警察庁によると、虐待などで緊急性が高いとされ警察が保護をした子供の数は、去年1年間で、過去最多の4500人を超えたといいます。
社会全体での取り組みが求められる一方、『子供は助けたいんだけれども、どう見守ったらいいかわからない』そんな風にお思いの方も多いのではないでしょうか。
こうした中、大阪府の門真市では行政と市民のボランティアが連携をして、子供たちが発する「SOSの種」を拾って、支援に結び付けているんです。
▶追い詰められ「虐待していたかも…」
大阪府門真市に住む増田さん(仮名)は、小学生など4人の子どもを男手一つで育てています。金銭的も、精神的にも、ぎりぎりの状況に追い詰められた増田さんは、子どもを虐待する一歩手前でした。
【増田さん(仮名)】
「このままでは、自分も頭の中がおかしくなって、虐待につながるのかなって少し感じることもありました」
1年半前、近所の人が、増田さんの子どもがいつも同じ服を着ていることに違和感を覚え、門真市に通報。門真市が支援に乗り出しました。
【増田さん(仮名)】
「なんでやねんっていう感じはありました。そこまでする必要はないやろと。自分のやってきたことが否定されるというか…」
当初はかたくなに支援を拒んでいた増田さんですが、門真市が新たに始めた「貧困対策」を受け入れ、虐待という事態は未然に防ぐことができました。
▶虐待は防ぎたいが…「通報への迷い」も
今月警察庁が発表した統計によりますと、去年1年間で虐待などの理由で緊急性が高いとして保護した子どもは過去最多の4571人。
国は早期発見を目指しています。しかし、街の人は…。
『泣き声とか聞こえたら通報してあげたいなって。どこに言いに行ったらいいのか警察でいいんやろか』
『やっぱり、よその家のことだと、どこまで入っていいのか躊躇させるとこがありますよね』
虐待や育児放棄などの言葉が頭をよぎっても、「本当に行われているのか自信が持てず、通報できない」というのです。
▶1000人を超えるボランティアで「SOSの種」を
こうした中、門真市は子どもを守る独自の取り組みを進めています。きっかけは3年前、大阪府などが実施した、子どもの生活実態のアンケート調査です。
その結果に、門真市に激震が走りました。最も生活が苦しい層の約1割の世帯が「就学援助」を受けたことがないなど、公的な支援が行き届いていない実態が分かったのです。
そこで門真市は、支援が必要な子供や家庭を見つけようと、対策に乗り出しました。
門真市では子どもたちが宿題をする場所を提供する人など、約1200人・市民の100人に1人が「子供たちを見守るボランティア」として登録しています。
中山文寛さんもボランティアの一人です。経営するレストランで月2回、無料で食事を提供する「こども食堂」をしています。
【中山さん】
「もし家以外の居場所を求めている子がいれば、その子たちのためにもなるかなとも思う気持ちもあって始めました」
夕方、学校帰りの子どもたちが「こども食堂」に続々と集まってきました。メニューはとんかつや焼きそばなど、子どもたちが自由に選べます。
【中山さん】「おかわりな、普通?小?」
【子ども】「小!」
【中山さん】「赤だし5つ?2つ?」
ここは、自宅でもない、学校でもない、新たな子供たちの「居場所」です。
▶”見守り”で得た情報を「行政と共有」
この日、中山さんには気になることがありました。
【中山さん】「あのでっかいやつはどないしたん?」
【子ども】「知らん、きょう4人しか来てない」
「学校に行っていない」「ごはんを食べていない」など「SOSの種」がいくつも落ちていました。
中山さんのレストランには、定期的に市の担当者がやってきます。
【中山さん】
「(Aさんは)昨日も子ども食堂に来るはずだったけど、来なかったからどうしたのかなって思っています。ただ、また来ると思います。彼女は一時よりは落ち着いているので。感情の波も」
【中山さん】
「(Bさんの)お母さんが、新しくタブレットをまた購入するみたいで、婚活アプリをお母さん入れている」
【門真市の担当者】
「余計に寂しさがつのっているんじゃないか、お母さんがそっちの方に行ってしまうんじゃないかと」
【中山さん】
「アプリをやってる最中は家に入れてもらえないんで、外に出されてカギ閉められるんで。ここら辺を自転車でうろうろしていて『いつでも入ってきていいんやで』と言っているやけど、前よりはうちに寄り付かなくなりましたね」
門真市ではこのようにボランティアから寄せられた情報を、市の職員やソーシャルワーカーなどで構成された「子どもの未来応援チーム」に引き継ぎます。「応援チーム」は子どもの家庭の状況を分析して、実際に家庭に赴くなどして対応に当たるのです。
警察や児童相談所ではない連絡先ができたことで、ささいな「SOSの種」が市に集まるようになりました。
▶SOSの種から…状況に応じた支援を
男手一つで、4人の子どもを育てている増田さん。門真市の、この仕組みで救われた一人です。増田さんは以前、運送関係の仕事をしていて、夜中に家を出ることが多く、子どもとの時間を持てませんでした。家は荒れ、子どもたちは、ほとんど学校に行かなくなりました。
昼間の仕事に転職した今でも、朝6時には家を出ます。
【増田さん(仮名)】
「まだこの時間はゆっくり寝てるんで、ほんまやったら起こして行かせてあげたいんですけど。『行くよ』と一声はかけてるんです」
門真市の「応援チーム」は、現在、週に1回、登校支援をしています。この日は、職員の中野さんが、子どもたちを迎えに来ました。
【中野さん】「おはよー」
家に入ってから30分。中野さんに起こされた小学生の兄が8時に、その後、妹が9時半に学校に向かいました。
【中野さん】「寒くない?大丈夫? 英語間に合ったらいいのになあ」
まだ、遅刻する日も多いですが、少しずつ、学校に行けるようになりました。
【中野さん】
「家っていうのは安心だし、子どもたちが一番安心していられる居場所だと思うんですけど、そこから一歩出ると厳しさもある。学校は1つの社会性を身に着ける一歩、家から出る一歩という風に思います」
さらに、「応援チーム」から、ひとり親家庭のための「児童扶養手当」の存在を教えてもらい、増田さんは月に数万円の支援を受けるようになり、家計の負担が大きく軽減されました。
Q:家の感じは変わった?
【増田さん(仮名)の子ども】
「ゴミ屋敷だったのが結構変わった。(前の仕事は)徹夜になる時が多かったから、結構、(お父さんと)遊べる時間が増えたかな」
【増田さん(仮名)】
「子どもたちと同じ日が休みになって、公園に連れて行くこともできた」
Q:遊びに行けるようになって嬉しい?
【増田さん(仮名)の子ども】
「うん」
すぐ近くにあるかもしれない「SOSの種」。”おせっかいのリレー”が家庭の孤立を防ぎ、子どもの明日を繋いでいます。