは日本でも同じようなイベントができるのではないか」と考えるようになった。
お酒の原料になる農産物の名産地―と考えたときに私の頭に浮かんだのは、日本酒の原料となる山田錦を栽培する兵庫県南部の東播磨地区・三木市や加東市のことだ。日本酒の原材料として非常に高い評価を得ている山田錦という酒米のうち、この地域で栽培されるものは特に品質が良いとされている。その周辺をコースとし、この地域で栽培された山田錦を使った日本酒をふるまうというマラソンができないかと思うのだ。
実は私はこの地域、三木市吉川町の出身で、家業は山田錦農家である。私も含め農家の後継者が少なく、また日本酒も日本国内での消費量が減っていく中、町おこし、日本酒業界振興に役に立つと思うのだが、いかがだろうか。メドックマラソンは、世界中から大勢の参加者が訪れているので、うまくいけば世界にも発信できるかもしれない。
飲み過ぎるほど、飲めない?
参加前、私には一つだけ心配があった。それは健康問題だ。いくら300人体制の医療チームがいると言っても、飲みすぎて体調まで崩してしまうのではないかと思っていたのだ。実際、終盤になるとコースを外れて嘔吐する参加者の姿も見られた。しかし、私自身は疲れがたまってくると、飲み過ぎてはいけないと自制が働いた。スタートしたときは最悪棄権でもいいかと思っていたが、周囲の声援に応えたいという気持ちが強くなった。
最後、ゴール直前で全く進めなくなりそうになった時に、手を引っ張ってともにゴールしてくれた参加者のフランス人男性は「フランス人は連帯という言葉を大切にするんだ。こうして一緒にゴールすること、世界中の人がこのマラソンに参加したことが連帯なんだ」と教えてくれた。このマラソンに参加して、適度なお酒の楽しみ方とフランス人の考え方の一端を学んだような気がする。