ーAM9:00 大阪市内某所ー
いくつかの班に分かれ、街を歩く屈強な男たち…。スーツケースを転がす観光客に、鋭い視線を向けています
大阪市保健所「違法民泊撲滅チーム」指導実動部隊・藤川徹副主幹「(Q.今からどちらに向かわれるんですか?)通報があった施設に調査に向かいます。」
彼らは、大阪市が組織した、届出がない違法な『ヤミ民泊』の根絶を目指すチーム。
藤川副主幹「(Q.朝9時から行く理由は?)10時とか11時に(宿泊客が)チェックアウトするので、チェックアウトの時間を狙って行きます。宿泊料金を払って泊まっているということであれば、宿泊事実が掴めますので、許可とかが無ければ違法が確定します。」
『ヤミ民泊』である実態を掴むために宿泊客と接触。金銭の授受があるのか、支払い先である事業者は誰なのか、を調査します。
調査員「ココやなぁ…、Goodmorning? ニイハオ? あっ、いるな…」
外国人観光客が出入りしているというマンションの一室。その調査結果は…
藤川副主幹「ダメでしたね…。(ドアの)前にゴミを置いていましたし、室内にも人がいる気配はあったんですけど、中々出て来ていただけなくて、今回はハズレでしたね。コンコン(ドアノック)しても出て来てもらえないことは結構あるので、何回か訪問して地道に。
また宿泊客が変わるので、違う事実を掴めるということもあるので、何回も行くしかないですね。」
浪速区役所。ここに、違法民泊の摘発を目指し日々奮闘する「撲滅チーム」の拠点があります。目標は、来月末に大阪で開催される「G20」までに違法民泊をゼロにすること。市の職員である「環境衛生監視員」と「警察OB」およそ70人が配置されています。この精鋭部隊をまとめているのが、旅館業指導担当部長の安井さんです。
大阪市保健所・旅館業指導担当部長の安井良三氏「民泊というのは、現場には営業者の方がいらっしゃらないんで、電話による調査も行っています。2018年2月の時点で、大手の仲介サイトには、民泊が1万4300件ほど掲載されていました。ほとんどが違法民泊という形になるんですけれども…」
結成から10カ月間で、2万回を超える現場調査を実施。結果、およそ4700件の『ヤミ民泊』を確認しました。そのおよそ9割の事業者に対し指導を行い営業許可を取らせたり、廃業させたりし、4月末時点で確認しているヤミ民泊は、”あと322件”という成果をあげています。
安井部長「(違法民泊が)322件まで減ってきているということなんですが、毎月新たに150件の施設が増えていきますので…」
短期間でかなりの成果を上げているものの、辞めさせた事業者が再び、別の場所で営業を始めたり、ここにきて状況はいたちごっこの様相を見せているのです。
安井部長「違法民泊で何が問題かといいますと、住民の安心安全がちゃんと確保出来ないということと、観光客として来られるお客様の安心安全が守れないということなので、特にやっぱり火災とか、過去には殺人事件等の凶悪事件の現場にもなってしまったことがありますから…。」
ヤミ民泊は、犯罪の温床と化す危険性が指摘されており、2018年2月には、女性がアメリカ籍の男にヤミ民泊内で殺害される事件も起こりました。
大阪北区にあるマンションには、少し前まで違法な民泊による苦情が相次いだそうです。管理人さんに話を聞きました。
管理人「(違法民泊が)7件ありました。1番のピーク時で。(Q・届出が出ているかどうかという状況ですか?)ヤミ(民泊)です。
全部。これは大変だということで、急遽(マンションの)規約に民泊は禁止という事項を載せたんです。」
そして、こんなモノを見せてくれました。
管理人「こういった中に部屋の鍵が入ってるんです。(カラカラと音がして)これにも入ってる。」
南京錠型ダイヤル式キーBOX。これがマンションの敷地の至る所にかけられていたといいます。サイトで民泊を予約した旅行者が事業者と顔を合わさず鍵を受け渡し、支払いも、ほとんどがインターネット上で行われているのです。
管理人「ちょっとハードな対応もしないといけないなということで。」
理事長と相談の上、業者に撤去してもらったそうですが…、その後も心配は尽きないといいます。
管理人「どこかで鍵の受け渡しをしている所があるんじゃないかなと、そんな心配もありました。噂によると、コンビニで鍵を預かっている所もあるらしいと聞いたので…」
取材中、道に捨てられた自転車のカゴでもキーケースを発見。近隣の飲食店が受け渡し窓口になっているケースもあるといいます。取り締まりを警戒する悪徳事業者たち。撲滅チームの調査も中々思うようには進みません。
