8月に岡山市内で行われた「全国消防救助技術大会」。
全国の救助隊の中から予選を突破した約1000人の隊員が人命救助のために
磨き上げた訓練技術を披露する大会で、今年48回目を迎える、いわば救助隊の甲子園。
【岡山市消防局・山神清志さん(大会運営担当者)】
「全国消防救助技術大会は、市民に安心安全を与えるため、消防救助技術を練磨して、
現場にも活かされると考えられていると思います」
様々な種目が行われる中、一番の花形と言われているのが「障害突破」です。
実際の災害現場を想定した5つの障害を補助一人を含む5人の隊員が協力して突破していきます。
まずは高さ3mの塀を乗り越え、次に7mのハシゴを登ります。
そして7mの長さのロープを渡り、一気に降下したら、重さ10キロの呼吸器や
ロープなどの装備を身に着け、煙道(えんどう)と呼ばれる長さ25mのトンネルを
素早くくぐり抜けます。チームワークと速さが求められる過酷な種目です。
そんな障害突破の全国大会に今回初めて出場する救助隊員がいます。
京都市・上京消防署に勤務する浅井良介隊員21歳。
【浅井さん】
「そういう大会で成績を残すことによってこれからの消防人生の糧になるかなと思ってます」
京都市消防局は、前回大会で1位を獲得。今年4月、新チームに生まれ変わることになり、
浅井さんはその一人に選ばれ、順調に地区予選を突破。2連覇の期待を託されているのです。
大会11日前。メンバー5人は京都市消防局の訓練施設に集まりました。
彼らは普段、2つの消防署に分かれて勤務しているので、合同で訓練する時間も限られています。
しかも出動命令が出たら訓練はすぐに中止となります。
この日は、高さと長さが7mのロープを渡る「ロープ渡過」の訓練。
浅井さん、大会では2番手でロープを渡ります。しかし、なかなかスムーズにわたることができません。
前回大会のキャプテンで、現在、コーチを務める内田さんも心配げな様子。
【上京消防署 内田さん】
「やっぱり課題でいう上の渡りですね、あそこが遅いから焦ってミスにつながると。
プレッシャーによって、そういう精神状態になってると思うんで。精神状態を安定させることが
非常に大事なんですけどね、この種目は」
全国大会で1位を狙うには90秒以内でゴールするのが、目安となるのですが・・・。
【内田さん】
「95秒83」「どうなんや浅井、やってて」
【浅井さん】
「はい」
【内田さん】
「気持ちが気負い過ぎてんのか、どうなんか知らんけどちょっと落ち着きのない通し(訓練)やったな。
それでは勝てんぞ」
【浅井さん】
「全然あかんかったですね、自分としても全然集中しきれていなかったところで、心の弱い部分が全部出てしまってるんで」
この日、浅井さんの姿は整骨院にありました。
実は2ヵ月前、訓練中に右肩の肉離れを起こしてしまい、
まだ完治していないことが、訓練での焦りの原因のひとつだったのです。
【浅井さん】
「病院行ったら3週間くらい動かすな、みたいなこと言われて、
正直ちょっと微妙な感じはしたんですけど全国大会っていうプレッシャーがあって、
そのプレッシャーがさらに重みとなって、この1ヵ月は色々としんどかったですね」
小さい頃にみた消防士の姿に憧れ、高校卒業後に京都市消防局へ入った浅井さん。
今回、障害突破チームへの参加も自ら立候補。
そこには消防士としての自分に対する、あるハードルを課していたからです。
【浅井さん】
「障害突破って救助訓練は、やっぱり身体的にはレベルアップするんですけど、
やはり精神面の方でもかなりレベルアップしていくんかなと。
やはりそれが緊迫した現場の中でも落ち着いて確実な作業ができんのかなと」
大会3日前。チームは最終訓練日を迎えました。しかし・・・
【浅井さん】
「出動です」
出動命令が出て、訓練はストップ。不安を残したまま本番を迎えることに・・・。
そして迎えた大会当日。いよいよ障害突破が始まりました。今回参加するのは22組。
浅井さんたち京都市消防局は6組目のスタートです。ここまで5組が終わって、トップのタイムは93秒。
気持ちを整え、スタートの瞬間を待ちます。
本番スタート!!
課題だったロープ渡過は順調にクリア。最後のトンネルです。
しかし、2番目の浅井さんがなかなか出てきません。
結果は109秒。トンネル内で連携ミスがあり、タイムに影響しました。
22組中16位…。連覇とはなりませんでした。
【浅井さん】
「僕が全然できてないので何も言えないですけども、自分も含め、まだまだやったなぁというのは
感じましたね。課題が見つかる大会やったと思うんで、また来年、この屈辱を晴らしたいなと思います」