大阪中央区の大丸心斎橋劇場。
【男装した薄田アナ】
「ジャジャーン!どうでしょうか。このメイクと衣装。今回はですね。OSK日本歌劇団を取材させていただけるということで、特別に男役の衣装をお借りしました」
OSK日本歌劇団。2019年に創立97年目を迎え、5月に亡くなった大女優・京マチ子さんらを輩出した女性だけの歌劇団です。
かつては「歌の宝塚、ダンスのOSK」と並び称され、人気を博していましたが、親会社の近鉄が支援を打ち切り、2003年に解散。その後、有志によって復活したものの、劇団員は激減、人気も低迷していました。
しかし、今、OSKの売り上げは年々増加!6年前と比べ3割増という、右肩上がりの復活劇を遂げているんです!
昨年度の売り上げは3億6000万円!
その背景にあったのは、6年前にOSKとタッグを組んだ大阪にある“IT企業”の存在でした。
【ネクストウェア・豊田崇克代表取締役】
「古いものに我々がいくと、非常にマッチする。今までになかったデータ、劇場の空き、座席数、そういったものが、我々が入ることで管理されて、非常にいい形で収益力も、生産性も上がる」
「老舗歌劇団」と「IT企業」の異業種コラボによる復活劇。その裏側には、一体何があったのでしょうか!?
【薄田アナ】
「大阪松竹座にきています。ちょうど今、こちらでは劇団の皆さんが、来月行われる舞台の稽古の真っ最中なんです」
と、そこへ…
【薄田アナ】
「けいこの最中なんですけど、壁に何か紙が貼られていますね」
【スタッフ】
「こちらに南座公演のチケット販売状況の用紙を張らせていただきましたのでご確認ください」
Q:これは何を見てる?
【劇団員・登堂結斗さん】
「一人一人が(チケットを)どれくらい売っているかという表がこうやって週に1回出されるので…それを見ています」
Q:週に一回みんながどれだけ売ったかの数字が張り出される?
「シビア…笑」
自分がファンなどに向けて何枚売ったかが一目でわかる恐怖の成績表。劇団員は全員演技だけでなく、チケット販売にも自ら汗をかかないといけないのです。
多い人で数百枚売っている凄腕劇団員もいる中…
【劇団員・登堂結斗さん】
「同期であったりとか近い学年はどうしても気になってしまうかな」
Q:ちょっとくやしい?
「はい。くやしい…」
OSKの場合、劇団員の給料は『固定給』と『出演料』に加え、最大10%の『チケット販売手数料』が入ります。
たとえば、1枚8,500円のチケットを販売した場合、850円が手数料で入るわけです。
舞台を降りても、地道な営業…
劇団員も必死のパッチで営業活動しないと食べていけないのです。
【劇団員・椿りょうさん】
「いつもお世話になっております。いつもポスターをまた貼っていただきたいんですけれども…。お時間ございましたら、皆さんで見に来ていただければ…」
OSKは公演が近くなると、劇団員が持ち回りで大阪市内のお店40~50店舗を回り、チラシ配りなどを行って、1枚でも多くチケットを買ってもらえるよう働きかけます。
こうしてお客を獲得しようとする一方でファンに対するお礼も欠かしません。
【劇団員・椿りょうさん】
「やっぱりこういうこと(手紙を書くこと)を欠かさずに、つながりっていうのを大切にしてやっていくと、お客様ももう一回見に行きたいなっていうのにもつながる。今後の公演にもつながるんだろうなと」
劇団員自ら地道な営業を続ける中、裏方の人たちは何をしているのかというと・・・
こちらの部署では、各団員のチケット販売実績をもとに、今後、どれくらいの規模の劇場に、どの団員が、何人客を呼べるかなどの分析を行っています。この分析を基に、劇場の大きさによって、適材の団員を配置することで、無駄なく公演回数を増やすことに成功しました。
実際、7月に京都南座で行う舞台では午前、午後の部に加え、夜には団員を入れ替えて、別の公演が行われます。
【ネクストウェア・豊田崇克代表取締役】
「劇団員でも、トップスターとミドルクラス、2番手3番手、これを組み合わせることで劇場の客席数とマッチングさせる。これで、これだけ埋まる、というのを読まないとできないですよ」
こういった効率的な団員配置により、2014年度は約6万席だった客席数から、2019年度は約9万3000席を見込んでいるんです。
さらに舞台公演としては異例の作戦で、ファン、そして劇団員も増やしてきました。
Q、オカネは払ったの?
【中学2年生の女の子二人組】
「払っていません」
【高校一年生の男の子】
「払ってないです。オカネ払ってないのにみせていただいてるというのが申し訳ない感じ」
高校生以下の観客を無料で舞台に招待するという戦略です。狙いは、若いファン層の拡大と新たな劇団員の発掘です。
【東京から観劇に来た高校2年生】
「OSKを受験しようと考えています。楽しいだろーなって。舞台の上だと自分じゃないいろんな人間になれる。すごい魅力的」
【高校3年生】
「いつかOSKの舞台に出れたらなって思っています。娘役がいいです。ドレスとかかわいい衣装が好きだから」
実は、劇団員の椿りょうさんも、かつて同じように無料で見た舞台に魅せられ、男役になった劇団員の一人。
【劇団員・椿りょうさん】
「舞台も高校生の時に一度見た時があって、そこでちょうどトップスターさんがされてて…目があったんですよね。トップさんと。人でも興味を持って、OSKに入りたいなって思える子がいたらいいなと思って演技をしています」
実際、2013年までは、40人を上回ることがなかったOSKですが、ネクストウェアと提携し、翌年から一気に劇団員が増え、今では57人になりました。
劇団員による地道な営業活動に加え、徹底したデータ戦略で客を増やし続けるOSK。しかし、浪速の名門歌劇団の復活はまだ坂道の途中です。