ー「通報」のあった大阪市内のとあるマンションー
調査員「Sorry、from China?」
中国人観光客「上海からきました。」
部屋から出て来たのは年配の中国人女性。調査員はスマートフォンの翻訳アプリを使い質問を試みます。
調査員「お金はいくらくらい払われましたか?」
中国人観光客「私はお金のことは分かりません。」
調査員「お金払ったことだけは分かるね?」
中国人観光客「娘がやりとりしているので私は分かりません。」
調査員「娘さんは買い物か何かに出かけたのですか?」
中国人観光客「いいえ、動物園に行きました。」
5分ほど話を聞き、降りてきた調査員たち。
藤川副主幹「実際に旅行に来られていたのは、ご家族で来られたんですけど、留守番ということで、お母さんが1人でいらっしゃいました。宿泊料を払っているという事実は掴めたんですけれども、詳細は分からないということですので、しばらく泊まられているということですんで、もう1回来て、確認しようかなと思ってます。(Q.また行かれるんですか?)もちろん行きます。証拠を掴むまでは。」
観光客に直接、接触できるのは1日に数件。調査員たちは疑わしい物件に警告文も入れてまわります。
藤川副主幹「宿泊事実が掴めているような場合は警告文ということで、事務所の方に出てきて頂いてお話を聞かせて頂きたいという流れになりますね。度重なる指導をしたにも関わらず、違法民泊をやっているということであれば、警察とも連携して、最終的には告発ということもあり得ます。」
この警告文を受け取り、違法民泊の営業をやめた人物に話を聞くことができました。ここが、最近までヤミ営業していた部屋。
男性「ここで3LDK、民泊やるにはすごく良い間取りでして。(Q.1泊いくらぐらいでお貸ししていたんですか?)事業をやっていた時は、2~3万円。普通に賃貸で貸し出すよりも儲かっていました。(Q.届け出をしなかった理由は何かあるんですか?)色々あの手この手で出そうと思ったんですけど、マンション側がここは民泊営業は駄目です、と言われてたんで。」
法律を無視して収益を上げる”ヤミ民泊”。今、外国人の事業者も増えているといいます。
現地調査へ向かうチームの動きとは別に部長の安井さんは日々、行動を起こしています。この日向かっていたのは「大阪観光局」。調査の実態を報告し、さらなる調査活動がスムーズにできるよう関係各所に協力を依頼しているのです。
大阪観光局・溝畑宏局長「日本で唯一2018年、日本人と外国人の両方で旅行者が増えたのは大阪だけなんです。その1つの大きな成果の要因が、違法民泊チームが官民一体となって、機能したことが大きな要因です。住民の視点に立ってやられてるっていうことに本当に頭が下がります。」
関係各所の協力体制も1年前とは数段違ってきているとのことですが、安井部長は今、ヤミ民泊の調査・指導をよりスピーディーにできるようこんなことも考えています。
安井部長「私たちは最後、誰が営業してるかという営業者を特定していきたいので、水道とかガスとか電気の契約者の方がイコール営業者かどうか分かりませんけど、そういう方にも接触します。」
公共機関にも協力をあおぐ理由。その1つは…「摘発のかわされ方」が多様化している現状です。あの手この手で偽装を行う、違法なヤミ民泊。まれにこんなシーンも…
ー大阪市内のとあるマンションー
マンションの下で宿泊客らしき人物と遭遇、中国人のカップルのようです。
調査員「understand?」
話を聞くと調査対象の部屋に泊まっているとのこと。
中国人女性「友達の部屋です。」
友達の家だと主張する女性。さらに調査員が問いかけると…
中国人女性「わかりました。何を答えたらいいですか?」
すると女性は、部屋の関係者らしき人物に電話をかけ始めました。
中国人女性「下に降りたところで、大阪市の保健所の人に質問を受けています。」
現場の調査員たちは、電話の内容までは理解できません。
中国人女性「続けて『部屋代を払ったか?』と聞かれているけど、どうしたらいい?まだ答えてないけど。具体的には、まだ彼らに何も答えていないです。どうしたらいい?」
調査員「友達の家に泊まってるんやね。」
”台湾人の友達の家で無料で泊まっている”…。結局、それ以上は聞き出せませんでした。
安井部長「私達のような人が訪ねてきても『出るな』とか『出たとしてもフレンドと言いなさい』と。例えば、違法民泊の玄関ドアの裏側にそういうメモが貼ってあったり、SNSで伝達事項を発信したりとかそういう事例も残っています。」