「国のハンセン病隔離政策で患者の家族も差別を受けた」として家族が国を訴えた裁判。
熊本地裁は国の責任を認めました。
尼崎の原告が裁判を通して伝えたかった本当の思いとは?
黄光男(ファン グァンナム)さん(63)。
この3年、ハンセン病家族訴訟、原告団副団長として尼崎から何度も熊本に来ました。
【黄さん】
「家族それぞれの思い、無念をはらせるのではないかと思います」
ハンセン病患者の家族が、国の政策で差別を受けたとして、国に賠償を求めた裁判。原告は561人。数名以外は、法廷でも匿名だという特殊な裁判でした。
【ハンセン病家族訴訟弁護団共同代表 徳田靖之弁護士】
「原告の皆さん、お父さんやお母さんを恨んだ日々を思い出しながら、裁判に参加するにあたって、自分が立つことが家族にどんな迷惑をかけるかもしれないと悩んだこと、いろんなことを思い出しながら、今日の歴史的な一日を私たちと共にしてください」
ハンセン病問題。
国は長年、ハンセン病患者を強制隔離し、患者を見つけ出すために、「恐ろしい伝染病」と誤解させ、身近な人に通報させました。
2001年、その政策は科学的根拠のないものだったと明らかになり、国は、元患者に謝罪、補償しました。
しかし、その政策は「家族の人生」にも深刻な被害を及ぼしていたのです。
就職や結婚などで差別され、肉親と引き離され愛情を受けられないなどこの裁判を通じて、被害が明らかになってきたのです。
【判決前夜の集会・原告の発言】
「小さいころから周りの子どもたちも誰も私とは遊んではくれませんでした」
【判決前夜の集会・黄さん発言】
「自分は今までずっと親の事を隠し続けてきて喋らないまま死のうと思った。それをこんなに公然と法廷の場で喋り切った!その自分の勇気、その勇気はその原告一人一人の心の豊かさにつながったのではないかと思うんです」
そして判決当日―。
『勝訴です!』
判決の内容は、画期的なものでした。
国の政策で、「患者の家族にも被害があった」として裁判所が国の責任を認めたのです。
「家族が差別を受ける地位に置かれ、家族関係の形成を妨げられる損害があった」として、原告541人に賠償金(33~143万)の支払いを命じました。(20人は棄却)
家族が受けた差別は、「人生被害」と表現されました。
【ハンセン病家族訴訟弁護団共同代表 八尋光秀弁護士】
「私たちの社会に作ってきた偏見差別の構造体、それは作った国が法的責任を持って除去しなければならないと明確に示した判決になりました」
6月30日、黄さんは、大阪でハンセン病回復者の集まりに参加しました。
【黄さん】
「かっこよくしか聞こえないけど、金額ちゃうでと。大事なのは家族の被害を認めてくれた」
今回の判決の意味を、黄さんはこう振り返ります。
【黄さん】
「560人の原告が立ち上がったけど、原告になれなかった家族の人が自分たちの人生を見直したり、当事者との絆を取り戻したり、家族の人たちの人生、喜びの人生に変えていけるような、そんな風になったら、もっと値打ちがあがると思う、この判決のね」
問題解決のバトンは、国会や教育の現場などに託されました。
しかし、一番、家族の人たちが求めているのは、身近な人がこの問題を分かってくれることです。