全国で後を絶たない「仏像の盗難事件」
数百年も受け継がれてきた仏像が盗まれる背景には、何があるのでしょうか。
貴重な仏像を守るために、最新技術を使った新しい対策も始まっています。
仏像盗難事件の背景をツイセキ取材しました。
盗まれ、駐車場に「放置」された仏像
【梵音寺 小松原昭太 総代長】
「ここの所がめくられてあって、中の内カギを外して侵入したんです」
今年2月、和歌山県白浜町の梵音寺で仏像が盗まれました。
【梵音寺 小松原昭太 総代長】
「なんやねんて、ええー!というのが第一印象ですね。大切なもんは大切なもんやけど、高価なもんとかそういう意識はあまりなかった」
数百年間大切に保管されてきた仏像の盗難事件。
日々、当たり前のように拝んでいたことから、地元の人たちは大きなショックを受けました。
【梵音寺 小松原昭太 総代長】
「さみしいやん。なかったら。よりどころだと思いますよ」
しかし1ヵ月後、事件は急展開。
【記者リポート】
「和歌山県由良町の廃業したレストランの駐車場です。国道から見ると死角になるこの辺りに、仏像が置かれているのが見つかりました」
今年3月『梵音寺の仏像がある』と、白浜町役場に「匿名の電話」がありました。
今は梵音寺の近くの寺の住職が、仏像を保管しています。
【宝勝寺 清水大門住職】
「全国でこういった話はなんぼでもあると思う。地べたに置いてあったというものの、壊れる、傷むことなく返ってきていることが珍しいことやなと」
仏像の盗難。実は今、深刻な問題になっているのです。
仏像・神像の「闇マーケット」が存在か
和歌山県立博物館で開かれている展覧会。この展覧会、ありがたーい、仏様や神様をたくさん拝むことができるというだけではないんです。
【記者リポート】
「ご覧のようにたくさんの仏像や神像が展示されています。こちらをご覧ください。盗難被害を受けたと書いてあります。実はここには盗難を受けた仏像や神像が展示されています」
「盗難被害」と書かれている仏像や神像は、一度盗まれたものの、取り戻すことが出来たものなのです。
【和歌山県立博物館 大河内智之主任学芸員】
「現在仏像や神像はファンも多い、すそ野が広がっている中で需要が増えている。それに対して盗むという卑劣な犯罪を行って供給している人が出現してしまっている」
大河内さんによると、和歌山県内で、去年とおととしの2年間で、60体もの仏像などが相次いで盗まれたと言います。
なぜそんなことが起こるのでしょうか。
『500万円+仲介料』…犯人らから”交渉電話”が寺に
『1万1528ヵ所』
これは関西テレビの取材に対して回答があった、8つの宗派で住職が住んでいない寺の数です。
過疎化、檀家の減少、寺の運営が立ち行かなくなるなど、実に2割もの寺で住職が住んでいない状態になっているのです。
梵音寺も、40年以上住職が住んでいないことから狙われたとみられています。
窃盗グループと交渉をしたことがあるという住職が兵庫県加古川市にいました。
【鶴林寺 茂渡俊慶住職】
「犯人たちの侵入経路はあの木の扉ですね。平成14年の7月、小さな嵐が来た夜に入った」
聖徳太子が仏教を広めるために、建てた寺として知られる、鶴林寺。1430年の歴史を誇り、本堂や太子堂は国宝に指定されています。
17年前、窃盗グループは当時の宝物庫の扉をこじ開け、侵入しました。
【鶴林寺 茂渡俊慶住職】
「これは撮っていただいて結構です。複製したものです」
鶴林寺からは、国の指定文化財の掛け軸など8本が盗まれ、そのうち7本は取り戻すことができました。
それは、寺にかかってきた一本の電話がきっかけでした。
【鶴林寺 茂渡俊慶住職】
「『買い戻すんやったら口をきいてやるぞ』という男が接触してきました。ポラロイド写真を『この掛け軸探してないか』と持ってきました。そこで写真を見せてもらって、『これ間違いないな』と当時の住職と、『これ絶対間違いないわ』と。500万プラス、仲介料に50万乗せてくれと言われました」
警察と一緒に東京に行き、7本の掛け軸は金を支払わずに取り戻しましたが、残りの1本は今も行方不明のままです。
さらに…
【鶴林寺 茂渡俊慶住職】
「この修復だけでも、ものすごいお金と年月がかかりましたから」
Q:どのぐらいかかりましたか?
【鶴林寺 茂渡俊慶住職】
「5、千万。5000万円」
和歌山では3Dプリンターで仏像を複製
仏像の盗難被害を減らすために。
和歌山県立博物館の大河内さんは新たな取り組みを始めています。
【和歌山県立博物館 大河内智之主任学芸員】
「皆さんの力を借りて本物そっくりのお身代わり仏像を作って、実物は普段は博物館の収蔵庫で預かる」
この日、和歌山工業高校と協力して作るのは、誰も住んでいない県内の神社で祀られている神像のレプリカです。
【和歌山工業高校 児玉幸宗教諭】
「じゃあスキャンで」
大河内さんは、3Dプリンターを使う実習で仏像や神像のレプリカを作ることにしたのです。
【和歌山工業高校 児玉幸宗教諭】
「足のところちょっと削らなあかんな。ここな」
【和歌山工業高校の生徒】
「修正していいん?」
【和歌山工業高校 児玉幸宗教諭】
「うん、いいよ」
高校生が作ったレプリカの仏像を安置している寺が和歌山県紀の川市にあります。
【圓福寺 菅原一暢檀徒総代】
「愛染明王の立像は珍しいと。だからこれだけはこしらえてあげると言って。これは軽い。樹脂でやってくれた。ほとんど本物と変わらん」
圓福寺では8年前、11体もの仏像が盗難に遭いました。その後、3体を買い戻せましたが、本物は博物館に預けることにしたのです。
【圓福寺 菅原一暢檀徒総代】
「お坊さんに入魂してもらいましたので、どれもこれも拝むのに価値のあるものになっています。みんなが拝んでも何の問題もない。情けない。昔は泥棒でも仏さんや神仏の前をよけて通ったっていう話があるぐらいで、今は神仏を盗みに入って金にするという時代やから、えらい時代ですわ」
仏像や神像は、長い間それぞれの地域で親しまれてきました。
しかし、その心の拠り所を守るために苦肉の策まで使わざるを得ないのが、現実なのです。