7月、神戸市中心部で3カ所目となる高度な救命救急センターが開設され、カメラが最初の一日を追いました。
なぜ、一つの市に3ヵ所も必要なのか。
そこにはいずれ来る「救急」の危機と、それに立ち向かう医師たちの奮闘がありました。
交通事故、産後の急変…次々と患者が
【救命救急センタースタッフ】
「救急車10分後入りますー。」
「傷病者2人、軽乗用車で後方からの追突。」
ぐったりとした様子で運び込まれた女性。
医師がすぐに治療に当たります。
ここは、7月開設されたばかりの神戸大学医学部附属病院の救命救急センターです。
カメラが入った初日から、患者が相次ぎました。
統括する小谷穣治センター長。
15年以上、救急医療の現場で活躍してきたエキスパートです。
救命救急センターの設立に、準備段階から携わってきました。
【小谷穣治センター長】
「大学病院にはすべての診療科の専門家がいますし、どんな疾患にも対応できる、そういう強みがあるんですよね。」
開設初日、その「強み」が早速生かされました。
【医師】
「15分後ですね。もう出発したということですね。」
ドクターヘリで患者が運び込まれました。
【救命救急センタースタッフ】
「いち・にの・さん!」
赤ちゃんを産んだ後、出血が止まらなくなったという女性。
運び込まれてきた時にはすでに、産婦人科の医師が駆け付けていました。
症状を確認し産婦人科医は緊急手術が必要と判断。
カテーテルと呼ばれる細い管を脚の付け根から挿入して行う難しい手術をすぐに実施することになりました。
【対応した安藤医師】
「カテーテル治療って特殊なものなので、向こう(の病院)で対応できないのでこちらに来ることになりました。大学病院でできない治療はほとんどないと思いますので。」
手術は無事に成功。
多くの専門医がいる大学病院だからこそできる、救急医療です。
なぜ市内に集中?神戸市に3つ目の救命救急
神戸市にはこれまで、神戸市立中央市民病院と災害医療センターという、2つの救命救急センターがありました。
そこに神戸大学が加わり、市内の半径3キロ以内に3つの救命救急センターが集中することに。
いったい、なぜ新たに作る必要があったのでしょうか。
【小谷穣治センター長】
「このままずっと今の(2つの)体制で行くと、すべての救急患者に対応できなくなるのは目に見えてるので。」
救急搬送される患者の数は神戸市で過去10年増加していて、去年は7万4000人を超え、兵庫県全体でも増え続けています。
このままでいくと、重篤な患者に対応する病床の数が、2025年には神戸市などを除いて、約900も足りなくなると試算されているのです。
この結果、対応できない患者が神戸市に運ばれるケースが増えることになるため、新たな救命救急センターの設置は急務でした。
専門医を含めた「新チーム」で命を守る
その受け手となった神戸大学病院にはこれまで救急部という部署がありましたが、担当の医師は5人ほど。新たな救急患者を受け入れられないことも多くありました。
そこで、小谷センター長は、院内の外科系の医師を出向という形で救急部に配属。
さらに、内科系の複雑な病気にも対応するため、救急部と総合内科を統合しました。
その結果、救命救急チームは約30人の体制になったのです。
【小谷穣治センター長】
「やっぱり一緒のチームとして動き出すのと、(患者が来るたびに)お願いして来てもらうのとでは全然違いますよ。今は出向組が我々のチームの一員として寝食を共にして…。隣の人だったんですけど、今日から家族になったみたいな」
社会の高齢化に伴い、運び込まれる患者の多くは高齢者が占めています。
他の病院で急変し運び込まれた70代の女性。
呼吸困難を訴えています。
持病のあることが多い高齢者の救急患者は、症状が複雑な場合が多く、運び込まれた先では専門的な知識が必要になるのです。
「息吸って、吐いてー」
総合内科のメンバーも加わり、症状の診断に当たります。
女性は精密検査を受けることになりました。
一刻を争うなか、慎重な判断が素早く下されていきます。
専門医を含めた「チーム」が命を守る体制に、患者からも安心の声が。
Q:大学病院に救命救急センターができたら安心?
【患者】
「そりゃそうですね。専門の先生がたくさんおられるわけですし、救急からすぐにまた専門の先生に繋いでもらえたりするでしょうから、安心です」
関わる医師たちも、この環境に大きな利点を感じていました。
【救命救急センター・森田医師】
「自分の知らない知識とか手技とかを知ってるので、すごく勉強になります。その道のプロの先生が教えてくれるので」
【泌尿器科から出向・坪谷医師】
「自分の(科の)入院患者さんでも病棟とかで急変した場合に、一番必要になるのが初期対応で、救急の知識というのが生きてくる」
大学病院だからできる治療、後進の育成も
日ごろからできるだけ現場の医師たちと一緒にお昼ご飯を食べるようにしている小谷センター長。救命医療で大事なのはチームワークだと考えるからです。
【研修医・橋本医師】
「たぶんめちゃくちゃ大物というかお偉い方なのに、僕みたいな研修医でも距離が非常に近い先生で、研修医の質問にもわかりやすくかみ砕いて説明してくださるので、距離の近いやさしい先生です。」
患者の受け入れが相次いだ開設初日。
救命救急センターの看板を掲げることができたのは午後でした。
【小谷穣治センター長】
「長年の計画がようやく実ったということで感無量です。(今後は)大学病院でしか診れない複雑な疾患とか、難しい症例は積極的に受け入れていかないといけないと思っています。あとは教育機関なので、次世代の救急や総合診断を担う人たちをしっかり育てるというのも我々の責務だと思っています。頑張ります」
間近に迫りつつある救急医療の危機的な状況。
医療のプロたちが、立ち向かいます。